第109話「カイルが降りた」
フォルとの接触が三日続いた。
会話と呼べるほどではない。俺が封印の壁の前に立つと、スキルが反応した。フォルが「いる」ことを確認した。短いやりとりがあった。長い沈黙があった。
それでも——前回より、沈黙の時間が少し短くなっていた。
「慣れてきているのか、向こうが」とゴブが言った。
「そうかもしれない。俺が来ることに慣れてきている」
「俺が来る前に慣れていたら、な」とゴブが言った。少し笑っていた。
「お前がいない方が怖がらないかもしれない」
「……そりゃそうだ」
四日目の夜、カイルから緊急通信が来た。
「レン、俺、第四迷宮の封印層まで降りた。一人で」
「案内なしでか」
「ヴェグに怒られたが、行った。第三迷宮で外部信号が強くなっているという報告があって——比較のために第四でも確認したかった」
「それで」
「壁の前に立った。そしたら——スキルが動いた」
「動いた、というのは」
「お前のスキルほど詳しい表示は出ない。でも——「圧力増加」という表示が出た。それから——俺の前の壁が、なんか、揺れた気がした」
俺は少し考えた。
「揺れた」
「物理的にじゃない。なんか——こっちに何かが来た感じがした。俺には届かなかったけど、壁が薄くなった感じがした」
「封印強度はどうなった」
「Lv.5のスキルで確認したら、第四迷宮は36%に下がっていた。三日前は38%だったのに」
「二ポイント落ちた」
「お前の第七は今日どうだ」
「こっちは41%で安定している。フォルと話しているから、向こうが押すのを止めている」
「じゃあ、お前と話しているフォルじゃない別の何かが——第四を押している可能性があるのか」
「そうかもしれない」
カイルが「俺、もっと近づいてみた」と言った。
「どこまで」
「壁に触れた」
「触れたか」
「そしたら——なんか、意識が引っ張られる感じがした。一瞬だけ。それから——頭が痛くなって、倒れた」
「今はどうだ」
「ヴェグに拾ってもらった。意識はある。頭痛が残っている」
「すぐ出てきたか」
「出てきた」
「無茶をするな」と俺は言った。
「わかってる」
「わかってないから一人で行った」
「……それはそうだが」
カイルが「でも」と言った。
「一瞬だけ、向こうが見えた気がした」
「見えた」
「聞こえた、じゃなくて、見えた。お前は「聞こえる」という感覚で話しているんだろ。俺は——光みたいなものが、一瞬だけ見えた」
「お前のスキルと俺のスキルで、感知の仕方が違うかもしれない」
「そうかもしれない。でも——一つだけわかったことがある」
「何だ」
「向こうは、複数いる。俺が見えた光は——一つじゃなかった。いくつかあった」
翌日、ゴブに伝えた。
「複数いる」
「一体じゃないのか」
「カイルが見た。複数の「光」があったと言っている。スキルの感知の仕方が俺と違うから、正確かどうかはわからないが——複数の可能性が高くなった」
「フォルは一体か、複数のうちの一体か」
「一体だと思う。でも——全員が同じ目的で動いているかどうかはわからない」
「バラバラで動いているかもしれない」
「そうかもしれない。フォルは「三百年、止まれなかった」と言っていたが——フォル自身の判断で動けなかっただけで、集団としての意思が別にあるかもしれない」
ゴブが「それはまずいのか」と言った。
「わからない。フォルとの接触が進んでいるが——フォルが「止まる」と言っても、他の「光」が押し続けているなら、封印は削れ続ける」
「じゃあフォル以外とも話さなければいけない」
「そうかもしれない。ただ——まずフォルとの信頼を作ることが先だ。一つの接点が固まれば、他に広がる可能性がある」
「可能性だけか」
「今は可能性の話しかできない。でも——」
俺はスキルを確認した。
【外部信号——フォル:待機中。その他信号:複数確認、動向不明】
「複数が確認された。動いているものがある。でも——フォルはまだ待っている」
「待っているということは」
「俺が次に来るのを待っている。俺との接触を、続けようとしている」
「それは——いいことか」
「悪くはない」




