↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層の正体

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/315

第30話「扉の前で」

第一部・完



 



 ミアが来た。


 通路を使って、向こうの世界からこちらに来た。


 今度は一人ではなかった。


 光の体が二つ。ミアと、もう一人。形が少し違う。


「ミア」


『——来た——約束通り——』


「向こうは誰だ」


『——弟——一緒に来たいと言った——ダメだったか——』


「構わない。歓迎する」



 



 ミアの弟——名前はアオ——は初めての異世界に戸惑っていた。


 形が安定しない。出たり消えたりする。


『——姉さん——ここ——なんか重い——』


『——慣れる——少しずつ——』


「重いというのは、この世界の重力か」


『——なんか全体的に——濃い——』


「霧の世界は薄いのか」


『——そうだ——ここは——情報が多い——』


 情報が多い。


 植物、風、土の匂い、人間の声、迷宮民の声。全部が初めてのものだ。



 



 ゴブがアオを見た。


「……霧は弟もいるのか」


「今日初めて知った」


「家族がいるんだな」


「いるみたいだ」


 ゴブが少し考えてから、アオに近づいた。


「こんにちは」


『——?——』


「ゴブリン、というもの。迷宮に住んでいた」


 ミアが通訳した。アオが揺れた。


『——迷宮民——聞いたことある——姉さんから——』


「会ったことは?」


『——ない——怖い——と思っていた——』


「怖くないか?」


 ゴブが腕を広げた。


『——……小さい——』


「失礼だな」


 ミアが笑った——揺れ方で、笑っていることがわかった。



 



 全員が施設の前の広場に集まった。


 グレン、ドルグ、カイル、エリア、じいさん。ゴブ、ヴァル、シル、迷宮民の子供たち。ミアとアオ。


 それと俺。


 前哨基地に来た最初の夜とは、全然違う場所になっていた。


 ゴブが言っていた——変わらないと思っていた場所が、気づいたら変わっている。



 



 エリアがアオに話しかけ始めた。学者の目をしていた。


「向こうの世界について教えてもらえますか。言語はありますか。文化は——」


 アオが圧倒されていた。


 ドルグがカイルに言った。


「エリアは止まらないな」


「いつもこうだ」


「次の迷宮攻略の情報、そろそろ聞いてもいいか」


「今日じゃなくていいか。記念日っぽい日だから」


「それもそうか」



 



 グレンが俺の横に来た。


「……本当に終わったな」


「第一部が終わった、という感じです」


「第二部があるのか」


「ミアの世界と正式に交流が始まれば、次の問題が出てきます。霧の世界の規則、こちらの世界への影響、経済的な関係——」


「止まれないな」


「止まらなくていいと思っています」


 グレンが俺を見た。


「お前は、いつかここを出るつもりはないのか」


「ここが俺の場所です」


「門番として?」


「外交官として。ただ——扉の前に立っているという意味では、最初から変わっていない」



 



 夕方になった。


 ミアとアオが帰る時間だ。


「また来るか」


『——来る——定期的に——向こうで、こちらの話をするつもりだ——来たい者が増えるかもしれない——』


「歓迎する。扉は開けておく」


『——レン——』


「なんだ」


『——お前は——良い調停者だ——』


「ありがとう。お前も——良い最初のゲストだった」


 ミアが揺れた。


 アオが『また来る』と言った。ゴブに向かって。


 ゴブが「また来い」と返した。



 



 扉が閉じた。


 二つの光が消えた。


 全員が少し静かになった。


 シルが古語で何か言った。ヴァルが訳した。


「『次はいつ来るのか』と聞いている」


「来月には来ると言っていた」


「そうか」


 シルが少し笑った。


「楽しみ、と言っています」



 



 夜になった。


 全員が帰って、ゴブと俺だけが残った。


 例によって。


「今日は大勢来たな」


「大勢来た」


「お前の最初の夜は、俺一人だった」


「そうだな」


「あの時、俺はお前のことを信用していなかった」


「当然だろ」


「今は信用している」


「俺もだ」


 ゴブが空を見た。


「……扉が開けられた。霧の世界とも繋がった。子供たちは学校に行っている。迷宮の民が外にいる」


「全部、起きた」


「信じられないな」


「俺も最初は信じていなかった」


「でもやった」


「やった」



 



 ゴブが俺を見た。


「調停者」


「なんだ」


「お前は、ここに来て——良かったか」


 俺は少し考えた。


「良かった」


「なぜ」


「話を聞く仕事をしている。前世も今世も変わらない。ただここでは——もっと大きな話を聞ける」


「もっと大きな話?」


「四百年分の話。霧の話。お前の話。全部が繋がっている話」


「それは——面白いか」


「面白い。この世界に来て一番良かったことだ」


 ゴブが少し間を置いた。


「……俺も、面白かった。最初の夜からずっと」



 



 扉の前に、灯りが一つある。


 前哨基地の、正門の前。


 最初に来た時から、俺が毎晩灯している。


 ゴブが来た夜も、シルが来た夜も、グレンが来た朝も、全部ここから始まった。


 調停者の仕事は——扉の前で待つことだ。


 話しかけてくる誰かを待つ。


 そして言う。


「まあ、聞いてから判断しよう」


 それだけで、世界は少しずつ変わる。


 俺はそれを知っている。



 



【第一部 完】


 第二部「霧の世界の使者たち」予告:

ミアが伝えたこの世界の話が向こうに広まり、霧の世界からの訪問者が増え始める。一方、王国内部では条約批准を巡って反対勢力が台頭。レンは新たな交渉の舞台——王都——に初めて足を踏み入れることになる。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


毎日昼・夜の2回更新中です。続きが気になったら、ブックマークで追いかけてもらえると嬉しいです。


もしこの話が面白かったら、☆評価をいただけると本当に助かります。

なろうの評価は日間・週間ランキングに直結するので、1クリックが「次の100話」を書く燃料になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。