第118話「行き場所」
「フォル。お前たちは——止まった後、どこにいるつもりだ」
【受信:「……考えたことがなかった。ただ動いていた。「どこにいる」という概念が——俺たちには薄かった】
「今は考えられるか」
【受信:「……考えてみると、わからない。俺たちには「場所」がある。「封印の外」という場所だ。でも——それが「いたい場所」かどうかは、別の話だ】
「「いたい場所」という概念があるのか」
【受信:「今まではなかった。でも——「出ていい」と言われてから、初めてそういう問いが生まれた。どこにいたいのか、という問いが】
「どこにいたいのか、わかるか」
長い沈黙があった。
【受信:「……わからない。ただ——「声が届く場所」がいい、とは思う。聞いてもらえる場所、という意味で】
「声が届く場所」
【受信:「三百年、声が届かなかった。届いたと思った場所に——今いる。悪くない】
ゴブが「どこに行きたいか聞いてみていいか」と俺に言った。
「聞いてくれ」
ゴブがフォルに向かって言った。俺が翻訳した。
「俺も元は難民だった。行き場がなくて、でも行き場が見つかった。今、ここにいる。「行き場がある」というのは——悪くない。お前たちが行きたい場所を——俺たちで用意できるかもしれない」
【受信:「……俺たちが行きたい場所を、内側の者が用意する?】
「俺たちが難民だったとき——調停者が場所を用意してくれた。交換条件を作った。今度は俺たちが——お前たちのために同じことをしたい」
【受信:「……なぜそうする。お前たちに、俺たちを助ける義務はない】
「義務じゃない。そうしたいからだ」
【受信:「……「そうしたいから」だけで動けるのか。理由はそれだけか】
「それだけで十分だ。俺がここに逃げてきたとき、調停者は「義務だから」とは言わなかった。「聞きに来た」と言った。それだけだった。でもそれで——俺たちは助かった」
俺はヴォルトに接続した。
「フォルたちが行きたい場所を——用意できるか」
「——どういう意味だ」
「封印の外にいるフォルたちが——今のまま「外」にいながら、声が届く場所を作れるか。完全に内側に来るわけじゃなく、でも外から一方的に押すわけでもない——そういう「場所」だ」
「——……通路設計で作ったものに近いかもしれない。「繋がりの場所」だ。お互いが行き来できる場所」
「作れるか」
「——試してみる価値はある。スキルがLv.8だ。通路設計の拡張版として、封印層と外の接続点を作れるかもしれない」
「フォルたちに聞いてみる」
「フォル。一つ提案がある」
【受信:「聞く】
「「外」にいながら、「内側と声が届く場所」を作れるかもしれない。完全に内側に来るわけでも、外に閉じ込められるわけでもない——接続点だ。そこに——お前たちがいれば、声は届く。俺のスキルを通じて、話せる」
【受信:「……「声が届く場所」を、作ってくれるということか】
「試みる、ということだ。できるかどうかはまだわからない」
【受信:「……俺たちがそこにいれば——お前たちと話せるのか】
「そうだ。話せる」
【受信:「……「聞いてもらえる場所」という意味で、それは——求めていたものに近い】
「求めていたもの」
【受信:「俺たちは——「なぜ」を知りたかった。知るためには、聞いてもらえる必要があった。「聞いてもらえる場所」がなかったから——押し続けるしかなかった。でも——そういう場所が作れるなら】
「押す必要がなくなる」
【受信:「……そうだ。止まれる。それは——俺たちが望んでいたことだと、今は思う】
カーラが「もし接続点が作れれば——議会への説明にも使える」と言った。
「どういう意味だ」
「「外の脅威と交渉した」という結果だけでなく——「こういう場所を作った」という具体的な成果が示せれば、議会も動きやすい」
「そうかもしれない」
「セルディン議員が帰ってから、三日後に議会で発言するそうです。そこで——何かを示せれば」
「いつだ」
「一週間後です」
「一週間で——接続点が作れるか」
「スキルが対応するかどうかわからない。でも——試してみる」
俺はスキルを展開した。
【迷宮管理Lv.8——「接続点設計」……機能確認中】
しばらく待った。
【「接続点設計」——機能あり。ただし全当事者の合意が必要】
また合意が必要だった。
「全当事者の合意、か」
「また全員に頭を下げに行くのか」とゴブが言った。
「そうなる」
「……調停者の仕事は大変だな」
「まあ——聞いてから判断しよう」




