第23話「王都から使者が来た」
グレンが上層部に報告した結果が来た。
王都から使者が来た。
使者の名前はリーン・ハウエル。三十代、短い金髪、目が細い。王国の外交部門の次官だ。
俺の前哨基地を見て、何も言わなかった。施設を見て、何も言わなかった。ゴブを見て、少しだけ止まったが、何も言わなかった。
「グレン査察官から報告を受けました」
「はい」
「信じがたい内容でしたが——来て、少し信じる気になりました」
「そうですか」
「三者の契約、とのことですが」
「はい」
「王国として、正式に関与することを検討しています」
俺は少し考えた。
「検討、というのはまだ決まっていないということですか」
「そうです。条件があります」
「聞きます」
リーンの条件は三つだった。
「一つ。契約の内容を事前に王国の法務部門が確認する。国際条約に準ずる内容が含まれる場合、王国議会の承認が必要になります」
「わかりました」
「二つ。迷宮の民の代表と、事前に非公式な接触の機会をいただきたい。王国として、相手が誰かを確認する必要があります」
「調整します」
「三つ」
リーンが少し間を置いた。
「調停者であるあなたの身分を、王国として正式に保証していただきたい。現在の『公式任命』では権限が限られます。この契約を結ぶ調停者として、より上位の身分が必要です」
「上位の身分とは」
「王国外交官補に準ずる資格です」
俺は少し止まった。
「……それは、俺が王国の人間になるということですか」
「国籍は変わりません。ただ——外交交渉における権限と、それに伴う保護が付きます」
「断ることはできますか」
「できます。ただし断った場合、王国は今回の契約に正式に関与しません。グレン査察官個人の関与は続きますが、国としての保証は外れます」
俺はしばらく考えた。
王国の外交官補。
肩書きが増える。縛りが増える。
でも——今回の契約を「非公式」で終わらせた場合、後が続かない。霧が元の世界に帰った後の世界の変化に、王国が対応できない。
「条件を一つ追加させてください」
「なんですか」
「俺の所属は王国外交部門ではなく、引き続き王国辺境管理局——つまりグレン査察官の管轄のままにしてほしい。外交官補の権限は付けてもらうが、指揮系統は変えない」
リーンが少し目を細めた。
「……なぜですか」
「グレン査察官は信頼しています。外交部門のあなたは、今日会ったばかりです」
率直に言った。
リーンが少し間を置いてから、笑った。
「……正直ですね」
「時間がもったいないので」
「わかりました。その条件なら受けられます」
翌日、リーンとゴブが会った。
リーンが「こんにちは」と言った。ゴブが「こんにちは」と返した。
リーンが少し固まった。
「……流暢に話しますね」
「調停者が教えてくれた。もっと上手い奴もいる」
「上手い奴?」
ヴァルが出てきた。完璧な人間語で「はじめまして」と言った。
リーンが固まった。
シルが古語で何か言った。ヴァルが訳した。「あなたの服は綺麗だと言っています」。
リーンが固まったまま俺を見た。
「……本当にいるんですね、こういう方々が」
「います」
「文書では信じきれなかった」
「実際に会うのが一番早いです」
リーンが帰り際に言った。
「王国に戻って報告します。正式な関与を勧めます」
「ありがとうございます」
「あなたは——いつからこういうことをやっているんですか」
「この前哨基地に来た日からです」
「何ヶ月ですか」
「二ヶ月と少しです」
リーンが俺を見た。
「……グレン査察官が『変わった子供だ』と言っていた理由がわかりました」
「子供じゃないですが」
「十七歳は子供です。ただ——子供じゃない部分もある」
「どちらですか」
「両方です。それが強みだと思います」
【迷宮管理 Lv.4(経験値:112/500)】
◆ 次話「第24話:カイルの選択」




