第125話「ゴブが門番になりたい」
「門番になれますか」とゴブが言った。
俺はすぐに答えなかった。
夕暮れだった。第七迷宮の前、石の縁に二人で座っていた。西の空が橙色に染まっていて、迷宮の石門にその色が落ちていた。ゴブは俺の隣で、膝を抱えていた。
「第七迷宮の門番、ということか」
「そうです。レンがいつか戻る——ということは、誰かがここを守ることになります。俺がなりたいと思っています」
「理由は」
「ドランがここを守っていた。俺はここに来て、ドランに守ってもらった。次は俺の番だと思います」
短かった。シンプルだった。でも余計なものが何もなかった。
「門番は——難しい仕事だぞ」と俺は言った。「話を聞くだけじゃない。書類もある。巡察との折衝もある。知性体の記録を取って管理局に報告する義務もある」
「書類は……難しいですが、やります」
「人間語は読めるか」
「少し読めます。勉強してます」
「いつから」
ゴブが少し間を置いた。
「ドランが消えた後から。いつか必要になると思って」
俺はゴブの横顔を見た。ドランが消えた夜を、俺はまだ覚えている。光が消えた後、第十七層の石が崩れる音がして——ゴブが何も言わずに、迷宮の奥の方を見ていた。あの夜から、ゴブは人間語の文字を覚え始めていたのか。
俺はスキルを確認した。
【迷宮管理Lv.8——「門番登録機能」:有効】
そういう機能があるのかと、少し驚いた。Lv.1の頃にはなかった表示だ。
「スキルに「門番登録」という機能がある」
ゴブが俺を見た。「それを使えば俺が門番になれますか」
「スキルで登録するだけでは足りないかもしれない。王国の承認が必要になる可能性がある。人間じゃない門番、という前例がないからな」
「人間じゃなくてもなれますか」
「わからない。ただ——カーラに聞いてみる価値はある」
俺はスキルウィンドウをもう一度確認した。
【門番登録機能:対象選択待ち。選択した者は「第七迷宮の管理者」として登録されます。スキルのサポートを受けることができます】
サポートを受ける。スキルがゴブを助けてくれる、ということだ。
「ゴブ」と俺は言った。
「なんですか」
「スキルが——お前を選べると言っている」
ゴブが静かになった。夕空の橙色が、ゴブの銀色の鱗に落ちていた。
「スキルが……俺を?」
「登録する前でも、スキルが「対象選択待ち」と表示している。お前が——候補に入っているのかもしれない」
しばらく沈黙があった。虫の声が遠くで始まった。迷宮の奥の方から、第四層の定時報告音が流れてくる。ゴブが立てている仕組みだ。毎朝、定時に奥から信号を出して「異常なし」を知らせる——そういう仕組みを、ゴブが自分で作っていた。
「カーラさんは——俺を門番にすることに賛成してくれますか」とゴブが言った。
「わからない。でも聞いてから判断する、だろ」
「俺もそれを言えるようになってきました」
「気づいてた」
「レンに似てきましたか」
「お前のやり方だと思う。俺と同じじゃない」
「どう違いますか」
俺は少し考えた。
「お前は——聞く前に、もう信じている。俺は聞いてから信じる。どちらがいいかはわからない。ただ違う」
ゴブが静かに考えた。
「……ドランも、俺のことを聞く前に信じていた気がします。第四層まで来てくれた最初の日、俺のことを知らなかったのに——「大丈夫だ」って言ってくれた」
「そうかもしれない」
「だから俺もそうします。信じてから、聞く。——レン、俺、ここにいていいですか」
その言い方は、「門番になれますか」とは少し違った。「この場所に自分の場所があるか」という問いだった。
「いていいぞ」と俺は言った。「ここはお前の場所だ。ドランが守っていた場所を、お前が次に守る。それは——続いている」
ゴブが空を見た。
「……ドランに報告したいです。今日のこと」
「どこかで聞いているかもしれない」
「そうですよ」とゴブは言った。「ドランは——ここを見ています。俺はそう思っています」
石門の向こうで、夜が来始めた。
【迷宮管理Lv.8——「門番登録機能」:対象選択待ち。ゴブ(第七迷宮・第4層小隊長)——適性確認済み】
スキルが、静かにそう表示していた。




