第15話「カイルが戻ってきた」
カイルがBランクになっていた。
前哨基地に来た時、胸の紋章が変わっていた。銀色のBランク冒険者章。
「受かったのか」
「受かった。お前の情報のおかげで20層まで行けた」
「俺の情報と、お前たちの実力だ」
カイルが少し笑った。
「また来た理由はそれだけじゃない」
「聞いている」
「……ギルドで噂が出てる。第七迷宮の調停者について」
「どんな噂だ」
「内容はバラバラだ。魔物を使役する門番がいるとか、ダンジョンの奥の情報を売る闇商人がいるとか。ただ共通しているのは——」
カイルが少し声を落とした。
「その調停者を排除しようとしている組織がある、という話だ」
俺は黙って聞いた。
「どこの組織だ」
「わからない。ただ、Aランク冒険者が数人動いているらしい。理由は『迷宮の秩序を乱している』という名目で」
秩序を乱している。
なるほど。魔物と取引して素材を流通させれば、ダンジョン攻略の市場が変わる。既存の冒険者ギルドの利権に触れる。
「お前が教えに来たのはなぜだ」
カイルが少し間を置いた。
「……お前に死んでほしくないからだ」
真顔で言った。
「5層で助けてもらった。返しきれていない」
「あれはゴブが助けたんだが」
「お前が動かしたんだろ」
俺は少し考えてから言った。
「ありがとう。参考にする」
「参考、か。もっと危機感を持ってくれ」
「持っている。ただ今は別の問題の方が大きい」
カイルが眉をひそめた。
「別の問題? 調停者を狙っているAランク冒険者より大きな問題があるのか」
「ある。23層に関係する話で、最悪の場合——」
俺は少し止まった。全部話すかどうか迷った。
ただカイルは、情報を持ってわざわざここまで来た。信頼に値する。
「最悪の場合、地上が終わる」
カイルが固まった。
「……は?」
「座ってくれ。長くなる」
全部話した。
霧のこと。封印のこと。三ヶ月前の計画のこと。47層の先のこと。
カイルは一度も口を挟まずに聞いた。
話し終わった後、長い沈黙があった。
「……なんで、お前がそんな話の中心にいるんだ」
「たまたまここに配属されただけだ」
「たまたまで世界の危機を背負うな」
「背負いたくて背負っているわけじゃない」
「だよな」
カイルがため息をついた。
「俺に何かできることはあるか」
「ある」
「言え」
「ギルド内の情報を引き続き流してくれ。Aランク冒険者が動いているなら、事前に知りたい。それと——」
「それと?」
「強い冒険者で、信頼できる奴を紹介してくれ。いつか前哨基地の護衛が必要になるかもしれない」
カイルが少し考えた。
「護衛、か。冒険者が魔物を護衛するのか」
「逆だ。魔物が冒険者を護衛するかもしれない状況を想定している」
カイルが頭を抱えた。
「お前の世界の話は、毎回頭がおかしくなる」
「慣れてくれ」
カイルが去り際、施設を見た。
森の手前の小屋から、子供のゴブリンが顔を出して引っ込んだ。
「……あそこに住んでいるのか」
「住んでいる」
「ゴブリンが」
「ゴブリンとダークエルフが」
カイルが長い間、施設を見ていた。
「……普通の子供みたいだな」
「普通の子供だ」
「なんで俺たちは今まで——」
「知らなかっただけだ。今から知ればいい」
カイルが頷いた。それからゴブリンの子供の方を向いて、手を振った。
子供が一瞬固まってから、おそるおそる手を振り返した。
【迷宮管理 Lv.3(経験値:89/300)】
経験値が急激に増えている。
大きな交渉が続いているからだ。
Lv.4まで、まだ遠い。でも着実に近づいている。
◆ 次話「第16話:Aランクが来た」




