表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
墓場の門

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/74

第2話「ゴブリンの事情と、外交の作法」

ゴブリンの名前はゴブだった。


「本当にゴブというのか」


「ゴブリン語だと発音できない。人間語で近いのがそれだ」


 なるほど、と俺は思った。名前に文句をつける理由もない。


 俺たちは正門の前に並んで座っていた。焚き火を挟んで、人間とゴブリンが向かい合っている。絵面がシュールすぎて笑いそうになったが、こらえた。


「で、事情を聞かせてくれ。第23層の『アレ』というのは何だ」


 ゴブが眉間に深い皺を刻んだ。


「……名前を言うな。聞こえるかもしれない」


「ここまで聞こえるのか」


「わからない。でも俺たちは用心している」


 俺はスキルを起動して迷宮の状態を確認した。


【特記事項:第23層付近の「統率型知性体」——活性度 上昇中】


 上昇中。さっきより増えている。


「続けてくれ」


 ゴブは少しだけ逡巡してから、話し始めた。



 



 迷宮の下層——1層から22層——は、様々な種族が暮らす「街」だ。


 人間がそう知らないだけで、ゴブリンにも家族がある。コボルトには職人がいる。スライムは群れで意思疎通をする。魔物と呼ばれる存在たちは、迷宮という閉じた世界の中で、それなりの秩序を作って生きていた。


「だが三ヶ月前から、23層が変わった」


 ゴブは続けた。


「今まで23層は『境界』だった。上層と下層の緩衝地帯。何十年もそうだった。なのに突然、何かが動き始めた。匂いが変わった。音が変わった。俺たちの仲間が近づくと——戻ってこない」


「23層に入ったら消えるのか」


「消えるんじゃない。変わって戻ってくる」


 ゴブの声が低くなった。


「目が空っぽになって、俺たちを見ない目で戻ってくる。そして仲間を——」


 そこで言葉が止まった。


 俺は急かさなかった。続きを話したくなるまで待った。


「……仲間を、23層に連れて行こうとする」


 沈黙が落ちた。焚き火がパチリと鳴った。


「だから逃げてきた。外に出るつもりはない。ただ、ここにいれば23層から遠い。少しだけ、安全だ」



 



 俺は考えた。


 状況を整理すると、こうだ。迷宮の下層で何らかの「感染」または「支配」が広がっている。感染源は23層。ゴブたちはそこから逃げてきた難民で、外に出たいわけではなく、単に距離を置きたい。


 問題は、王国のルール上、魔物を「外に出す」ことは絶対禁止だ。


 だが——俺は扉を見た——今ゴブがいるのは、扉と迷宮の間の「前室」だ。厳密には迷宮の内側でも外の世界でもない。


「一つ聞く」


「なんだ」


「お前たちは俺に何を求めている。扉を開けることか、それとも——」


「交渉の場所が欲しかった」


 ゴブは静かに言った。


「ここは、昔から『調停の場』だ。外界の人間と迷宮の民が話し合う、唯一の場所。だが長い間、ここに『調停者』がいなかった。今日、久しぶりにここに火が灯っているのを見た。だから来た」


「調停者、というのは……」


「お前だ」


 ゴブは俺を見た。


「正式な調停者は迷宮語で認証を受けた者だが、俺たちはもう選んでいられない。お前がここにいて、話を聞いてくれた。それで十分だ」



 



 俺はしばらく黙って考えた。


 リスクは明確だ。王国のルールに違反する可能性がある。巡察隊に見つかれば問題になる。


 だが、ゴブの話が本当なら——23層で何かが起きているなら——それは迷宮の内側だけの問題ではない。いつか外にも影響が出る。


 俺のスキルが「特記事項」として上げているのは、そういうことだろう。


「わかった」


 俺は言った。


「条件がある。三つだ」


 ゴブが身を乗り出した。


「一つ。ここの扉は開けない。お前たちは前室にいる。外には出ない」


「わかった」


「二つ。俺が知りたいことに答えてくれ。23層について、迷宮の内部について。情報が欲しい」


「……それは構わない」


「三つ」


 俺は続けた。


「迷宮の中に素材がある。薬草、鉱石、魔石。お前たちが持ち出せるものを、対価と引き換えに譲ってくれ」


 ゴブが目を細めた。


「対価とは」


「食料、水、布。今お前たちに必要なものを持ってくる」


 長い沈黙があった。


 それからゴブは、ゆっくりと頭を下げた。


「……調停者は、やはり調停者だ」


「俺はただの門番だが」


「それは人間側の呼び方だ」


 ゴブは言った。その声に、初めて安堵の色があった。


「こちら側では、お前は今日から『外の調停者』だ」



 



 その夜、俺は報告書を書いた。


 王都への定期報告。内容は「異常なし」と書いた。


 嘘ではない。今のところ、外には何も出ていない。


 書きながら、俺は思った。


 前任者はここで何を見て、何を考えて——そして溢出で死んだのだろう。


 スキルを確認すると、数値が少し変わっていた。


【迷宮管理 Lv.1→Lv.1(経験値:12/100)】


 レベルが上がるらしい。


 条件は——たぶん、交渉を成立させることだ。



 



 ◆ 次話「第3話:巡察隊がやってきた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ