第120話「接続点」
封印の壁に——変化が起きた。
壁が薄くなった感じがした。物理的に変わったわけではない。でも——向こう側の「気配」が、近くなった気がした。
「見える」とカイルが言った。「フォルが——壁の向こうから、こっちに近づいてきている。壁は残っているが——透けているみたいな感じがする」
「スキルの処理が続いている。少し待ってくれ」
【接続点設計——処理中。封印層と外部の「共鳴点」作成中——】
共鳴点。
俺はその言葉を見た。
「壊すわけじゃないのか。共鳴させる」
「どういう意味ですか」とカーラが聞いた。
「封印を消すわけじゃない。封印を通して——声が届く点を作る。壁は残るが、特定の場所から声が通る」
「ガラスに小さい穴を開けるようなものですか」
「そういうイメージに近いかもしれない」
【接続点設計——完了。共鳴点:第七迷宮・第四迷宮に各一点作成】
スキルの表示が変わった。
【迷宮管理Lv.8——「外部知性体との恒常通信」:有効】
「恒常通信」
「常に通信できる、ということですか」とカーラが言った。
「ここに来なくても——俺のスキルを通じて、フォルたちと声が届く、ということだと思う」
「…それは大きな変化ですね」
フォルに接続した。
「聞こえるか」
【受信:「聞こえる。何かが変わった。お前の声が——前より近くに感じる】
「接続点が作れた。これで——ここに来なくてもお前と話せる」
【受信:「……封印は残っているのか】
「残っている。壁は壊れていない。でも——声が届く点が生まれた」
【受信:「……「出るな」という意思のある壁ではない、ということか】
「そうだ。壁は壁でも——声が通る壁だ」
【受信:「……三百年待ったのが——これか】
「そうかもしれない」
【受信:「……想像と違った。もっと大きなことが起きると思っていた。でも——小さく見えるものが、大きな意味を持つことがある、ということか】
「そうだな」
【受信:「……一つ、聞いていいか】
「聞け」
【受信:「お前は——「調停者」と呼ばれているらしい。ゴブが言っていた。調停者というのは——どういうものだ】
「俺自身は「門番」だ。魔物や知性体との間に立って、話を聞く者、と理解している」
【受信:「話を聞く、だけか。それが「調停者」の仕事か】
「それだけだ」
【受信:「……それだけで——三百年動き続けたものが、止まったのか】
「そうなったな」
ゴブが「聞こえているか、フォル」と人間語で言った。
俺が翻訳して届けた。
【受信:「聞こえている。ゴブ、とはお前か。「同じ難民として話したい」と言っていた者か】
「そうだ。俺は第七迷宮のゴブリンだ。お前のことは——まだよくわからない。でも——行き場所の話を、また聞いてくれ。俺たちが難民だったときに場所を作ってもらったみたいに——お前たちにも場所を作りたいと思っている」
【受信:「……接続点が、その「場所」ということか】
「それが一つ目だ。声が届く場所ができた。次は——もし来たいなら来られる場所も、考えられるかもしれない。急がなくていい。俺たちも急いで決めなかった」
【受信:「……急がなくていい、か。三百年動き続けたものに、それを言うのか】
「三百年待ったんだろ。ここからは——ゆっくりでいい」
カーラが「封印強度は」と俺に聞いた。
「確認する」
【封印強度:43%→47%(増加中)】
「上がっている。フォルたちが押すのを弱めているから、自然に回復してきている」
「安定域は」
「60%を超えれば——当面は安全だと思う。今のペースが続けば、一ヶ月以内に届く」
「……一ヶ月」
「まだわからないが——方向は見えてきた」
帰り道、カーラが「アシダ殿」と呼んだ。
「何だ」
「一つ聞いていいですか」
「聞いてくれ」
「あなたは——これが終わったら、どうするつもりですか」
「終わった後、か」
「封印が安定して、外の脅威との接点が作れて——それが終わったら」
「門番に戻る」
「それだけですか」
「それだけだ。俺の仕事は門番だ」
カーラが「……あなたは本当に、門番なんですね」と言った。
「そうだろ」
「普通の門番は——ここまでしません」
「まあ——聞いてから判断したら、そうなった」
夜、フォルから接続が来た。
今まで俺が呼びかけていたのが——フォルから来た。
【外部——フォルより接触:「一つだけ聞かせてくれ】
「何だ」
【「「聞いてから判断しよう」という口癖——それは学んだものか、生まれ持ったものか】
「どちらかはわからない。気づいたらそうなっていた」
【「……俺たちも——学べるかもしれない。三百年かけて、口癖が「前に進む」だった。別の口癖を、学べるかもしれない】
「そうだな」
【「「聞いてから判断しよう」——俺もいつか、そう言えるかもしれない。调停者というのは——そういうものを作るのか】
「そういうものを作ろうとしている。できるかどうかはわからない」
【「……まあ——聞いてから判断しよう、か】
「その通りだ」




