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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
門番、世界と話す

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133/180

第133話「ゴブの最初の仕事」

正式な承認より先に——ゴブは動き始めていた。


 俺が気づいたのは、偶然だった。第七迷宮の入口付近で記録の整理をしていたとき、ゴブが先に出てきたのだ。中層からの使者が来るたびに、ゴブが最初に出てくる。


「俺が話します」


 最初はそう言って、俺が後ろに控えていた。二回目から、ゴブが一人でやった。


 俺は距離を取って、見ていた。



 



 来たのは第九層からの使者だった。


 背の低い、鱗のある二足歩行の生き物だった。種族は——リザードマンに近い。第九層には以前から住んでいたが、上層との交流は少なかった。今日来た理由は「移動できる場所を探している」ということらしかった。


「聞いていいですか」とゴブが言った。「何を困っているか、教えてください」


 使者が少し戸惑った。


「……ゴブリンに話すのは——」


「俺はゴブリンです」とゴブは言った。「でも——今は、ここで話を聞いています。話せますか」


 使者がしばらく考えてから、話し始めた。



 



 俺は後ろで聞いていた。


 ゴブは静かに聞いていた。何も言わなかった。ただ——聞いていた。うなずかなかった。表情も動かなかった。ただそこにいて、相手の話を受け取っていた。


 第九層の住民が増えた。霧の影響が薄れたことで上層から移動してきた者がいるが、その者たちと元からいた者たちの間で摩擦が起きている——そういう話だった。


 使者が話し終えると、ゴブが「わかりました」と言った。


「今すぐ解決できることはないかもしれないです。でも——ここに来てよかったと思ってほしいです。話してくれてありがとうございました」


 使者が「……ゴブリンにそんなことを言われるとは思わなかった」と言った。


「俺も——一年前は思っていませんでした。「こんなことを言う日が来る」とは」



 



 使者が帰った後、俺はゴブの隣に来た。


「よかったぞ」


「何がよかったですか」と、ゴブが俺を見た。評価を待っているのではなかった。本当に何がよかったのかを、確認したかったのだと思う。


「「ここに来てよかったと思ってほしい」——俺はそれを言葉にしたことがなかった。思っていた。でも言わなかった」


「なぜ言わなかったんですか」


「言い方がわからなかったんだと思う。お前は言えた」


「……俺のやり方、ですか」


「そうだ。習ったのとは違う——お前のやり方だ」



 



「レン」とゴブが言った。「あの使者——また来ると思いますか」


「わからない。でも——「ここに来てよかった」と思ってくれたなら、来るかもしれない。同じ悩みを持つ者を連れてくることもある」


「連れてきてくれたらいいですね」


「そうだな」


「俺——できるだけ多くの者に、「ここに来てよかった」と思ってほしいです。それが——門番の仕事だと思います」


 ゴブが少し照れた顔をした。ゴブリンが照れているのがわかるようになったのは、いつ頃からだろうと俺は思った。



 



「レン。俺——門番になれますか、ちゃんと」


「もうなっているぞ」


「正式じゃないですよ」


「正式かどうかと、なっているかどうかは——別のことだと思う。ドランが「正式な門番」だったかどうかは知らない。でもドランはここで、来た者の話を聞いていた。それが門番だ」


「……俺は、ドランみたいになれますか」


 俺は少し考えた。


「ドランみたいになる必要はないかもしれない」と俺は言った。「ドランはドランで、お前はお前だ。ただ——お前がやっていることは、ドランがやっていたことと——同じ方向を向いている」



 



「同じ方向、か」とゴブが言った。「俺がドランと全く同じことはできないですよね」


「できない。そもそもドランと俺も——同じことをしていたわけじゃない。ドランのやり方があって、俺のやり方がある。ただ——「来た者の話を聞く」という方向は、同じだ」


「方向が同じなら——続けていける、ということですか」


「そういうことだと思っている」


 ゴブが空を見た。


「……ドランに見ていてほしいですね。今日のこと」


「見ているかもしれない」


「そうですよね」とゴブが言った。「ドランは——ここから離れていないと思います。俺、そう信じています」


「根拠は」


「ないです。でも——信じています」と、ゴブは言った。「それもレンに習いました」


 石門の向こうで、第七迷宮が静かに息をしていた。

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