第138話「スキルの準備」
ゴブの承認が下りた翌日、スキルが表示を出した。
【迷宮管理Lv.8——引き継ぎ準備完了。指定対象:未設定。設定しますか:Yes/No】
午前だった。俺は门の前で表示を見た。
準備完了。
No を押した。
まだ決める段階ではない気がした。引き継ぎ先を誰にするかは、ゴブとカイルと話してから決めたかった。スキルが準備できていても、俺の準備がまだ整っていない。
「No を押したのか」とカイルが言った。その日の夕方に通信してきた。
「今日じゃなくていい」
「引き継ぎ先はどうするつもりだ。ゴブか俺か、どちらかだろ」
「どちらかか、分けるか——まだ決めていない」
「分けるとは」
「スキルは一つのものだが、機能が複数ある。迷宮内部の管理と、外部の知性体との接続は——別の機能だ。機能ごとに引き継ぎ先を変えることができるかもしれない」
【迷宮管理Lv.8——「機能分割引き継ぎ」:可能。内部管理/外部接続/封印監視の三機能は個別設定が可能です】
俺がそれをカイルに読み上げた。
「……そういうことができるのか」
「スキルもそれを見越していたのかもしれない」
「ゴブは門番になった。スキルは別のものじゃないか」とカイルが言った。
「別だが——スキルと門番が繋がっている方が、力を発揮する場面がある。ゴブが「内部管理」を持てば、迷宮の状態をより正確に把握できる。俺が今やっていることを、ゴブが引き継げる」
「俺には外部接続を、ということか」
「そうかもしれない。フォルとの接続、外からのものとの接続——それはお前の方が向いているかもしれない。お前は正直に話す。外からのものは正直さに反応する、という気がしている」
「なぜ俺が正直だとわかる」
「「うまくいかなかった」と言いに来るからだ。毎回」
カイルが「……それを評価されているとは思わなかった」と言った。
「評価している。正直であることは——知性体との交渉で最も重要なことの一つだと俺は思っている」
「お前も正直だろ」
「俺は正直というより——答えを急がない。少し違う」
「どう違う」
「俺は「わからない」と言って待つ。お前は「うまくいかなかった」と言って来る。似ているが——受け取る側への伝わり方が違う気がする。俺の「わからない」は壁になることがある。お前の「うまくいかなかった」は——扉を開けることがある」
少し間があった。
「……俺のやり方を、そんなふうに見ていたのか」
「見ていた」
「カイル」と俺は言った。
「なんだ」
「第四迷宮——どうなっている。先日また行ったと聞いた」
「誰から聞いた」
「カーラから報告が来た。「カイル殿が定期的に通っているようです」と」
「……あいつは細かいな」とカイルが言った。「そうだ。また行った。三回目だ」
「少しずつだが、話せるようになっている。先日——向こうから話しかけてきた。「前回、お前が黙っていたのはなぜか」と聞いてきた」
「何と答えた」
「「何を言えばいいかわからなかった」と正直に言った。向こうが「正直な奴だ」と言った。それで少し距離が縮んだ気がした」
「正直に言ったのがよかった」
「そうらしい。俺には俺のやり方があるかもしれない、と思い始めた。「うまくいかなかった」と来る——それが俺の入口だ。最初から上手くやろうとする奴より、「うまくいかなかった」と来る奴の方が——向こうも話しやすいかもしれない」
「それはお前にしかできない入口だ」
「……お前に言われると悔しいが、まあいい」
カイルが「スキルの件——ゴブに聞いた上で、一度全員で話したい」と言った。
「わかった。決める前に——みんなで話す」
「セルディンも呼んでいいか」
俺は少し考えた。「セルディンを、か」
「あの人は——今はこちら側だと思う。お前が作った連鎖の中にいる。決める場に呼ぶことで——「関わった人間が決めた」という重さが出る」
「……それは——いい考えかもしれない」
「たまにはいいことを言う」
「たまには、か」
「たまには」
通信が切れた後、俺はスキルウィンドウを開いた。
【迷宮管理Lv.8——「機能分割引き継ぎ」:指定対象選択待ち】
待っている。まだ少し、待っていてくれ。




