第124話「最後のこと」
「最後はどうするつもりだ」というカイルの問いが、翌日になっても頭の隅に残っていた。
答えは出ていた。出ていたが、声に出したことはなかった。
昼前、ゴブが出かけている間に、俺は一人で門の前に座っていた。スキルウィンドウを開いて、いくつかの数値を確認する。封印強度。迷宮管理レベル。各層の状態。全部、以前より安定していた。
答えを声に出す必要が来ているかもしれない、と思った。
カイルが翌日来た。昨日の問いの続きを聞きに来たのは、顔を見ればわかった。
「最後は——門番に戻る」
「それだけか」
「それだけだ」
「スキルはどうする。Lv.8まで上がってるんだろ」
「上がった。でも——スキルはこのまま持ち続けるものじゃないと思っている」
「誰かに渡すのか」
俺は少し考えた。「正確には——引き継がせる、が近いかもしれない。この迷宮を守る誰かが持つべきスキルだ。俺が持ち続ける必要はない」
「俺に、ということか」とカイルが言った。
俺はカイルを見た。表情が、普段と少し違った。聞きたかったわけじゃないが、聞かずに帰れないという顔だった。
「お前が引き受けたいならそうかもしれない。お前じゃなくても構わない」
「引き受けたいとは思わない」とカイルは言った。迷いなく、だった。「ただ——引き受けるべきなら引き受ける」
「それでいい」
「それでいいのか。俺が「したくない」と言っているのに」
「やりたいかどうかより——できるかどうかが大事な場面がある。お前はできる」
「なぜそう思う」
「お前は正直だから」
「正直であることと——できることは関係するのか」
「関係する。外からのものと話すには——正直な者の方が向いている気がしている。お前は「うまくいかなかった」と来る。「できなかった」と来る。その正直さが——向こうに通じることがある。俺が見ていてそう思う」
カイルが少し黙った。「……正直さが——そういう意味になるとは思っていなかった」
カイルが「……お前みたいにはなれない」と言った。
「お前みたいになる必要はない」と俺は言った。「お前のやり方でやれ」
「お前みたいに聞けるようになれるか、という意味だ」とカイルが訂正した。「俺の話の聞き方は——お前とは違う。お前は静かに聞く。俺はうるさく聞く。それでいいのかと思う」
「うるさく聞くのがお前の聞き方だ」
「そんなやり方で、知性体が動くのか」
「第四迷宮で——動き始めているんだろ」
カイルが少し止まった。
「……うるさく来て、黙ってしまって、「うまくいかなかった」と言いに来る——それが俺の聞き方か」
「かっこうはよくないかもしれないが」
「全然よくないな」
「でも続けてくれている。それが大事だと思う」
カイルが帰った後、ゴブが来た。迷宮の奥から戻ってきたらしく、泥が少しついている。
「カイルさん、また来てましたね」
「相談があったらしい」
「仲良くなりましたね、二人」
「仲がいいとはちょっと違うかもしれない」
「でも来ますよ。毎回」
「そうだな」
ゴブが少し間を置いてから「レン」と言った。呼び方が、少し変わった気がした。最初の頃は「アシダ」と呼んでいた。いつからか「レン」になっていた。
「なんだ」
「一つ聞いてもいいですか」
「聞いてくれ」
ゴブが少し背を伸ばした。俺に向き直った、という感じがした。
「俺——門番になれますか」
俺は少し間を置いた。
「第七迷宮の門番、ということか」
「そうです」とゴブは言った。「レンがいつか戻る——ということは、誰かがここを守ることになります。俺がなりたいと思っています」
俺は答えを急がずに、ゴブの顔を見た。臆病だった頃の面影は残っている。でも今の目には、何か決まったものがあった。
「理由を聞かせてくれ」
「ドランがここを守っていた。俺はここに来て、ドランに守ってもらった。次は俺の番だと思います。——それが理由です」
それが全部だった。シンプルで、ゆるがない。
「まあ」と俺は言った。「聞いてから判断しよう」
「聞いてくれますか」
「今ちょうど聞いた」
ゴブが「……それはもう決まったということですか」と言った。
「なんとも言えないが——悪くない理由だと思った」




