第12話「ダークエルフと話す」
ダークエルフは美しかった。
それが最初の印象だ。十二体全員が、人間で言えば二十代に見える。銀髪、長耳、濃い紫の瞳。装備は魔法使いのローブに近いが、素材が違う。迷宮産の繊維で編まれた、薄くて丈夫そうなもの。
ただし全員、目が疲れていた。
ゴブと同じ目だ。逃げてきた者の目。
俺はヴァルを通訳に立てて話しかけた。迷宮語の古語経由なので、時間がかかる。
「ここに来た理由を教えてほしい」
ヴァルが古語に変換する。ダークエルフのリーダーが答える。ヴァルが訳す。
「霧が18層まで来た。仲間が変えられ始めた。逃げるか、残って変えられるかの二択だった」
「外に出るつもりはないか」
「ない。外の世界を知らない。ここが限界だ」
俺は考えた。
前室はすでにゴブたち十二体とシャーマン三体で埋まっている。ダークエルフ十二体を加えると、完全に限界だ。
「一時的にここにいてくれ。場所を広げる交渉をする」
ヴァルが訳した。
ダークエルフのリーダーが俺を見た。しばらく無言で見てから、古語で何か言った。
「なんと?」
「『外界の調停者は本当にいたのか』と言っている」
「伝説があったのか」
「あったらしい。古い時代に、扉の前に立って迷宮と外を繋いだ者がいたと。子供の頃に聞いた話だと言っている」
俺は少し考えてから言った。
「俺は伝説の人物じゃない。ただの門番だ」
ヴァルが訳した。
ダークエルフのリーダーが、初めて表情を崩した。笑い、だと思う。人間のそれとは少し違うが。
「何と言った」
「『それでいい』と」
問題は場所だった。
マークを呼んだ。
「頼みたいことがある」
「情報料の話ですか」
「そうだ。王都に戻ったら、グレン査察官に直接会ってほしい。俺の手紙を渡す。返事を持ち帰ってくれれば、次の試験の情報も出す」
マークが少し考えた。
「グレン査察官というのは……」
「知っているか」
「名前だけ。ギルド内でも厳しい人だという噂は」
「厳しいが公正だ。手紙を渡すだけでいい。怒られはしない」
「……わかりました」
手紙の内容は、こうだ。
「前哨基地の拡張が必要です。現在の前室容量では難民を収容しきれません。ルーナ村の近くに仮設の収容施設を作る許可と、建材の支援をお願いします。費用は月銀石の売却益から捻出できます。至急ご検討ください」
書きながら思った。
三ヶ月前、俺はここで「生きてはいけるんじゃないか」と言われて廃墟に送られた。
今、王国の査察官に施設建設を要求している。
人生というのは、わからないものだ。
夜、ダークエルフのリーダーが俺のそばに来た。
ヴァルなしで、直接。
古語で何か言った。俺には解読できない。
「わからない」
リーダーが少し考えてから、迷宮語で言い直した。ヴァルに習っているらしい。
「名前……ある?」
片言だが通じた。
「レン。お前は?」
「……シル」
「シル。よろしく」
シルが俺を見た。それから視線を扉に向けた。
「外……怖い?」
「怖くはない。広い、という感じだ」
シルが何かを言いかけて、止めた。代わりに短く言った。
「……いつか」
「いつか、見せる。約束する」
シルが頷いた。
【迷宮管理 Lv.3(経験値:41/300)】
交渉が積み重なるたびに、数値が増える。
Lv.4になれば何ができるかはまだわからない。
ただ、今のところLv.3で十分だ。
やることは山積みで、スキルよりも頭を使う日が続いている。
◆ 次話「第13話:施設を建てる」




