第133話「ゴブの最初の仕事」
正式な承認より先に——ゴブは動き始めていた。
俺が気づいたのは、偶然だった。第七迷宮の入口付近で記録の整理をしていたとき、ゴブが先に出てきたのだ。中層からの使者が来るたびに、ゴブが最初に出てくる。
「俺が話します」
最初はそう言って、俺が後ろに控えていた。二回目から、ゴブが一人でやった。
俺は距離を取って、見ていた。
来たのは第九層からの使者だった。
背の低い、鱗のある二足歩行の生き物だった。種族は——リザードマンに近い。第九層には以前から住んでいたが、上層との交流は少なかった。今日来た理由は「移動できる場所を探している」ということらしかった。
「聞いていいですか」とゴブが言った。「何を困っているか、教えてください」
使者が少し戸惑った。
「……ゴブリンに話すのは——」
「俺はゴブリンです」とゴブは言った。「でも——今は、ここで話を聞いています。話せますか」
使者がしばらく考えてから、話し始めた。
俺は後ろで聞いていた。
ゴブは静かに聞いていた。何も言わなかった。ただ——聞いていた。うなずかなかった。表情も動かなかった。ただそこにいて、相手の話を受け取っていた。
第九層の住民が増えた。霧の影響が薄れたことで上層から移動してきた者がいるが、その者たちと元からいた者たちの間で摩擦が起きている——そういう話だった。
使者が話し終えると、ゴブが「わかりました」と言った。
「今すぐ解決できることはないかもしれないです。でも——ここに来てよかったと思ってほしいです。話してくれてありがとうございました」
使者が「……ゴブリンにそんなことを言われるとは思わなかった」と言った。
「俺も——一年前は思っていませんでした。「こんなことを言う日が来る」とは」
使者が帰った後、俺はゴブの隣に来た。
「よかったぞ」
「何がよかったですか」と、ゴブが俺を見た。評価を待っているのではなかった。本当に何がよかったのかを、確認したかったのだと思う。
「「ここに来てよかったと思ってほしい」——俺はそれを言葉にしたことがなかった。思っていた。でも言わなかった」
「なぜ言わなかったんですか」
「言い方がわからなかったんだと思う。お前は言えた」
「……俺のやり方、ですか」
「そうだ。習ったのとは違う——お前のやり方だ」
「レン」とゴブが言った。「あの使者——また来ると思いますか」
「わからない。でも——「ここに来てよかった」と思ってくれたなら、来るかもしれない。同じ悩みを持つ者を連れてくることもある」
「連れてきてくれたらいいですね」
「そうだな」
「俺——できるだけ多くの者に、「ここに来てよかった」と思ってほしいです。それが——門番の仕事だと思います」
ゴブが少し照れた顔をした。ゴブリンが照れているのがわかるようになったのは、いつ頃からだろうと俺は思った。
「レン。俺——門番になれますか、ちゃんと」
「もうなっているぞ」
「正式じゃないですよ」
「正式かどうかと、なっているかどうかは——別のことだと思う。ドランが「正式な門番」だったかどうかは知らない。でもドランはここで、来た者の話を聞いていた。それが門番だ」
「……俺は、ドランみたいになれますか」
俺は少し考えた。
「ドランみたいになる必要はないかもしれない」と俺は言った。「ドランはドランで、お前はお前だ。ただ——お前がやっていることは、ドランがやっていたことと——同じ方向を向いている」
「同じ方向、か」とゴブが言った。「俺がドランと全く同じことはできないですよね」
「できない。そもそもドランと俺も——同じことをしていたわけじゃない。ドランのやり方があって、俺のやり方がある。ただ——「来た者の話を聞く」という方向は、同じだ」
「方向が同じなら——続けていける、ということですか」
「そういうことだと思っている」
ゴブが空を見た。
「……ドランに見ていてほしいですね。今日のこと」
「見ているかもしれない」
「そうですよね」とゴブが言った。「ドランは——ここから離れていないと思います。俺、そう信じています」
「根拠は」
「ないです。でも——信じています」と、ゴブは言った。「それもレンに習いました」
石門の向こうで、第七迷宮が静かに息をしていた。




