第4話「王都の商人が来た」
ルーナ村の老人の息子は、予想より早く来た。
報告書を送って四日後、馬車の音が聞こえた。俺が出ると、三十代の男が降りてきた。名前はパト。父親に似て目が細い。
彼は俺の顔を見て、それから前哨基地の廃墟を見て、それからもう一度俺の顔を見た。
「……本当にここで働いているんですか」
「はい」
「門番として」
「はい」
パトはしばらく黙っていた。おそらく、こんな場所に来ることになるとは思っていなかったのだろう。
「父から月銀石を見せてもらいました。本物なら、今すぐ金貨三枚出します」
「本物です」
「どこで手に入れましたか」
「仕事の関係です」
パトはまた沈黙した。
「……継続的に手に入りますか」
「条件次第です」
交渉は一時間かかった。
結果、こうなった。
俺が月銀石を月に二十個提供する。パトがそれを王都で売る。利益の三割を俺に渡す。残り七割はパト持ち。
パトにとっては破格の条件だ。月銀石二十個なら王都の卸値で金貨四十枚。その七割で金貨二十八枚が懐に入る。
俺にとっても悪くない。金貨十二枚は月給の七十二倍だ。
「……なぜそんな好条件を」
パトが疑うのは当然だ。
「俺に商才がないからです。売り先があなたしかいない」
「他に売ろうとは思わないんですか」
「今は思いません。こちらが信頼できる人間かどうか、まだわからない。わかるまでは一箇所に絞ります」
パトはしばらく俺を見ていた。
「……ギルドを通さないのは、なぜですか」
「ギルドに通すと巡察官に知られます。今は知られたくない事情があります」
「合法ですか」
「グレーです。ただ違法ではないと思っています」
パトはため息をついた。
「あなた、商人に向いてますよ」
「向いていません。ただ情報の非対称性は理解しています」
「それが向いているということです」
パトが帰った後、ゴブに報告した。
「取引が成立した。来月から食料と物資の供給が増える」
「外の者と取引したのか」
「したが、迷宮のことは話していない。月銀石の出所は伏せた」
「なぜ話さない」
「今は信頼関係を作る段階だ。全部話す必要はない」
ゴブは少し考えてから言った。
「……調停者は、外でも交渉をするのか」
「全部、交渉だ」
ゴブがまじまじと俺を見た。
「お前は不思議な人間だ」
「そうか」
「俺たちが最初に来た時、逃げなかった。話を聞いた。交渉をした。普通の人間はそうしない」
「逃げても意味がなかった。聞いてから判断するのが早い」
「だが怖くなかったのか」
俺は少し考えた。
「怖かったかどうかより、何が起きているかを知りたかった。それだけだ」
ゴブはしばらく黙っていた。それから言った。
「……調停者が来る前、俺たちは諦めていた。23層の影は広がっている。外に助けを求める方法もない。このまま飲み込まれると思っていた」
「今は違うのか」
「まだわからない。でも——」
ゴブが続けた。
「話を聞いてくれる人間がいる。それだけで、少し違う」
夜、スキルを確認した。
【迷宮管理 Lv.1(経験値:58/100)】
経験値の条件がわかってきた。交渉が成立するたびに増える。成立の規模が大きいほど、増加量が多い。
つまり——もっと大きな交渉をすれば、レベルが上がる。
レベルが上がれば、何ができる?
スキルの説明には何も書いていない。試すしかない。
【第七迷宮 現在状態】
次回出口接触予測:明日未明
接触予定個体数:3体
種別:上位ゴブリン(ゴブリンシャーマン)
明日も来る。
俺はそれを確認してから眠った。
◆ 次話「第5話:スキルが覚醒した夜」




