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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層との交渉

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第106話「ドランが知っていたこと」

ゴブが「一つ、聞いていいか」と言ったのは、夕方だった。


「何だ」


「ドランのことだ」


 俺は少し待った。ゴブがドランの名前を出すとき、大抵は時間が必要だ。


「ドランは——外の脅威のことを、知っていたと思う」


「根拠は」


「俺が第十七層に来たとき、ドランはいつも「様子を見ている」と言っていた。最初は俺たちのことを見ていると思っていた。でも——今思うと、向こうを見ていたのかもしれない」


「封印の向こうを」


「ドランは第17層にいた。封印層に近い。三百年、ずっとそこにいた。外の脅威が押してくるのも——感じていたはずだ」


 俺は「そうかもしれない」と言った。


「ドランが「最後に、話せた」と言っていた。「三百年で初めて」。俺と話せたことを指していると思っていた。でも——」


「でも、俺もいた」と俺は言った。


「ああ。「話せた」というのが俺のことだけなら、もっと早く会いに来れた。でも三百年で初めて、という言い方をした。何かを長い間、ずっと一人で抱えていた」


「外の脅威のことを知っていて、誰にも言えなかった」


「言っても信じてもらえないか、言うことで何かが変わることを恐れていたか——どちらかだ」



 



 ヴォルトに聞いた。


「ドランは外の脅威のことを知っていたか」


 少し間があった。


「——知っていたと思う。私も直接確認したわけではないが——ドランとは、封印の状態について情報交換をしていた。ドランが「向こうが動いている」と教えてくれた時期があった」


「それはいつだ」


「——百年ほど前だ。私たちが第23層に移動する前。まだ各層に散らばっていたとき」


「百年前、外の脅威について知っていて——何もしなかった」


「——何もできなかった、の方が正確かもしれない。ドランは移動ができない知性体だった。外に出られない。人間に話せるほど、人間と接触できる状況にもなかった」


「そうか」


「——ただ」


「ただ」


「——ドランは「いつか誰かが来る」と言っていた。封印の内側から話しかける者が来る、と」


「俺のことか」


「——わからない。でも——ドランが待っていたものが、あなただったとしたら——」


 ヴォルトが止まった。


「最後に話せた、という言葉が——そういう意味だったかもしれない」と俺は言った。


「——そうかもしれない」



 



 ゴブが夜、「調停者」と呼んだ。


「何だ」


「ドランは——一人だったのか」


「どういう意味だ」


「俺たちは難民として、仲間がいた。一緒に逃げてきた。でもドランは——第17層に一人で、何百年もいた。外の脅威のことも知って、でも誰にも言えなくて」


「そうかもしれない」


「お前が来て——初めて話せた。それが「三百年で初めて」の意味だったとしたら」


「そうだとしたら」


「……ドランは幸せだったのか、なんてことを聞くのも変かもしれないが」


「変じゃない」


「じゃあ——どう思う」


 俺は少し考えた。


「最後に話した。最後に頼んだ。最後に「話せてよかった」と言った。それを——不幸だとは思わない」


「でも三百年、一人だった」


「そうだ。三百年、一人だった。でも——最後に話せた。それは事実だ」


「……それだけで十分だと思うか」


「十分かどうかは、俺には決められない。ただ——ドランが最後に言った言葉は、「三百年で初めて話せた」だった。俺はその言葉を信じている」


 ゴブが空を見た。前室の屋根のない部分から、夜空が見えた。


「……またあいつに会いたかったな」


「そうだな」


「次に外の脅威と話せたとして——ドランに報告できるといいと思う」


「できないかもしれない」


「わかってる。でも——思うのは自由だろ」


「そうだな」



 



 翌朝、スキルが動いた。


【迷宮管理Lv.8:外部信号——「待機」から「接触試行」へ移行】


 向こうが、動き始めた。

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