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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層との交渉

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第108話「交渉は無意味だ」

カイルから通信が来た。


「レン、俺も封印層に降りてみた」


「一人でか」


「第四迷宮のヴォルト類似の知性体——ヴェグと名乗った——に案内してもらった。封印の壁の前まで行った」


「外部信号は」


「感じた。「いる」という感覚が強かった。でも——俺には届かなかった」


「届かなかった」


「お前が言っていた「何かが来る」感覚がない。壁に向かって話しかけたが、スキルに何も表示されなかった」


「スキルが違うからかもしれない。俺のスキルはLv.8に達している。お前のは」


「Lv.5だ。封印の外を感知する機能はある。ただ——翻訳まではできないのかもしれない」


「そうかもしれない」


「つまり——向こうと話せるのは、今のところお前だけか」


「今のところは」



 



 二日後、外部信号から返答が来た。


 俺が封印の壁の前に立った瞬間、スキルが反応した。


【外部信号——接触開始。受信内容:「答えを考えた」】


「聞く」


【受信:「「なぜ話す必要がある」——に対する俺の答えは、「必要はない」だ」】


「そうか」


【受信:「交渉など無意味だ。話すことで、何かが変わったためしがない」】


「なぜそう思う」


【受信:「三百年、押し続けた。誰も止めに来なかった。誰も話しかけなかった。変わったものは何もない」】


 俺はその言葉を聞いた。


「誰も来なかった、というのは——俺が来るまで」


【受信:「……そうだ」】


「俺が来たことで、何かが変わったか」


 沈黙。


【受信:「止まった」】


「止まった、というのは」


【受信:「押すのを止めた。お前が「聞こえるか」と言った。止まってみた。意味があるかどうか、わからなかったが——止まれた」】



 



 ゴブが隣で「止まれた」という言葉を繰り返した。


「止まれた——というのは、止めたかったということか」と俺は聞いた。


【受信:「……」】


「押すのを止めたかった、ということか」


【受信:「止めることに意味があるかどうか、わからなかった。押し続けることも、止めることも——どちらも結果が見えなかった。だから、押し続けた」】


「結果が見えなければ、続けることを選んだ」


【受信:「変える理由がなかった」】


「今は」


【受信:「……お前が来た。「なぜ」と聞いた。答えを考えた。三百年、誰も「なぜ」と聞かなかった」】


 俺は少し待った。


「「なぜ」と聞かれたことで、何が変わった」


【受信:「理由を考えた。初めて考えた」】


「理由はあったか」


【受信:「……わからない。でも——考えたことで、「止まれる」ということを知った」】



 



 ゴブが「調停者」と小声で言った。


「わかってる」


「これは——交渉できるかもしれない」


「かもしれない。ただ——」


「ただ」


「向こうはまだ「交渉は無意味だ」と言っている。信用していない」


「でも話している」


「話すことと、信じることは別だ。でも——話していることは事実だ」


 俺はもう一度、封印の壁に向かった。


「お前の名前を教えてくれ」


 長い沈黙があった。


【受信:「……名前は、ない」】


「ないのか」


【受信:「俺たちは「個」として呼ばれたことがない。「外の脅威」と内側の者は言う。「危険なもの」と人間は言う。名前ではない」】


「じゃあ——何と呼べばいい」


【受信:「……好きに呼べ」】


「フォルと呼んでいいか」


 またの沈黙。


【受信:「……構わない」】


「俺はレンだ。これからもここに来る」


【受信:「来ても——何も変わらない」】


「変わるかどうかは、来てから判断する。まあ——聞いてから判断しよう」


 返答はなかった。


 でも外部信号は切れなかった。向こうがまだ、そこにいた。

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