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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
門番、世界と話す

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第131話「カイルの報告」

カイルから通信が来たのは三日後だった。


 昼前、俺が定期点検をしていたところに繋がってきた。声の調子が——いつもとわずかに違った。何かが動いたときのカイルは、こういう声になる。


「第四迷宮の件——一個だけ動いた」


「話せたのか」


「話せた。ちょっとだけ。「また来い」と言われた」


「それで十分だ」


「十分なのか。俺は何も解決しなかったぞ。交渉の結論を出せていない。具体的な約束も取れていない」


「また来い、と言われたなら——解決の入口には立っている。入口に立てたら十分だ、最初は」



 



「お前みたいにはいかない」とカイルが言った。「お前は一回で距離が縮む。俺は何回行っても縮んでいる気がしない」


「縮んでいる。「また来い」というのは——お前を拒絶していないということだ。拒絶するなら「来るな」と言う。来ることを許可されている。それが最初の一歩だ」


「「また来い」が歓迎じゃないことはわかっている」


「歓迎じゃなくていい。歓迎まで行くには時間がかかる。入口と歓迎は——違う段階だ。今はまだ入口でいい」


 少し沈黙があった。カイルが考えているのか、受け入れているのか、判断しかねた。



 



「うまくいかないことが多かった」とカイルが言った。「向こうが話しかけても、俺は何を言っていいかわからなくて黙ってしまった。沈黙が続いて、「こいつは聞く気がないのか」と思われたかもしれない」


「黙っていたのか。そのまま?」


「そうだ」


「それが返事になっていることもある」


「黙っているのが?」


「向こうが「こいつは跳ね返さないのか」と気づく場面がある。攻撃的なことを言っても、暴れなかった。それを向こうが確認しようとしている場合——黙って耐えることが、「俺は跳ね返す気がない」という意思表示になることがある」



 



「……俺が黙っていたのを——相手はどう受け取ったんだろう」とカイルが言った。


「確認してみるか。次に会ったとき、「前回俺が黙っていたとき、どう感じたか」と聞いてみろ」


「そんなことを聞いていいのか」


「聞かないとわからない。それがわかるのは聞いた後だ」


「お前ならそう言うな」


「そういう口癖になっているらしい」


 カイルが短く笑った。呆れているのか、認めているのか——その両方だと思う。



 



「向こうが「また来い」と言ったのは——俺のことを「まだ手放す気はない」ということかもしれない」とカイルが言った。「交渉相手として、まだ使えると思っているのか」


「そうかもしれない。ただ——それだけじゃないかもしれない。「また来い」には「来てほしい」が混じっていることがある。相手が認めていないだけで」


「「来てほしい」を「また来い」と言う、か」


「言葉と気持ちが一致しないことはよくある。最初のうちは特に。正確に言葉にする前に、まず来てほしいという気持ちが出る——それが「また来い」になることがある」


「……どっちだと思う」


「わからない。ただ——「また来い」と言われたなら、また行けばいい。それだけだ」



 



 少し間が空いた。


「少し聞いていいか」とカイルが言った。


「なんだ」


「お前は——この先、どうするつもりだ。スキルの引き継ぎ含めて」


「まだ決まっていない。ただ——ゴブが門番になる話が進んでいる」


「ゴブが門番、か」とカイルが言った。少し間を置いてから、「……それは、いいことだな」と言った。


「そうだと思っている」


「ゴブがなるなら——ゴブはちゃんとやれる。あいつはもう——俺より話を聞けるかもしれない」


「そうかもしれない」


「認めたくないが、そうかもしれない」



 



 カイルが「お前がここにいる理由が、そのうちなくなるな」と言った。


「そうかもしれない」と俺は言った。「それで問題はないと思っている」


「問題ないのか。なくなることが」


「続けてくれる者がいる。続けるべき者がいる——それで十分だ。俺がいなくなることと、続くことは——別のことだ」


 カイルが少し黙った。


「……お前は、すごくあっさりしているな」


「そうかもしれない」


「俺だったら——もっとこだわる気がする。自分がいなくなることに」


「こだわり方が違うだけかもしれない」と俺は言った。「俺は——いなくなることにはこだわらない。でも——続くかどうかには、こだわっている」


 少し間があった。


「……そうか」とカイルが言った。「それが、お前の「こだわり」か」


 通信が切れた後、石門の向こうで風が動いた。

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