第14話「霧が声を出した」
27日目の深夜。
スキルのアラームが、また鳴った。
今回は違う種類だった。
【新規アラート】
第23層「支配の霧」——外部への接触試行を確認
対象:調停者
接触方法:迷宮管理スキル経由
俺は目を覚ました。
頭の中に、何かがある。
前回、封印に触れた時と似ているが——あの時は俺から接触した。今回は向こうから来ている。
感情ではない。今度は——言葉だ。
言葉に近い、何か。
意味を持つ圧力、とでも言えばいいか。
ノイズの中から、かろうじて拾える。
『——外に——出たい——』
俺は起き上がって座った。
霧が言葉を出した。
それは知っていた——23層には知性体がいる、と。ただ「支配の霧」という名前から、本能的な拡散をするものだと思っていた。
言葉があるなら、話ができる。
「聞こえているか」
俺は意思で応じた。声ではなく、スキル経由で。
しばらく間があった。
『——聞こえる——』
驚いている、のだと思う。応じてくる相手がいることに。
「俺はレン。この迷宮の調停者だ。お前の話を聞きたい」
また長い沈黙。
『——調停——知っている——昔の——』
「昔の調停者を知っているのか」
『——封印した——もの——』
俺は少し考えた。
封印したのは、古代の調停者だ。つまり——霧は封印された側、被封印体だ。何百年も閉じ込められていた。
「お前は最初から、外に出たかったのか」
『——違う——最初は——眠っていた——』
「眠っていた?」
『——誰かが——起こした——』
誰かが起こした。
俺は急いでグレンへの緊急メモを書き始めた。
封印の弱体化は自然現象ではなく、意図的に引き起こされた可能性がある。
誰かが霧を意図的に覚醒させた。
それはいつ? 三ヶ月前——前任の門番が死んだ頃と一致する。
「前任の門番を知っているか」
長い沈黙。
『——知っている——扉の前に——いた——』
「その人間が死んだ日に、誰かがお前を起こしたのか」
また沈黙。今度は違う種類の沈黙だ。何かを整理している、そういう間。
『——起こしたのは——人間——迷宮の奥から——来た——』
「迷宮の奥から来た人間?」
奥、というのは上層のことだ。迷宮の奥深く——47層より向こう。
そんな場所に人間が?
『——調停者——気をつけろ——その人間は——まだ——』
そこで接触が切れた。
頭が静かになった。
スキルを確認した。
【第23層 支配の霧——接触終了】
【封印強度:29%】
夜明けまで眠れなかった。
「迷宮の奥から来た人間」。
47層より先——今まで誰も存在するとは思っていなかった場所。
なろうで読んだことがある話に似ている、と前世の記憶が言っている。
隠されたボスがいる。最初の敵だと思っていたものの、さらに奥に黒幕がいる。
俺はそれをエリアへの手紙に書いた。
「封印解析の角度を変えてほしい。霧は自然に目覚めたのではなく、覚醒させられた可能性がある。誰が、どこから、どのように」
エリアなら追える。彼女の専門は封印解析だ。
翌朝、ゴブに話した。
「霧と接触できた」
ゴブが固まった。
「……霧と、話した?」
「話、とは言えないが意思疎通はできた。霧は三ヶ月前に誰かに起こされた。人間が迷宮の奥から来た、と言っていた」
「奥から、とは」
「47層より先だ」
ゴブが目を細めた。
「……47層より先は、誰も行ったことがない。俺たちの世界でも、禁忌の場所だ」
「なぜ禁忌なのか」
「昔から、そう言われていた。先人が戻ってこなかったから」
「戻ってこなかった。それはいつの話だ」
「……百年以上前、らしい」
俺は考えた。
百年以上前に入って、戻ってこなかった者がいる。
その者が——あるいはその子孫が——今も47層より先にいる可能性がある。
「ヴァル」
俺はシャーマンを呼んだ。
「47層より先について、上層の民は何か知っているか」
ヴァルが長い間、黙っていた。
「……知っている者はいる。ただし——語ることを禁じられている」
「禁じた者は誰だ」
「47層より先から来た使者だ。昔から、定期的に来ていた。『語るな』という命令だけを残して、帰っていく」
「最後に使者が来たのはいつだ」
「……三ヶ月前だ」
全部、繋がった。
三ヶ月前。前任の門番が死んだ日。使者が来た日。霧が目覚めた日。
偶然ではない。
俺は新しい報告書の冒頭に書いた。
「第七迷宮の問題は、封印の自然劣化ではありません。これは誰かの計画です」
◆ 次話「第15話:カイルが戻ってきた」




