第139話「全員で」
第七迷宮の入口付近に全員が集まったのは——おそらく初めてのことだった。
石段の前に、ゴブ、カイル、カーラ、そして俺が立った。フォルは接続経由で聞いていた。五者が同じ場所に意識を揃えたのは、三百年の歴史の中でも——なかったことかもしれない。
「来るとは思っていなかった」とカイルが言った。「ゴブが「全員で話したい」と言ったとき——どこまで揃うかと思ったが、揃った」
「来ない理由がなかった」とカーラが言った。「半年前は——想像もできなかったことが、起きています」
「俺が最初にここに来たのは——三年前の夜中でした」とゴブが言った。「あの夜、誰かが話を聞いてくれるとは思っていませんでした」
「私は——夜中に馬一頭で来ました」とカーラが言った。「今思うと無茶な話です。「助けてほしい」と言えるかどうかも、わからないまま来た」
「言えた」と俺は言った。
「言えました。扉を開けてくれたからだと思います」
誰も何も言わなかった。言わなくていい場面だった。
「スキルの引き継ぎを決める前に——一度話したいと思った」と俺は言った。
「誰に引き継ぐかを、みんなで決めようということですか」とカーラが言った。
「そうだ。ただ——「誰に」より先に、「何のために」を話したい」
「「何のために」か」とカイルが言った。「引き継ぐ理由はわかっている。お前が門番を続けられないからだろ」
「そうだ。でも——俺が去った後も、スキルが動いていることが重要だ。「話せる状態を維持する」ために引き継ぐ。そのためには誰が持つのが一番いいかを話したい」
スキルウィンドウを全員に見えるよう展開した。
【迷宮管理Lv.8——「機能分割引き継ぎ」:可能。内部管理/外部接続/封印監視の三機能は個別設定が可能です】
「三つの機能がある。内部管理は——迷宮の状態確認と封印の監視だ。外部接続は——フォルと「外から来るもの」との通信機能を指す。この二つは、別々に引き継げる」
「つまり」とカイルが言った。「俺が「外部接続」を持って、ゴブが「内部管理」を持つ——という選択肢もある」
「ある」
「引き継ぎ後——議会との関係はどうなりますか」とカーラが言った。「カイル殿が外部接続を持つなら、外からのものとの交渉も——管理局の業務になる可能性がある」
「なる」とカイルが言った。「そうなると思っている。ただ——「交渉」という言葉が正確かどうかわからない。外からのものとの関係は——交渉より、もっと時間がかかるものだ」
「「話す」に近い」と俺は言った。「交渉は条件を決めるためにある。「話す」は——相手を知るためにある。今の段階は「話す」だ」
「わかりました」とカーラが言った。「議会への報告には「継続的対話中」と書きます」
「それでいい」
「俺は——」とゴブが言った。「スキルがなくても、ここで話を聞き続けます。スキルがあれば、フォルやそのさらに外のものと話せる。ただ——俺一人が全部持つ必要はないかもしれない」
【フォル:「俺はどちらでもいい。ただ——「話せる状態」が続くなら、誰でも構わない】
「フォルはそう言っている」と俺が言った。
「フォルが「どちらでもいい」と言える日が来るとは」とカイルが言った。「三百年前は「出る」か「殺す」か——それしかなかっただろ」
【フォル:「変わったという自覚は薄い。ただ——「どちらでもいい」が本音だ。俺が選ぶより、お前たちが選んだ方が——うまくいく気がしている。それが変化かもしれない】
「それを俺に翻訳させるのか」とカーラが言った。笑いを含んだ声だった。
「翻訳するのが俺の仕事だった」と俺は言った。「最後まで」
「カイルが「外部接続」を持つのは——向いている気がする」とゴブが言った。「カイルは「うまくいかなかった」と来る。それが扉になる、とレンが言っていました。俺は聞いた。本当にそう思います」
「……そういうことは面と向かって言わなくていい」とカイルが言った。
「言った方がいいと思いました」
「なぜ」
「伝えないと、知られないからです。レンが教えてくれたことです」
カイルが少し黙った。「……わかった。受け取る」
「一つだけ言う」と俺は言った。
「なんだ」とカイルが聞いた。
「俺はここを離れても——また来る。旅人としてでも、門番OBとしてでもいい。来て、話す。それは続ける」
「それは当然だろ」とカイルが言った。「お前がここを完全に去るとは——誰も思っていない。戻ってくる奴だとわかっている。だから——引き継いだ後のことを心配していない。お前がまた来る。そのことで、ゴブも俺も、やっていける」
ゴブが小さくうなずいた。「俺も——レンがまた来ると思っています。それがあれば、大丈夫です」
「スキルの引き継ぎ先は——もう少し考える。今日の話で、だいたいの方向は見えた」
「見えたのか」とカーラが聞いた。
「見えた。ただ——今日はここまでにする。もう一つ、決める前にやっておきたいことがある」
「なんですか」
「外から来ているものと——もう一度、話す。今度は全員で聞いてほしい」
誰も反対しなかった。カイルが「それが——最後の準備か」と言った。
「そうかもしれない」と俺は言った。「全員で聞いた上で——決める」
石段の上で、第七迷宮が静かに息をしていた。
これだけの人間と知性体が——同じ方向を向いたことは、ここ数百年でなかったことだと思った。向きを揃えるのに——長い時間がかかった。でも揃った。
揃ってから決める。それが正しい順番だった。
ゴブが石段に座って、上を見ていた。
「ドランが聞いていると思いますか」と、ゴブが言った。
「聞いているかもしれない」
「聞いていたらよかったな、と思って」とゴブが言った。「今日、みんなが来た。ドランが始めたことが——こんなふうに続いているのを、見てほしかった」
「見ていると思う」と俺は言った。「根拠はないが——そう思う」
「根拠がなくても「思う」——それもレンが教えてくれたことでした」とゴブが言った。
空が少し風で動いていた。石門の上、第七迷宮の気配が静かにあった。




