第136話「なんとなく」
フォルが接続してきた。
「今日は何を聞きたい」と俺は言った。
【「今日は——お前に話を聞いてほしい。俺が話す番だ】
「どうぞ」
【「外からのものが、また来たか】
「昨日来た。話せた」
【「どんな話をした】
「なぜ聞くようになったか、という話をした」
【「俺もそれが気になっていた。お前はなぜ「聞く」ようになったのか——俺はずっと気になっていた。ゴブに聞いたら「なんとなくそうなった」と言っていた。お前もそうか】
「俺もそうかもしれない」
【「「なんとなく」——それが俺には理解しにくかった。俺たちは全ての行動に理由を持っていた。「出たい」「安全でいたい」「敵を排除したい」——理由があって動く。「なんとなく」は——理由がないということか。理由なしに動けるか、俺には疑問だった】
「理由なしに、というより——理由が見えていなかっただけかもしれない」と俺は言った。
【「どういう意味だ】
「ゴブが初めてノックしてきた夜——俺は、聞こうと思って聞いたわけじゃなかった。開けて、聞いた。後から考えると——「何が来たか確認したかった」という理由があったかもしれない。「門番として対応する義務があった」という理由もあったかもしれない。でも——そのとき俺は何も考えていなかった。ただ開けて、聞いた」
【「理由が後から来た、ということか】
「そうかもしれない。「なんとなく」というのは——理由がないのではなく、理由が後から見えてくるということかもしれない」
フォルが少し間を置いた。
【「……それは俺たちにとって——大きな発見かもしれない。俺たちは「理由がわかるまで動かない」でいた。でも「なんとなく」で動いた者が——道を開けた。俺たちが動けなかった場所で】
「そうかもしれない」
【「では——俺も「なんとなく」を試してみたい。「なんとなく」声をかけてみる。理由は後から来るかもしれない。そういう動き方を、してみたい】
「いい試みだと思う」
【「今日、外からのものに——「なんとなく」声をかけた。理由はなかった。ただ——そいつが気になった。気になったから、声をかけた】
「それが「なんとなく」だ」
【「……返事があった】
俺は少し止まった。
「返事があったのか」
【「あった。短かった。「誰だ」とだけ言った。俺は「フォルだ」と答えた。そこで切れた。でも——返事があった。俺が話しかけたら、向こうが返事をした】
「それは——すごいことだ」
【「そうか。俺にはまだよくわからない。「すごい」という感覚が、まだよくわからない。ただ——また声をかけたいと思っている。それが「なんとなく」か】
「そうかもしれない」
俺はしばらく空を見た。
フォルが外からのものに声をかけた。向こうが返事をした。
これは——段階が変わった。フォルが「外から来るもの」に声をかけ、向こうが返事をした。三者の間に、また新しい接続が生まれた。
「フォル」と俺は言った。
【「なんだ】
「それを教えてくれてありがとう」
【「なぜ礼を言う。俺はただ話しただけだ】
「お前が話してくれたから——俺もわかった。繋がっていることが、今日また一つ増えた」
フォルが少し沈黙した。
【「……「繋がる」ということを、俺はまだよく理解していない。でも——お前が言う「繋がる」は、悪い感じがしない。良い感じがする。それが「なんとなく」か。感じが良いから続けたい、という】
「そういうものかもしれない」
【「ならば——続ける。なんとなく、続ける】
接続が切れた。
空が少し風で動いていた。
「なんとなく続ける」——フォルがその言葉を使えるようになった。
三百年、フォルには「出たい」という大きな理由があった。それだけがあった。「なんとなく」でやることが、フォルには許可されていなかった——というより、そういう動き方を知らなかった。
でも今日、フォルは「なんとなく」で外からのものに声をかけた。返事があった。「なんとなく続けたい」と言った。
ゴブが「なんとなくそうなった」と言ったのを思い出した。フォルがゴブから「なんとなく」を学んで、外からのものに届けた。俺が「なんとなく」でゴブの話を聞いたことが——今日ここに来た。
理由はあとから来る。最初は——「なんとなく」でいい。




