第16話「Aランクが来た」
Aランク冒険者というのは、俺の認識では「化け物」だ。
王国の人口三百万人のうち、Aランクは百人程度。一万人に一人。戦場に一人いれば戦況を変えられる存在。
そのAランクが三人、馬で来た。
全員が重装備。紋章は三種類バラバラ——別々のパーティーから来た寄せ集めだ。
先頭の男が俺を見た。三十代後半、傷だらけの顔、目が鋭い。
「お前が調停者か」
「そうです」
「魔物と取引している門番だな」
「しています」
男が馬から降りた。他の二人も降りた。
「話がある。中に入れてもらおうか」
「立ち話で構いません」
男が少し笑った。笑い方が嫌な感じだった。
「随分と落ち着いているな、子供のくせに」
「十七歳です。子供かどうかは人によります」
「……なるほど。じゃあ本題だ。お前の活動を止めてもらいたい」
「理由を聞いてもいいですか」
「迷宮の秩序を乱している。冒険者ギルドの基本方針は『迷宮は攻略するもの』だ。魔物と取引するなど聞いたことがない。それを当然のように続けられると、俺たちの仕事が——」
「利権に触れると言いたいですか」
男が止まった。
「言い方を選べ」
「失礼しました。ただ、率直に話した方が早いと思ったので」
男の名前はドルグ。Aランク冒険者歴十五年。迷宮攻略の専門家で、素材の売買ルートも持っている。
つまり俺が月銀石を市場に流し始めたことで、直接的に利益を損なった側だ。
「月銀石の価格が下がった。お前が安値で流しているからだ」
「パトに確認しましたが、市場価格を下回る価格では売っていないはずです」
「量が増えすぎた。希少価値が落ちた」
「希少価値を人為的に維持するために供給を絞る、というビジネスモデルは——」
「俺たちは命がけで攻略してきた。それをお前が横から——」
「命がけの攻略は価値があります。ただそれとは別の手段で素材を確保することも、禁じられていないはずです」
ドルグが俺を睨んだ。
俺は睨み返した。
怯んでいる場合ではない。今ここで引けば、全部終わる。
「一つ聞いてもいいですか」
俺は続けた。
「あなたは今、何のために来ましたか」
「言っただろう。活動を止めに——」
「俺を物理的に排除するために来たのか、それとも俺と交渉するために来たのか、どちらですか」
ドルグが黙った。
「排除するなら、今頃もっと大人数で来ているはずです。三人で来たということは——話し合う気がある。違いますか」
長い沈黙。
ドルグの後ろの二人が顔を見合わせた。
「……お前、十七歳だよな?」
「はい」
「化け物か」
「門番です」
ドルグが目を細めた。笑っているのか怒っているのか、わからない。
「……交渉の余地があるとしたら、何を提示できる」
「情報です」
「情報?」
「第七迷宮の内部情報。どの層に何がいる、活性度、安全ルート。あなたたちが今まで命がけで探っていた情報を、俺は座っていてもわかります」
ドルグが少し前のめりになった。
「……それは」
「ただし条件があります。俺の活動を妨害しない。それだけです」
「月銀石の流通は止めないのか」
「止めません。ただ量の調整はできます。市場価格の急落を避ける程度には」
ドルグがまた黙った。
今度は違う沈黙だ。計算している沈黙。
「……一週間考えさせてくれ」
「構いません」
「その間は——俺たちも何もしない」
「わかりました」
ドルグが馬に乗った。それから振り返った。
「お前、本当に十七歳か」
「本当です」
「ジョブは」
「門番です」
「……」
ドルグが何かを言いかけて、やめた。
そのまま馬を走らせた。
ゴブが物陰から出てきた。
「……怖くなかったのか」
「怖かった」
「顔に出ていなかった」
「出したら負けだ」
ゴブが俺を見た。
「調停者」
「なんだ」
「前世で調停員だったと聞いた。あれは——前世の仕事のやり方か」
「そうかもしれない」
「人間は変わらないものだな」
「変わらないというか——やり方しか持っていない。俺には剣も魔法もないから」
ゴブが小さく笑った。
「それで十分だと思う」
夜、スキルを確認した。
【第23層 封印強度:27%】
【推定消失まで:23日】
23日。
ドルグの返事が来るのが7日後。
それから動ける。
間に合う、と思うしかない。
◆ 次話「第17話:ドルグの答え」




