第312話
光を見ていた。
「私の横でゴブリンが泣いているのを見ました。魔物が涙を流しているのを、生まれて初めて見た。あれはレンが連れてきた存在でした。その涙を見て、私は初めて知りました——誰かの涙を通じて、自分の中にあるものを知る。そういうことが起きると。
私はそこで初めて、手放そうと思いました。
何かを一人で持ち続けることを、少しだけ、やめてみようと。世界が崩れるかもしれないと思いながら。また誰かの命を左右する判断をするかもしれないと思いながら。でも聞かなかったら、私は一人で正しくあり続けるだけだ——それが一番怖いと、気づいてしまったから」
俺は目を伏せた。
あの夜のことを覚えている。カーラが一人で俺の詰所を訪ねてきた夜。「今夜だけ、話を聞いてもらえますか」と言った声と、そのときの彼女の顔。
どれだけ疲れていたか、言葉より前に表情が教えてくれた。
そのとき俺はただ聞いた。何もしなかった。何も言わなかった。それだけだった。でも彼女は後に「あなたに会えてよかった」と言った。
俺には今でも、それが何だったのかよく分からない。ただ聞いただけなのに。
でも今、彼女は別の誰かに向けて話している。俺には話してくれなかった部分を。
「あなたは、誰かに「ありがとう」と言われたことがありますか。
私もずっと、そういう機会を作らなかった。正しくあり続けることに集中して、誰かに受け取ってもらうことを避けていた。受け取られると、また揺らぐから。
でも人間は——手放したときに、初めて受け取れる。誰かの声が、届くようになる。あなたが今、受け取っているのかどうか——私には分かりません。でも、届いていたらいいと思っています」
判定者の光が、また細かく揺れた。
「あなたが何を抱えているのか、私には正確には分かりません。でも、一人で世界を分けてきたというのなら——きっと、私が知っているよりずっと重いものを、ずっと長い間、抱えてきたのだと思います。
千年を超えて。誰にも聞かれることなく。
私は副司令として十数年を一人で背負っていただけで、あのときの重さを今も思い出します。あなたの重さが、どれほどのものか——想像もできません」
判定者の光が、止まった。
揺れが、一瞬だけ、完全に止まった。
「手放したとき——最初に感じたのは、恐怖でした。
次に感じたのは、軽さでした。肩に何かが乗っていたのだと、外れて初めて知りました。
そして三つ目に感じたのが——」
カイルの声が、わずかに揺れた。
「——寂しさでした。それだけ長く、その重さが自分の一部になっていたから」
「……寂しい」
判定者の声だった。
分類の言語ではなかった。ただの一語だった。でもその一語が、深いところから来ているのが分かった。
ゴブが息を呑んだ。来た者は静止したまま、何かを受け取るように光の揺れを見ていた。カイルが端末を握ったまま固まった。
俺は動かなかった。
「続きを読んでくれ」と、静かに言った。
カイルが、また読み始めた。
「でも」
短い言葉だった。でも、そこに全部がある気がした。
「寂しかったけれど——少し経ったとき、気づきました。私の隣には、もう誰かがいた。
手放す前には見えていなかった人たちが、見えるようになっていた。それが寂しさの中に、静かに混じっていました。
その後、私は何度も判断しました。また怖かった。でも怖い中で——隣に誰かがいた。「まあ、聞いてから判断しよう」という言葉を、今度は私自身が言えるようになっていた。
手放したことで、私は弱くなったのではなかった。
手放すまで、その重さを使って立っていたと思っていましたが——違った。重さを置いたとき、初めて足の下に地面があると気づきました。ずっとそこにあったのに、重さが邪魔して感じられていなかった」
判定者の光が、ゆっくりと広がった。
「あなたが何を手放せるのか、私には分かりません。千年を一人で積み上げてきたものを、どう置けるのか——想像もできません。
でも一つだけ、私には言えることがあります」
カイルが、端末を持つ手をわずかに上げた。
最後の一文だと、分かっているのだろう。
「手放しても——世界は、終わりませんでした」
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