第18話「エリアの発見」
エリアが来たのは、ドルグが帰った翌日だった。
今回は一人ではなかった。魔導師が三人、助手として付いていた。全員、顔が青い。何かを見てきた顔だ。
「レン。重要な発見がありました」
俺は全員を小屋に入れた。
エリアが革の封筒から紙を取り出した。複雑な図形と数式が書いてある。
「封印の原理を解析しました。私の予想は半分正しくて、半分間違っていた」
「聞かせてください」
「封印は『意思の力』で維持される、というのは正しかった。ただ——意思の力というのは、調停者個人の力ではありませんでした」
「では何の力が」
「関係性の力、とでも言えばいいか。封印は、この場所で成立した交渉の数と深さに比例して強化されます」
俺は少し考えた。
「スキルの経験値が交渉成立で上がる理由が、それか」
「そうです。そして——」
エリアが続けた。声が少し緊張していた。
「封印が弱まった理由もわかりました。三ヶ月前、前任の調停者が死んだ直後に、誰かが封印に干渉しました。干渉の痕跡が残っています」
「干渉して何をした」
「封印の核を、書き換えました」
「書き換え?」
「封印の核というのは、ある種の『契約文書』です。誰が誰と、何を目的に封印を結んだか、という記録が刻まれています。その記録の一部が——消されていました」
消された記録。
「消された部分には何が書かれていたか、復元できるか」
「一部は復元できました」
エリアが別の紙を出した。
「封印を結んだ当事者の名前が書かれていたはずの部分が消えています。ただ、残っている部分から推測すると——封印は『二者間の合意』で成立していました。一方は古代の調停者。もう一方は——」
「霧、ではないのか」
「違います。霧は封じられた側。封印の合意相手ではない」
「では誰と」
「47層の先にいる者と、です」
沈黙が落ちた。
俺は頭を整理した。
封印は古代の調停者と、47層の先の存在が合意して作ったものだ。
その封印の記録が三ヶ月前に消された。
消した者は、47層の先から来た人間だ——霧がそう言っていた。
「つまり47層の先の者が、自分たちで結んだ封印を破壊しようとしている」
「そう解釈できます」
「なぜ自分たちで結んだ封印を自分たちで壊すのか」
「それが——わかりません」
エリアが首を振った。
「ただ一つ、確かなことがあります。封印の核に残っていた文章の中に、こういう記述がありました」
エリアが紙を指差した。古代語で書かれた一節を、現代語に訳している。
「『霧を封じることに同意する。ただし時が満ちた時、調停者の判断でこれを解くことができる』」
「時が満ちた時」
「はい。封印は最初から——永続を意図したものではなかった。いつか、調停者が判断して解くことを前提にして作られていた」
俺はしばらく黙った。
封印を解く。
霧を外に出す、ということではない。封印を解いた後にどうするか——それが問題だ。
「霧に意思がある。話ができる。封印を解いた後に、霧と正式な交渉ができるかもしれない」
「交渉……霧と?」
「支配の霧、という名前がついているが、実態は話ができる知性体だ。三ヶ月前に誰かに目覚めさせられて、出口を探している。出口を示せば——暴れる必要がなくなるかもしれない」
エリアが俺を見た。
「……それは、壮大すぎる仮説です」
「そうかもしれません。でも23日後に封印が消える。強制的に霧が溢れる前に、俺から動いた方がいい」
「動く、とは」
「霧と正式に交渉する。何が欲しいか。何をすれば外に出てくれるか。あるいは出ないでいてくれるか」
エリアが長い間俺を見た。
「……あなたは本当に、何とでも交渉しようとするんですね」
「できるかどうかは別として、試すことは自由です」
「失敗したら」
「また別の方法を考えます」
エリアがため息をついた。それから笑った。
「……手伝います。霧との交渉に魔導師が必要な場面があるかもしれない」
「助かります」
「ただし私も立ち会わせてください。学術的に最高に面白い場面なので」
「もちろん」
夜、俺はスキルを通じて霧に話しかけた。
「聞こえるか」
しばらく間があった。
『——聞こえる——』
「もう少し待ってくれ。正式に話し合う準備をしている」
『——待っている——ずっと——待っていた——』
「知っている。もう少しだ」
【迷宮管理 Lv.3(経験値:198/300)】
【封印強度:24%】
【推定消失まで:19日】
◆ 次話「第19話:47層の先へ」




