第17話「ドルグの答え」
七日後ではなく、三日後にドルグが戻ってきた。
今回は一人だった。
「考えた」
「聞きます」
「受ける」
それだけだった。
俺は少し驚いた。もっと条件の交渉が来ると思っていた。
「条件の詰めは」
「情報の精度次第だ。まず一回試させてくれ。精度が高ければ本格的に話し合う」
「わかりました。何層の情報が欲しいですか」
「30層だ。今のパーティーで攻略を考えている」
俺はスキルを起動した。
【第七迷宮 30層 現在状況】
居住者:ミノタウロス×6、ゴーレム×2
危険度:A-
特記事項:30層中央部に「休眠区画」あり。現在5体が休眠中、1体が警戒中
「30層。ミノタウロスが合計六体いますが、今は五体が休眠中。警戒しているのは一体だけです。中央の休眠区画には近づかないように。ゴーレムは出口付近に二体。石の台座に乗っている時は動きません」
ドルグが目を細めた。
「……今日現在の情報か」
「はい。リアルタイムです」
「ゴーレムが台座に乗っている間は動かない、というのは本当か。Aランク冒険者でも知らない情報だ」
「迷宮の民から聞いた情報も混ざっています」
ドルグが少し考えた。
「……迷宮の民、というのは」
「難民として保護している魔物たちです。彼らから内部情報を教えてもらっています」
「取引か」
「互いに必要なものを提供しています」
ドルグが馬から降りた。今度は自分から。
「中で話せるか」
「どうぞ」
小屋の中で、ドルグは俺に向かい合って座った。
「正直に聞く。お前は何を目指している」
「目下の目標は、23層の封印を守ることです」
「その先は」
「迷宮の民と人間が、戦わずに共存できる状態を作ること」
ドルグが俺を見た。長い間。
「……本気か」
「本気です」
「夢物語じゃないか」
「夢物語かどうかは、やってみないとわかりません」
「お前のやっていることは——ギルドにとっては脅威だ。わかっているか」
「わかっています。ただ、封印が消えれば霧が地上に溢れます。その時、一番困るのはギルドです。冒険者の仕事の舞台がなくなる」
ドルグが黙った。
「……封印が消える、というのはどのくらい本当の話だ」
「23日後に消える可能性があります。俺は止めようとしているが、一人では限界がある」
「俺たちに何ができる」
「情報の共有を正式なルートにする。ギルドを通じて王国上層部に届ける。封印の問題を、俺一人が抱えるのをやめる」
ドルグが腕を組んだ。
「……それはつまり、俺たちを巻き込もうとしているのか」
「はい」
「率直だな」
「遠回りする時間がないので」
ドルグが笑った。今度は嫌な笑い方じゃなかった。
「わかった。乗る」
「乗る、とは」
「封印の問題をギルドの上層部に上げる。俺のランクと実績があれば、話を聞いてもらえる。ただし条件がある」
「聞きます」
「情報の独占はなし。ギルドに提供する情報は、俺を通さずに直接流してくれ。俺はあくまで橋渡し役だ。利権は作らない」
俺は少し驚いた。
「……それで構わないんですか」
「俺はもう十五年、命がけで迷宮を攻略してきた。正直、飽きた」
ドルグが苦笑いした。
「それに——お前が言う通りなら、封印が消えた後のことを今から考えた方がいい。そっちの方が面白い仕事だ」
「面白い、ですか」
「新しい時代の最初にいる方が、面白いだろ。そう思わないか」
俺は少し考えてから言った。
「思います」
その夜、俺はゴブとヴァルとシルに今日の経緯を話した。
全員が黙って聞いた。
「……Aランク冒険者が味方についた、ということか」
「味方というより、共通の目標を持つ人間が増えた、という方が正確だ」
「どう違う」
「味方は感情で動く。共通の目標がある人間は利益で動く。後者の方が安定する」
ゴブが少し考えた。
「……調停者は、誰も信用していないのか」
「信用しています。ただ信用と、利益が一致しているか確認することは別の話です」
「それは……冷たくないか」
「冷たいかもしれません。ただ、感情だけで動く信頼は、感情が変われば消えます。利益が一致している間は動いてくれる。それが長く続く関係の基盤になる」
シルが古語で何か言った。ヴァルが訳した。
「『それは迷宮の外交と同じだ』と言っている」
「そうか」
「昔の調停者も、同じやり方だったと伝承にある、と」
俺は少し笑った。
「前世も今世も、やっていることは変わらないな」
【迷宮管理 Lv.3(経験値:147/300)】
【封印強度:26%】
【推定消失まで:21日】
◆ 次話「第18話:エリアの発見」




