第117話「よかったと思う」
「「止まれば、内側のものはよかったと思うのか」——その問いに、俺が答えていいか」
俺はカーラとゴブを見た。二人が頷いた。
「答える。内側のものを代表する立場ではないが——俺の立場で答える」
【受信:「聞く】
「よかったと思う。俺はここの門番だ。この迷宮を管理している。封印が守られれば——ここにいる難民も、ヴォルトも、全員が助かる。「よかった」と思うのは当然だ。だが——それだけじゃない」
【受信:「それだけじゃない、とは】
「お前が「止まれば」、お前も楽になるんじゃないかと思っている。三百年、止まれなかった。「止まれた」とフォルが言っていた。それを——いいことだと、俺は思っている。お前のために」
【受信:「……俺のために?】
「俺に押し続ける意味があったのか、と聞いた。「なぜ出てはいけないのか」の答えを求めていた。答えが来れば——もう押さなくていい。それは楽になることだと思う」
長い沈黙があった。
カイルが「光が——大きくなった気がする」と言った。
「大きくなった」
「明るくなったというか——広がったというか。フォルのときと同じような動きだ。何かを受け取って、処理している感じがする」
「揺らいでいるか」
「揺らいでいる。でも——攻撃的な感じじゃない」
【受信:「……俺たちは——「楽になる」ということを、考えたことがなかった】
「なぜか」
【受信:「動き続けることが——存在することだったから。止まれば、消えると思っていた。でも——フォルは止まっても、消えていない】
「止まっても消えない」
【受信:「それが——初めてわかった。フォルが止まった。それでも——ここにいる。俺たちの感知の中に、フォルがいる。消えていない】
「止まることと消えることは、別だ」
【受信:「……そうらしい。俺たちは——それを知らなかった。動き続けなければ消えると思っていた。だから——止まれなかった】
「今は?」
【受信:「……まだ怖い。でも——フォルが止まっている。消えていない。俺も——少し、考えてみてもいいかもしれない】
ゴブが俺に「どういう状況だ」と聞いた。
「フォルとは別の「光」と話した。止まれば消えると思っていたらしい。でもフォルが止まっても消えていないことで——「止まっても大丈夫かもしれない」と考え始めている」
「それは——進展か」
「かなりの進展だと思う」
「他の者たちも同じ状況なのか」
「フォルに聞く」
「フォル。今、別の者と話した。止まっても消えないとわかり始めているようだ。他の者たちも同じ考えか」
【受信:「……今、みんなに伝えている。全員が同じ反応ではないが——フォルが止まっても消えていないという事実は——全員が確認できている。それが——大きいと思う】
「大きい、とはどういう意味だ」
【受信:「証拠がある。言葉だけでなく、事実が見えている。それは——信じやすい。俺たちは——見えるものを信じてきた。押して、跳ね返されることで「出るな」という意思があると判断してきた。今は——止まったフォルが、ここにいる。それが「止まっても大丈夫」という証拠になっている】
カーラが「アシダ殿」と呼んだ。
「何だ」
「封印強度は」
スキルを確認した。
【封印強度:41%→43%(増加中)】
「上がっている。二ポイント」
「止まってきている——ということですか」
「向こうが押すのを弱めているなら、封印の強度は自然に回復する。今まで消耗していた分が——少しずつ戻っている」
「……それは、いつまで続くんですか」
「わからない。でも——今の状態が続けば、封印は安定する方向に向かっている」
カーラが「……本当に起きているんですね」と言った。
「何が」
「交渉が。バトルなしで。話を聞くだけで」
「まだ終わっていない。でも——方向は見えてきた」
帰り道、ゴブが「調停者」と呼んだ。
「何だ」
「一つだけ聞いていいか」
「聞け」
「フォルたちは——どこかに行くのか。止まった後、どこにいるんだ」
「聞いていない。フォルに聞いてみる」
「頼む。どこかに行くなら——ちゃんと行けるように、してやりたい」
「それはなぜだ」
「俺も逃げた。逃げてきたとき——行き場があった。調停者がいた。行き場がなかったら——どうなっていたかわからない。フォルたちも、ちゃんと行ける場所があればいいと思う」
俺はその言葉を聞いた。
「ゴブ。お前はいい調停者になれる」
「なれるわけない。俺はゴブリンだ」
「関係ない。聞き方を知っている。それが大事だ」
ゴブが「……まあ、そうだな」と言った。




