表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層の正体

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/74

第25話「草案を巡る攻防」

王国の法務部門が草案を読んだ。


 返ってきた修正案は、草案の三倍の分量だった。


「……全部読む必要があるか」


 グレンが苦い顔をしていた。


「必要です」


 俺は一日かけて読んだ。


 要点を整理すると、こうだ。王国は「迷宮の民の地位」に関する条文を全部削除したがっている。「霧との関係」は認めるが「迷宮の民を外界の存在として認める」条文は受け入れられない、という立場だ。


「なぜですか」


 俺はグレンに聞いた。


「法的に前例がないからだ。魔物を外界の存在として認めるということは、権利を認めることに繋がる。そうなると——迷宮の攻略が——」


「難しくなる?」


「そうだ。迷宮の民に権利があるなら、彼らを攻撃することは問題になる」


「それは問題ではないと思いますが」


「俺もそう思う。ただ、ギルドと冒険者と、迷宮攻略で生計を立てている人間は大勢いる」



 



 俺はヴァルを呼んだ。


「迷宮の民の地位について、妥協できる部分を教えてほしい」


「妥協?」


「王国が全面的に認めることは難しい。ただし部分的に認める形なら可能かもしれない」


 ヴァルが少し考えた。


「……俺たちが必要なのは、外に出る権利ではない。外に出た時に、攻撃されない保証だ」


「攻撃されない、というのは」


「話しかけた時に、問答無用で斬られない。それだけでいい。今のルーナ村みたいな状況が、どこでも成り立てば十分だ」


 なるほど。


 「権利」という言葉を使わなくていい。「不可侵の合意」という形にすれば、法的な前例問題を避けられる。



 



 俺は修正案を書いた。


 第三章を全面改訂。「迷宮の民の地位」という表現をなくした。代わりに「調停者の管轄下にある知性体との不可侵協定」という条文にした。


 王国に送った。


 三日後、返事が来た。


「受け入れられます」



 



 次はドルグだった。


「冒険者ギルドの立場から、一つ入れてほしい条文がある」


「聞きます」


「迷宮の素材の取引を正式なルートとして認める。ただし、価格については協議機関を設ける」


「協議機関?」


「ギルドと調停者と迷宮の民で、素材の価格と供給量を話し合う場だ。俺が一人で間に入り続けるのは限界がある」


 俺は少し考えた。


「それは合理的です。ただ——迷宮の民が協議機関に参加することを、王国側は認めますか」


「俺が通す。顔を売ってきた十五年が役に立つ場面だ」



 



 草案の修正が三回目に入った頃、エリアから手紙が来た。


「封印の研究で一つ発見がありました。霧が元の世界に帰る際に、特定の魔法的な手順が必要です。調停者の迷宮管理スキルと、魔導師の補助が同時に必要になります。私が立ち会わなければいけません」


 返信した。


「三者の契約当日に来てください。立ち会います」


「当日? それは——」


「練習する時間はないので、本番一発で」


 返信が来た。


「あなたとの仕事は毎回こうですね」


「すみません」


「謝らなくていいです。面白いので」



 



 五ヶ月が経過した。


 封印強度は78%まで回復していた。


 施設の迷宮民は四十二体になっていた。上層からの難民が増え続けている。


 ルーナ村との関係も深まった。村人が施設に薬草を持ってくるようになった。ゴブリンの子供が村に行って、野菜をもらってくる日もある。


 何も決まっていないのに、現場は勝手に前に進んでいた。



 



 じいさんがある夜、俺に言った。


「契約の後、お前はどうするつもりだ」


「どうする、というのは」


「霧が帰って。迷宮の民の問題が落ち着いて。その後も、ここにいるのか」


「いますよ。調停者の仕事は続きます」


「ずっとここで?」


「今のところはそのつもりです」


 じいさんが少し笑った。


「お前が来るまで、俺は百二十年、誰ともまともに話せなかった」


「それは大変でしたね」


「今は——毎日、誰かと話している。ゴブとも。カイルとも。エリアから手紙も来る」


「良かった」


「良かった」


 じいさんが空を見た。


「続きを見たい。お前がこれからどうするか」


「見ていてください。長くなりますよ」


「百二十年待ったんだ。まだ余裕がある」



 



【迷宮管理 Lv.4(経験値:312/500)】

【封印強度:78%】

【残り猶予:約3ヶ月】



 



 ◆ 次話「第26話:三者が集う日」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ