第111話「どうすれば聞く」
三日間、三人で封印層に通い続けた。
毎日、フォルは「いた」。毎日、短いやりとりがあった。会話が少しずつ、長くなってきた。
「向こうが——慣れてきている気がする」とカイルが言った。
「俺もそう思う。最初は返答まで時間がかかっていたが、今は少し速くなっている」
「でも——本質的な部分はまだ話してくれない」
「本質的な部分、とは」
「なぜ封印を押していたのか。外から何を目的としてここにいるのか」
「そうだな。「止まれた」とは言っていた。理由があるかどうか考えた、とも言っていた。でも——「なぜここにいるのか」は、まだ答えていない」
ゴブが「俺に考えがある」と言ったのは、その夜だった。
「聞く」
「フォルは、「なぜ俺が話に来るのか」を不思議に思っている。「なぜそこまでするんだ」と何度も聞いてくる。でも調停者の答えが——俺には今ひとつ響かないんじゃないかと思う」
「俺の答えが」
「「聞かないと損だから」「聞いてから判断するから」。それはお前の話だ。お前がなぜ来るのか、の説明だ。でも——フォルが本当に聞きたいのは」
「フォルが何者かを誰かが聞いているか、だと思う。「俺たちは何なのか」が聞きたいんじゃないか」
「調停者が言うとそうなるが——俺が言うと違う」
「どう違う」
「俺も難民だ。第七迷宮の中にいる難民だ。外の脅威に追われて逃げてきた。フォルも——何かから来たはずだ。何かを求めてここにいるはずだ。俺が同じ立場として話せば——「なぜここにいるのか」を聞きやすいかもしれない」
俺はその提案を聞いた。
「お前が話す、ということか」
「俺にはスキルがない。フォルに届くかどうかわからない。でも——お前が翻訳してくれれば、俺の言葉を伝えられる」
「俺が翻訳して届ける。フォルの返答を俺が受けて、お前に伝える」
「そういうことだ」
「カイルは「見える」からフォルの状態を確認できる。俺が翻訳して届ける。ゴブが「感じる」で補う。三人でやれば——今より多くのことができる」
「うまくいくとは限らない」
「わかってる。でも——試してみないと損だろ」
ゴブが俺の言葉を真似た。俺はそれに気づいた。
「うまくなったな」
「三ヶ月、調停者と一緒にいたからな」
翌日、カーラに状況を伝えた。
「ゴブが自分で話す、ということですか」
「翻訳を通してだが。ゴブが難民として、同じ立場から話しかける」
「それは——効果があると思いますか」
「わからない。ただ、俺が「聞かないと損だ」と言い続けても、フォルには「お前の話だ」と思われているかもしれない。別の視点から来た言葉は、刺さり方が違うかもしれない」
「なるほど」
「カーラ」
「何ですか」
「カーラも来るか」
カーラが「……私が封印層に?」と言った。
「人間の側から話す人間がいた方がいい。ゴブが難民として話す。俺が翻訳する。カーラが王国の人間として——「王国も協力する」という意思を見せる」
「でも——議会の許可が」
「セルディン議員はここに来た。見た。帰った。議会の動向はどうだ」
「……今、内部で議論中です。セルディン議員が報告したことで、「封印問題は実在する」という認識は広がっています。ただ——行動に移すかどうかはまだ」
「議会が動く前に、俺たちが動く必要があるかもしれない」
「議会の許可なしに」
「許可を待っていたら、封印強度が30%を切る前に動けなくなるかもしれない。封印が消えたとき、「許可を待っていた」という理由は——意味を持たない」
カーラが長い間、黙った。
「……わかりました。行きます」
「いいのか」
「私が決める、ということです」
それはゴブがよく言う言葉だった。




