第113話「内側にあるもの」
「内側にあるものを教える」と俺は言った。
「俺に説明させてくれ」とゴブが言った。
「お前が説明するのか」
「俺がいた場所だ。調停者より、俺の方が詳しい」
それはそうだった。
「頼む。俺が翻訳する」
ゴブが話し始めた。
「俺は第23層から逃げてきた。封印の内側——第23層より上には、俺みたいなゴブリンがいる。ハーピーがいる。他の種族もいる。俺たちは「難民」と呼ばれている。追われて逃げてきた、という意味でのな」
【受信:「……俺たちに追われて、ということか」】
「そうだ。お前たちが——意図せずに近づいてくることで、俺たちは圧迫された。逃げ場がなかった。調停者が来るまで、どうすることもできなかった」
【受信:「意図せず、と言ったな」】
「ああ。お前たちに悪意がなかったなら——俺たちが逃げる必要も、本当はなかったかもしれない。でも——わからなかった。近づいてくるものが何なのか、知る手段がなかった」
【受信:「……俺たちも、内側のものが何なのか——わからなかった」】
カーラが「今、何を話しているんですか」と小声で俺に聞いた。
「互いに、相手が何者かわからなかった、という話だ」
「それは——」
「そうだ。互いに見えなかった。触れることしかできなかった。それが三百年続いた」
カーラが「……最初から話し合えていれば、こうはならなかった」と言った。
「できなかった。手段がなかった。でも——今は手段がある」
ゴブが続けた。
「内側には——迷宮を守っているものがいる。ヴォルトと呼んでいる。知性体だ。長い間、封印を維持してきた。お前たちが押してきて、維持するのが限界に近くなっていた」
【受信:「……ヴォルト。それは——封印を作ったものか」】
「封印を作ったかどうかは知らない。維持しているものだ」
【受信:「……封印を維持する理由は何だ。俺たちを封じ込めるためか】
「それも聞いていいか」とゴブが俺に言った。
「フォルに聞け。俺が翻訳する」
ゴブがフォルに向かって言った。
「お前は——封印を壊したかったのか」
【受信:「……壊したかったわけじゃない。先に何があるのか、知りたかっただけだ。でも——「封じ込められている」と思っていた。封印は——向こうが俺たちを押さえつけているものだと」】
「そう思っていたのか」
【受信:「三百年、触れるたびに跳ね返された。「出るな」という意思を感じていた。だから——押し返していた】
「押し返していた、か」
ゴブが俺を見た。
「攻撃じゃなかった。押し返しだったのか」
「フォルには、そういう認識だったらしい」
ヴォルトに接続した。
「聞いていたか」
「——聞いていた。封印の内側から感じていた」
「フォルは「封じ込められていると思っていた」と言っている。封印はそういうものだったか」
ヴォルトが少し間を置いた。
「——封印を作ったのは、俺たちではない。私たちが生まれたとき、すでにあった。維持するように——そういう性質として生まれた。なぜ封印があるのか、私にも正確にはわからない」
「わからない」
「——ただ、封印の外から何かが押してくることは知っていた。押してくるものが何なのかは——知らなかった。危険なものだと思っていた」
「フォルたちも同じだ。互いに、相手が危険だと思っていた」
「——……そうかもしれない」
俺はフォルに言った。
「封印を維持しているヴォルトに聞いた。ヴォルトも——お前たちが何者かを知らなかった。ただ「外から押してくる危険なもの」だと思っていた」
【受信:「……内側も、俺たちを知らなかったのか】
「そうだ」
【受信:「三百年、知らないまま、互いに押し合っていたのか】
「そうなる」
長い沈黙があった。
カイルが「フォルの光が止まった」と言った。「ぶれていない。止まっている。何かを処理しているような感じがする」
「考えているんだろう」
「どれくらいかかる」
「わからない。待つ」
一時間後、フォルから応答が来た。
【受信:「……一つだけ聞いていいか】
「聞け」
【受信:「内側のものは——俺たちを、「出ていい」と言うか】
俺はヴォルトに接続した。
「フォルが——「出ていいか」と聞いている」
「——出ていい。封印は——「外を封じる」ためではなかったのかもしれない。「互いを守る壁」だったのかもしれない。でも今は——道がある。壁である必要はない」
俺はフォルに伝えた。
「内側のものは——「出ていい」と言っている」
【受信:「……三百年、初めて聞いた言葉だ】




