第132話「理由がなくなる」
「お前がここにいる理由が——なくなるな」とカイルが翌週また来て言った。
前回の通信の続きを話しに来た、という顔だった。カイルはそういうことをする。一度言いかけたことを、しまい込んでおけない性格だ。馬で三時間かけて来ることを、それほど大事にしていない——いや、逆かもしれない。大事だから来る。
「なくなるかもしれない」と俺は言った。
「それでいいのか」
「いいかどうかではなく——そういうことだと思う」
「引き継いで去る、ということか」
「去る、というより——ここには来られる。ただ、「守る担当」ではなくなる。旅人として来ることになるかもしれない」
「……それを、寂しいとは思わないか」とカイルが言った。
俺は少し考えた。
「寂しいかどうかはわからない」と俺は言った。「ただ——ゴブが門番になることは、いいことだと思う。ドランが守っていたものを、ゴブが続ける。俺が来る前から続いていたものが——続いていく」
「つながり、か」
「ゴブが「繋がって繋がって俺のところまで来た」と言っていた。そういうことだと思う」
「誰から誰に、どう繋がったんだ」
「ドランからゴブに、ゴブから俺に、俺からフォルに、フォルからカーラとお前に——そういう順番だと俺は思っている。細かくは違うかもしれないが」
「俺もその繋がりに入っているのか」
「入っている。入ったと思う」
カイルが石の上に座って、石門を見た。しばらく何も言わなかった。
「お前に言いたいことがある」とカイルが言った。
「なんだ」
「最初——俺はお前のことが嫌いだった」
「知っている」
「なぜ知っている」
「顔に出ていた。最初からずっと」
「お前は門番のくせに何をしているんだと思っていた」とカイルが続けた。「魔物と話して、王都に呼ばれて、議会を動かして。俺の仕事を取られた気もした。俺はAランクを目指して、冒険者として正面から戦って——お前は横から来て、全部変えていった」
「そうだったな」
「でも——お前が聞いていたから、俺も聞けるようになった。フォルが俺に話しかけてきて、俺は驚いたが——逃げなかった。逃げなかったのは、お前がそうしているのを見ていたからだ。認めたくなかったが——そういうことだ」
「そうか」
「そうだ。それだけ言いたかった」
「なぜ今日言った」と俺は聞いた。
カイルが少し間を置いた。「……お前がいなくなる前に——言っておいた方がいいと思ったからだ。言いそびれてから後悔するのが、俺は嫌いだ」
「そうか」
「そうだ」
「それを言いに来るために馬で三時間かけて来たのか」
「そうだ。悪いか」
「悪くない」
俺は少し間を置いた。
「カイル」と俺は言った。
「なんだ」
「俺も認めたいことがある」
「なんだ」
「お前が黙って聞いたことは——俺には難しかった。俺はいつも何かを言ってしまう。「まあ」とか「そうかもしれない」とか、何かを言わないと落ち着かない。お前が黙って座っていられるのは——俺にはできない。お前の黙り方は、お前にしかできないやり方だ」
カイルが少し間を置いた。
「……それは、褒めているのか」
「褒めている」
「素直じゃないな、言い方が」
「言い方が下手なのはそうかもしれない。でも——本当のことだ」
「……わかった。受け取る」
カイルが立ち上がって、馬の方に向かいながら言った。
「ゴブの門番登録——俺も賛成票を出せる立場になったら出す。管理局の人間として、一票持てるかもしれない」
「確認してみるか」
「してみる。——もう一個」
「なんだ」
「お前が去った後も——ここには来る。お前がいなくても、ゴブがいる。フォルがいる。外から来るものが来るかもしれない。俺には——続けなきゃならない理由がある」
「そうか」
「そうだ。報告しておく」と言って、カイルが馬に乗った。
俺は「ありがとう」と言った。
カイルが振り返って、少し驚いた顔をした。
「……お前が「ありがとう」と言うのは珍しいな」
「珍しいか」
「初めて聞いた気がする」
「そうかもしれない。でも——今日は言いたかった」
馬が動き始めた。カイルの背中が、石畳の道の先に消えた。




