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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層との交渉

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第107話「最初の言葉」

スキルが「接触試行」を示した直後、封印層に向かった。


 ゴブが「俺も行く」と言って、止める前についてきた。



 



 封印の壁の前に立った。


 昨日と何かが違った。「存在」を感じる感覚が、強くなっていた。遠くにいるのではなく、壁のすぐ向こうにいる気がした。


「近くにいる」とゴブが言った。


「ああ。向こうから近づいてきたんだと思う」


「攻撃してくるか」


「わからない」


【封印強度:41%——安定中】


「押していない。ただ、近くにいる」


 俺はスキルを使って、向こうに意識を向けた。


「来たか」


 返事はなかった。でも——何かが変わった気がした。


「俺はこの迷宮の門番だ。前に「聞こえるか」と言った。聞こえていたなら、答えてくれ」


 沈黙。


 十秒。


 二十秒。


 スキルに表示が出た。


【外部信号——出力変化。言語構造パターン検出——解析中】


「言語構造」と俺は言った。


「何が出た」とゴブが言った。


「向こうが——言葉を使おうとしているらしい。スキルが解析を試みている」


「話せるのか」


「話そうとしている。届くかどうかはわからない」



 



 一分が過ぎた。


 スキルの解析が続いた。


 それから——何かが届いた。


 音ではなかった。言葉でもなかった。でも、意味がある「何か」だった。


 スキルがそれを翻訳した。


【外部信号——解析完了。受信内容:「なぜ、呼んだ」】


「「なぜ、呼んだ」」


 ゴブが固まった。


「……話せるのか」


「届いた。スキルが翻訳した」


「それは——答えていいのか」


「答える」


 俺は封印の壁に向かって言った。


「三百年、ここを押し続けていた理由を聞きたかった。お前が何を考えているのか、知りたかった」


 また沈黙。


 俺たちは待った。



 



 返答が来た。


【受信:「理由を聞いてどうする」】


「どうするかは、聞いてから決める」


【受信:「……」】


「「……」だ」とゴブが言った。


「黙った。でも、切れてはいない」


「それは——考えているということか」


「おそらく」


「何を考えているんだ」


「わからない。でも——「どうする」という問いに、「聞いてから決める」と答えた。それで止まっている」


「止まった理由は」


「予想外の答えだったんじゃないか」と俺は言った。「「どうする」と聞いたら、普通は目的を言う。「封印を解く」とか「攻撃しない」とか。でも俺は「聞いてから決める」と言った」


「それが予想外だったということか」


「かもしれない」



 



 また何かが届いた。


【受信:「聞いてから決める——とはどういう意味だ」】


「聞く前に決めると、間違えることがある。だから聞いてから決める」


【受信:「お前は——何が目的だ」】


「目的は、話すことだ。それだけだ」


【受信:「……なぜ話す必要がある」】


 俺は少し考えた。


「お前が何百年もここを押してきた。そこには理由があるはずだ。理由がないなら、押す必要もないはずだ。理由があるなら——聞かないと損だ」


 長い沈黙があった。


 封印強度の数値は変わらなかった。


【封印強度:41%——安定】


 ゴブが俺の袖を引いた。「返事がなくなった」と言った。


「待つ」


「いつまでだ」


「来るまで」



 



 結局、その日は返事が来なかった。


 翌朝、スキルに表示が出た。


【外部信号——処理継続中。次回接触まで:不明】


 向こうが、考え続けていた。


「まだ考えているのか」とゴブが言った。


「ああ」


「「なぜ話す必要がある」という問いに、答えが出ていない」


「そうだろう」


「向こうにとっては——「話す」という概念が、初めてなのかもしれない」


「かもしれない。三百年、一方的に押すだけだった。話しかけられたことも、話したこともなかったなら」


「……どれくらいかかる」


「わからない。でも——」


「でも」


「答えが出るまで、待つことはできる」

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