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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層の正体

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第21話「老人が語る」

老人——便宜上、じいさんと呼ぶことにした——は施設の一室に落ち着いた。


 百二十年ぶりの外の空気を「思ったより普通だ」と言った。


 翌朝、俺はじいさんに向かい合って座った。


「聞きたいことがある」


「全部答える。ここに百二十年いた理由の一つは、この知識を誰かに渡すためだ」


「封印の本当の目的を教えてください」


 じいさんが少し間を置いた。


「本当の目的、か。資料には書いていないからな」


「知っているんですか」


「口伝だ。初代から二代目、二代目から俺に伝わった」



 



「四百年前、霧はこの世界に存在しなかった」


 じいさんが話し始めた。


「霧は別の世界からきた。正確には——別の層の世界から」


「別の層?」


「この世界の下に、もう一つの世界がある。霧はそこの住人だ。何かの拍子に、この世界に迷い込んだ」


 俺は少し考えた。


「迷い込んだ、というのは意図的ではなかった?」


「霧本人に聞いたことがあるか?」


「ある。出たかったとは言っていたが、来た経緯は話していない」


「今度聞いてみろ。ただ——初代の記録では、霧は最初、パニック状態だったと書いてある。知らない世界に来て、自分の存在が周囲に影響を与えることに気づいていなかった」


 支配の霧。


 意図せず人を支配してしまう存在。


「霧は悪意があるわけじゃなかったのか」


「初代はそう判断した。だから封印した——閉じ込めるためではなく、安全に話し合えるまでの時間を作るために」



 



「では封印を解いた後は、どうなるんですか」


「霧が元の世界に帰ればいい」


「帰れるんですか」


「帰る方法がある。ただそれも、合意が必要だ。この世界と霧の世界の双方が、交流の規則を決めれば、行き来ができるようになる」


 俺は整理した。


 つまり——封印を解く=霧を野に放つ、ではない。封印を解いた上で、霧が元の世界に帰る道を作る。そのための交渉が必要だ。


「それが三者の契約か」


「そうだ。人間と迷宮の民と霧の三者で、この世界での規則を決める。それが終われば、霧は帰る。全員が安全になる」


「……初代の調停者はなぜそれをやらなかったんですか」


 じいさんが少し黙った。


「時間が足りなかった。霧を封印してから、初代は三年で死んだ。後継者を育てる時間がなかった。封印だけが残って、目的が伝わらなかった」


「そして百二十年、誰も知らないまま」


「俺が知っていたが——伝える手段がなかった」



 



 じいさんが続けた。


「お前が来て良かった。正直、間に合わないと思っていた」


「間に合いました。六ヶ月あります」


「六ヶ月で三者の契約ができるか」


「やります」


「無理だと思わないか」


「思いません。材料は揃っています。霧は話せる。迷宮の民は協力してくれる。人間側はグレンとドルグがいる」


 じいさんが俺を見た。


「……お前は初代に似ている」


「そうですか」


「初代も同じ顔をしていた。できない理由より、できる方法を探す顔だ」


「前世でそういう仕事をしていたので」


「前世?」


「転生者なんです」


 じいさんが「ほう」と言った。


「それで妙に落ち着いているわけだ」


「そうかもしれません」



 



【迷宮管理 Lv.4(経験値:12/500)】


 Lv.4の経験値上限は500。Lv.3の300より重い。


 それだけ大きな交渉が必要ということだ。


 三者の契約——それがLv.4の試練だろう。



 



 ◆ 次話「第22話:準備を始める」

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