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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層の正体

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第30話「扉の前で」

第一部・完



 



 ミアが来た。


 通路を使って、向こうの世界からこちらに来た。


 今度は一人ではなかった。


 光の体が二つ。ミアと、もう一人。形が少し違う。


「ミア」


『——来た——約束通り——』


「向こうは誰だ」


『——弟——一緒に来たいと言った——ダメだったか——』


「構わない。歓迎する」



 



 ミアの弟——名前はアオ——は初めての異世界に戸惑っていた。


 形が安定しない。出たり消えたりする。


『——姉さん——ここ——なんか重い——』


『——慣れる——少しずつ——』


「重いというのは、この世界の重力か」


『——なんか全体的に——濃い——』


「霧の世界は薄いのか」


『——そうだ——ここは——情報が多い——』


 情報が多い。


 植物、風、土の匂い、人間の声、迷宮民の声。全部が初めてのものだ。



 



 ゴブがアオを見た。


「……霧は弟もいるのか」


「今日初めて知った」


「家族がいるんだな」


「いるみたいだ」


 ゴブが少し考えてから、アオに近づいた。


「こんにちは」


『——?——』


「ゴブリン、というもの。迷宮に住んでいた」


 ミアが通訳した。アオが揺れた。


『——迷宮民——聞いたことある——姉さんから——』


「会ったことは?」


『——ない——怖い——と思っていた——』


「怖くないか?」


 ゴブが腕を広げた。


『——……小さい——』


「失礼だな」


 ミアが笑った——揺れ方で、笑っていることがわかった。



 



 全員が施設の前の広場に集まった。


 グレン、ドルグ、カイル、エリア、じいさん。ゴブ、ヴァル、シル、迷宮民の子供たち。ミアとアオ。


 それと俺。


 前哨基地に来た最初の夜とは、全然違う場所になっていた。


 ゴブが言っていた——変わらないと思っていた場所が、気づいたら変わっている。



 



 エリアがアオに話しかけ始めた。学者の目をしていた。


「向こうの世界について教えてもらえますか。言語はありますか。文化は——」


 アオが圧倒されていた。


 ドルグがカイルに言った。


「エリアは止まらないな」


「いつもこうだ」


「次の迷宮攻略の情報、そろそろ聞いてもいいか」


「今日じゃなくていいか。記念日っぽい日だから」


「それもそうか」



 



 グレンが俺の横に来た。


「……本当に終わったな」


「第一部が終わった、という感じです」


「第二部があるのか」


「ミアの世界と正式に交流が始まれば、次の問題が出てきます。霧の世界の規則、こちらの世界への影響、経済的な関係——」


「止まれないな」


「止まらなくていいと思っています」


 グレンが俺を見た。


「お前は、いつかここを出るつもりはないのか」


「ここが俺の場所です」


「門番として?」


「外交官として。ただ——扉の前に立っているという意味では、最初から変わっていない」



 



 夕方になった。


 ミアとアオが帰る時間だ。


「また来るか」


『——来る——定期的に——向こうで、こちらの話をするつもりだ——来たい者が増えるかもしれない——』


「歓迎する。扉は開けておく」


『——レン——』


「なんだ」


『——お前は——良い調停者だ——』


「ありがとう。お前も——良い最初のゲストだった」


 ミアが揺れた。


 アオが『また来る』と言った。ゴブに向かって。


 ゴブが「また来い」と返した。



 



 扉が閉じた。


 二つの光が消えた。


 全員が少し静かになった。


 シルが古語で何か言った。ヴァルが訳した。


「『次はいつ来るのか』と聞いている」


「来月には来ると言っていた」


「そうか」


 シルが少し笑った。


「楽しみ、と言っています」



 



 夜になった。


 全員が帰って、ゴブと俺だけが残った。


 例によって。


「今日は大勢来たな」


「大勢来た」


「お前の最初の夜は、俺一人だった」


「そうだな」


「あの時、俺はお前のことを信用していなかった」


「当然だろ」


「今は信用している」


「俺もだ」


 ゴブが空を見た。


「……扉が開けられた。霧の世界とも繋がった。子供たちは学校に行っている。迷宮の民が外にいる」


「全部、起きた」


「信じられないな」


「俺も最初は信じていなかった」


「でもやった」


「やった」



 



 ゴブが俺を見た。


「調停者」


「なんだ」


「お前は、ここに来て——良かったか」


 俺は少し考えた。


「良かった」


「なぜ」


「話を聞く仕事をしている。前世も今世も変わらない。ただここでは——もっと大きな話を聞ける」


「もっと大きな話?」


「四百年分の話。霧の話。お前の話。全部が繋がっている話」


「それは——面白いか」


「面白い。この世界に来て一番良かったことだ」


 ゴブが少し間を置いた。


「……俺も、面白かった。最初の夜からずっと」



 



 扉の前に、灯りが一つある。


 前哨基地の、正門の前。


 最初に来た時から、俺が毎晩灯している。


 ゴブが来た夜も、シルが来た夜も、グレンが来た朝も、全部ここから始まった。


 調停者の仕事は——扉の前で待つことだ。


 話しかけてくる誰かを待つ。


 そして言う。


「まあ、聞いてから判断しよう」


 それだけで、世界は少しずつ変わる。


 俺はそれを知っている。



 



【第一部 完】


 第二部「霧の世界の使者たち」予告:

ミアが伝えたこの世界の話が向こうに広まり、霧の世界からの訪問者が増え始める。一方、王国内部では条約批准を巡って反対勢力が台頭。レンは新たな交渉の舞台——王都——に初めて足を踏み入れることになる。

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