第13話「施設を建てる」
グレンの返事は速かった。
マークが手紙を届けてから三日。グレン本人が来た。今回は騎馬三騎、荷馬車二台。荷馬車には建材が積んであった。
「申請が通った。条件がある」
「聞きます」
「施設はルーナ村の外れに建てる。村人には『王国の研究施設』として伝える。魔物がいることは伏せる」
「村人への説明は誰がする」
「お前だ」
俺は少し考えた。
「村長に話す機会をくれれば、何とかする」
「信用するなよ」
「村長の息子がパトです。既に月銀石の取引で繋がっている」
グレンが目を細めた。
「……周到だな」
「たまたまです」
ルーナ村の村長——パトの父親の老人——は、話を聞いて三秒で頷いた。
「王国の施設ができるなら、村に金が落ちる。建設に村人を雇ってくれるなら尚更」
「雇います。日当は銀貨三枚」
「倍出せ」
「銀貨四枚」
「乗った」
交渉、十秒。
パトが横で「父さん早すぎる」と呟いていた。
建設は一週間かかった。
ルーナ村の外れ、森の手前。石造りの小屋が三棟。井戸一つ。柵。
費用は月銀石七個分。王国からの建材支援で半分は賄えた。
完成した日、俺は前室に戻ってゴブとシルを呼んだ。
「場所ができた。移ってもらう」
「外に出るのか」
「夜に移動する。人目につかないように」
ゴブが少し黙った。
「……俺たちが外に出て、問題はないか」
「グレンの文書がある。ルーナ村の村長とは話がついている。問題があれば俺が対処する」
「調停者が保証するのか」
「する」
ゴブが仲間たちを見た。ヴァルが頷いた。シルが頷いた。
「……わかった」
移動は夜の三時に行った。
前室の扉をそっと開ける。ゴブたちが静かに出てくる。月明かりの下に、ゴブリンとダークエルフが並んで立つ。
最初の外気に、全員が少し止まった。
風の匂い、草の匂い、空の広さ。
ゴブが上を向いた。
シルが両手を広げた。
俺は何も言わなかった。
言う必要がなかった。
十分後、全員が施設に入った。誰も声を出さなかった。ただ、歩き方が少しだけ違った。前より、しっかりしていた。
翌朝、ゴブが俺のところに来た。
「昨夜……ありがとう」
「施設に慣れてくれれば十分だ」
「そういう意味ではない」
ゴブが少し間を置いて言った。
「子供たちが、空を見た。初めて、本物の空を」
「そうか」
「泣いている子もいた。なぜ泣くのかと聞いたら——『広すぎて怖い』と言っていた」
俺は少し考えてから言った。
「慣れる。最初は全部そうだ」
「お前は最初、怖かったか」
「何が」
「外の世界。転生してから」
俺は少し驚いた。ゴブが転生のことを知っているとは思っていなかった。
「……いつ知った」
「エリアが言っていた。前世を持つ門番だと」
「エリアは口が軽いな」
「怒っているか」
「怒っていない。怖かったかどうか、か」
俺は考えた。
「怖かったかどうかより、面白かった。知らない世界を知る、という感覚が。ゴブたちも同じじゃないか。怖いけど、面白い」
ゴブがしばらく俺を見た。
「……お前は変な人間だ」
「よく言われる」
「だが、変な人間で良かった」
【第七迷宮 現在状態】
収容中の迷宮民:27体(施設移転完了)
封印強度:31%
推定消失まで:27日
27日。
予定より早い。
俺は施設の屋根を見上げながら、次の手を考えた。
◆ 次話「第14話:霧が声を出した」




