第22話「準備を始める」
三者の契約に向けて、やることを整理した。
紙に書いた。
```
1. 霧の「本当の要求」を確認する(元の世界に帰りたいのか?)
2. 迷宮の民の代表を決める(ゴブ?ヴァル?シル?)
3. 人間側の代表を確定する(グレン+ドルグ?王国上層部が必要か?)
4. 契約の内容を草案する
5. 三者が同じ場所に立てる場所を作る
```
五つ。
六ヶ月で全部終わらせる。
まず霧に接触した。
「聞きたいことがある」
『——なんだ——』
「元の世界に帰りたいか」
長い沈黙。
『——帰りたい——ずっと——ここは合わない——』
「帰る方法がある。ただし、この世界との規則を決めてからでないと難しい。一緒に決めてもらえるか」
『——規則——とは——』
「どちらの世界からどちらに行けるか。何を持ち込んでいいか。いけないか。お互いが守るべきこと」
『——難しい——』
「俺が手伝う。お前が決めることは、自分に関することだけでいい」
また長い沈黙。
『——信用して——いいのか——』
「信用していい。約束したろ」
『——わかった——任せる——』
次にゴブとヴァルとシルに聞いた。
「迷宮の民の代表者を決めたい。三者の契約に参加してもらう」
三人が顔を見合わせた。
「代表とは——誰が決めるのか」
「あなたたちが決めてください。俺が指名するものじゃない」
しばらく迷宮語で話し合いがあった。
ヴァルが言った。
「三人で出る。下層の代表としてゴブ、シャーマン代表として俺、上層の代表としてシルだ」
「シルは言葉が」
「俺が通訳する。ただし——シルは外見の印象が強い。人間側に、迷宮の民が多様であることを示せる」
なるほど、政治的な計算だ。
「わかりました。三人で」
グレンに手紙を送った。
「三者の契約を正式に行いたい。王国の代表として、グレン査察官とドルグ氏の二名をお願いしたい。日時は調整します。ただし——できれば王国の上層部にも知らせてほしい。この契約は、後で国家間の条約に発展する可能性があります」
グレンの返事は五日後に来た。
「わかった。上層部への報告は俺が引き受ける。ただし——最初は極秘で進めてくれ。上が動くと話が複雑になる」
場所の問題が残った。
三者が同じ場所に立つ。人間と迷宮の民と霧が。
霧は23層にいる。人間は地上にいる。迷宮の民は施設にいる。
どこで行うか。
俺は迷宮に入った。1層から23層まで。今は一人でも行ける——スキルが内部接続モードになってから、周囲の状況が筒抜けだ。魔物と鉢合わせることがない。
23層の扉の前に立った。
霧が薄く漏れている。
「聞こえるか」
『——聞こえる——』
「契約の場所として、23層の入口付近を使いたい。霧を一時的に抑えてもらえるか。人間が入れるくらいに」
『——できる——どのくらい——』
「半日。それで十分だ」
『——わかった——いつでも——言ってくれ——』
準備が整ってきた。
じいさんが俺を手伝い始めた。
契約の草案を書くのは俺だが、古代の規則や先例はじいさんの知識が必要だった。
「初代が草案を作っていた。未完だが、ここから始めれば早い」
じいさんが革張りの古い本を出した。四百年前の文字で書かれている。
「読めますか」
「現代語に直せる。時間はかかるが」
「お願いします。報酬は——」
「いらない。これが俺の仕事だ。百二十年待っていた仕事だ」
三週間が過ぎた。
草案が形になってきた。
ゴブが俺の作業を覗き込んで言った。
「難しそうなことを書いている」
「規則の話は複雑になる」
「お前は楽しそうだ」
「楽しい」
「なぜ」
「難しい問題を解いている時が一番頭が動く。前世も今世も変わらない」
ゴブが「変な奴」と言った。
「よく言われる」
「褒めている」
【迷宮管理 Lv.4(経験値:67/500)】
【封印強度:72%(安定)】
【残り猶予:約5ヶ月】
◆ 次話「第23話:王都から使者が来た」




