第114話「出ていいという言葉」
「三百年、初めて聞いた言葉だ」とフォルが言った。
俺はその言葉を聞いた。
「「出ていい」と言われたことが、なかったのか」
【受信:「ない。俺たちは——ずっと外にいた。内側が何なのか、内側が何を考えているのかも、わからなかった。封印を押すたびに跳ね返された。それが「出るな」という意思だと思っていた】
「でも今、「出ていい」と言われた」
【受信:「……どうすればいい】
「どうするかは——お前が決める。俺たちに決める権限はない」
【受信:「お前たちは——俺たちが外に出てくることを、望むのか】
カーラが俺に近づいてきた。「何と答えますか」と小声で言った。
「どう思う」と俺は聞いた。
「……私個人としては——出てきてほしい。話せているなら、出てきても怖くないと思う。でも議会は——まだそう思っていない」
「議会は関係ない」
「でも——長い目で見れば」
「今、フォルが「どうすればいい」と聞いている。今答えが必要だ。議会の決定を待って「決まったら答える」と言えば——もう聞かないかもしれない」
カーラが少し黙った。それから「……わかりました」と言った。「私の立場で答えます」
カーラが封印の壁に近づいた。
「届くかどうかわかりません。でも——話します」
俺がスキルで翻訳した。カーラが言った言葉を、フォルに向けて届けた。
「私は王国の副司令だ。議会を代表する立場ではないが——この場にいる人間として話す。お前たちが外に出てくることを——怖れている人間は多い。私もかつてそうだった。でも——今、ここで話しているお前は、怖ろしくはない。話している。聞いている。それは怖ろしいものがすることじゃない」
【受信:「……あなたは——俺たちを怖れていないのか】
「今は違う。最初はそうだった。でも——出てきたゴブリンと話した。知性体と交渉した。見た上で判断した。見る前に怖れていたものは、見た後に怖れる必要がなかった」
【受信:「……「見てから判断した」ということか】
「そうだ」
【受信:「……俺たちも——「見る」まで判断できない。内側に「出てきていい」と言われた。でも、本当に出ていいのかどうか、まだわからない】
「何があれば、わかる」
【受信:「……「出てきていい」と言った者が——本当にそう思っているかを、確かめたい。「出てきていい」と言ったヴォルトと——話したい】
俺はヴォルトに接続した。
「フォルが——お前と直接話したいと言っている」
「——直接」
「封印越しに。ヴォルトが話せるなら」
「——……私は長い間、向こうを「脅威」と呼んでいた。今更、話せるか——不安がある」
「不安があっても話せるか」
「——話せる」
「フォルも——内側のものを怖れている。互いに怖れている。でも両方が話したいと言っている」
「——……わかった。試してみる。ただし——あなたが翻訳してくれないと届かない」
「わかった」
俺がヴォルトとフォルの間に立った。
ヴォルトの言葉を受けて、フォルに届ける。フォルの言葉を受けて、ヴォルトに届ける。
最初の一言は——ヴォルトから来た。
「——出てきていい。三百年越しになったが——本当に、そう思っている」
フォルへ届けた。
【受信:「……三百年、待ったのか。俺たちが出てくるのを】
「ヴォルト、フォルがそう聞いている」
「——待っていたわけじゃない。でも——「出てきていい」と思えなかった。正確には——「出てきたら何が起きるか」が怖かった。今は——道がある。出てきても、どこに行けばいいかが——少し見えている】
フォルに届けた。
【受信:「……道がある。それはどういう意味だ】
「道というのは——封印が「壁」から「繋がり」に変わった。俺のスキルで設計した。出て行く場所がある」
【受信:「……出て行く場所がある。封印の外に、行ける場所がある】
「そうだ。すぐには難しいかもしれない。でも——可能性はある」
長い沈黙があった。
カイルが「フォルの光が——今まで見た中で一番、穏やかな感じがする」と言った。
「穏やかな」
「攻撃的でも、困惑でもない。ただ——静かに、何かを考えている感じがする」
フォルから答えが来た。
【受信:「……俺たちは——外に出たいわけじゃない。ただ——「出ていい」と言われたことが、なかっただけだ】
「どういう意味だ」
【受信:「「出るな」と言われ続けてきた。それが「出よう」という動きに繋がっていた。「出ていい」と言われれば——そこまで動く必要はない。どこにも行かなくていい】
「……封印を押していた理由が——「出るな」と言われていたからか」
【受信:「正確には——「なぜ出てはいけないのか」が知りたかった。理由が知りたかった。でも聞く手段がなかった】
「だから押し続けた」
【受信:「答えが来るまで、止める理由がなかった】




