第27話「ミアを送り出す」
Lv.5のスキルを確認した。
【世界の扉】
異なる世界の間に一時的な通路を開く。
使用条件:当事者間の合意が成立していること。
使用回数:無制限。ただし通路の維持には調停者の意思が必要。
一時的な通路。
ミアが帰るための道だ。
「ミア」
『——なんだ——』
「帰る準備ができた」
長い沈黙。
『——怖い——』
「帰るのが怖いか」
『——ここに——長くいた——元の場所に——まだ——あるか——』
四百年。
四百年、この世界にいた。元の世界がどうなっているか、ミア自身もわからない。
「わからない。ただ——帰って確かめる方がいい。ここにいても、あちらは変わらない」
『——そうだ——な——』
「いつでもここに来れる。扉は俺が維持する。また会える」
ミアが長い間、揺れていた。
『——約束——か——』
「約束だ」
エリアが魔法陣を完成させた。
「準備できました。調停者のスキルと、この魔法陣を同期させます。ミアが向こう側に抜ける時に、道が安定します」
「いつでもいい」
「……こんなことができると思っていなかった」
「何が」
「別の世界への扉を開くことが。理論的には知っていましたが、実際にやるとは」
「エリアなら絶対うまくやる」
「根拠は」
「今まで全部うまくやっているから」
エリアが少し笑った。
「そういうこと言うようになりましたね、最近」
「そうか」
「初めて会った時は、もっと事務的でした」
「関係が変わったからかもしれない」
全員が後退した。エリアだけが魔法陣の中央に残った。
俺がスキルを起動した。
【世界の扉——起動】
空間に、裂け目が生まれた。
縦に長い、光の線。
線が広がって、扉の形になった。
向こう側が見えた——白い光。形がない世界。あるいは、俺には認識できない形の世界。
ミアが動いた。
光の体が、扉に向かって流れていった。
扉の縁で、一度止まった。
『——レン——』
「なんだ」
『——ありがとう——』
「ゆっくり帰れ」
『——また——来る——』
「待っている」
ミアが扉を抜けた。
光が消えた。
扉が閉じた。
23層が、静かになった。
四百年間、そこにいた何かが、いなくなった。
誰も何も言わなかった。
しばらくして、ゴブが俺の隣に来た。
「……終わったか」
「終わった」
「ミアは——帰れたのか」
「帰れた」
「また来るのか」
「そう言っていた」
ゴブが23層の扉を見た。もう霧はない。ただの石の扉だ。
「……きれいさっぱりしているな」
「四百年分だからな」
「お前は寂しくないか」
俺は少し考えた。
「ミアと話せる扉は維持している。また来た時に話せる。寂しいとは違う」
「俺は少し寂しい」
「なぜ」
「大きな仕事が終わった感じがする。これからは——普通になるのか」
「ならない」
「ならないか」
「契約書の第三章には迷宮の民の外界との関係が書いてある。これを実際に機能させる仕事が残っている。第四章には人間が守るべき義務がある。それを徹底させる仕事もある。第五章には調停者の継承がある」
「……それは、これからも忙しいということか」
「かなり忙しい」
ゴブが「そうか」と言った。
「それなら——寂しくはないな」
全員が地上に戻った。
青空だった。春の空。
グレンが俺の肩を叩いた。
「お前、十七歳だったか」
「はい」
「信じられないな」
「俺も信じられません」
ドルグが笑った。
「俺は信じる。目の前で見たから」
リーンが手を差し出した。
「王国として、正式に感謝します」
「ありがとうございます」
「ただし、これで終わりではありません。契約書の実施が始まります。外交官補として、引き続きよろしく」
「よろしくお願いします」
カイルが俺の横に来た。
「終わったな」
「終わった」
「Aランク試験、受けてみようかと思う」
「第七迷宮35層か」
「今の俺なら行ける気がする。情報もある」
「行けると思う」
「一緒に来るか」
「俺は迷宮の入口に立っているから、戻ってきたら出迎える」
カイルが笑った。
「門番らしい答えだ」
「門番だからな」
夜、じいさんが俺に言った。
「見届けた」
「何を」
「初代が始めて、百二十年止まっていたことの続きを」
「続きはまだあります」
「知っている。ただ——始まったのを見た。それで十分だ」
じいさんが空を見た。
「俺も少し寝る。百二十年ぶりに、心置きなく眠れる気がする」
「おやすみなさい」
「おやすみ。調停者」
【迷宮管理 Lv.5(経験値:0/???)】
上限が表示されない。
まだ先がある、ということだ。
◆ 次話「第28話:その後のこと」




