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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層との交渉

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105/166

第105話「待機の意味」

外の脅威が「待機」に入った翌日、封印強度が上がっていた。


【封印強度:39%→41%(微増)】


「押すのを止めたから強度が戻っている」とヴォルトが言った。


「向こうが意図的に引いているのか」


「——そうだと思う。三百年、一度も止まらなかったものが——今は待っている」


「何を待っているんだ」


「——私にはわからない。ただ——」


 ヴォルトが少し間を置いた。


「——あなたが「聞きに来た」と言った。向こうはそれを聞いた。次にあなたが来るのを、待っているのかもしれない」


 俺はその言葉を繰り返した。


「次を待っている」


「——可能性の話だ。確証はない」


「でも、待機に入ったのは事実だ」


「——事実だ」



 



 セルディン議員が来たのは三日後だった。


 馬一頭と従者二人だけの、小さな一行だった。


「アシダ殿」


「セルディン議員。ようこそ」


「……本当に来たぞ、と思っているか」


「少し思っています」


 セルディンが苦笑した。


「書簡を送っておいて何だが、自分でも驚いている。なぜ動いたのか、自分でもわからないんだ」


「それは、どういう意味ですか」


「議会の採決後、反対票を入れた者の一人として、状況を「なかったこと」にしようとしていた。でも——できなかった。あなたの「話を聞かせてください」という言葉が、頭から離れなかった」


「気になっていた、ということですか」


「気になっていた。なぜ俺に聞きに来たんだ、と」


「反対されていたからです」


「それが理由か」


「反対する理由があるはずだ。その理由を聞かないと、説明もできないし、説得もできない」


 セルディンが俺を見た。


「……あのとき、「わかります。俺も最初は怖かった」と言っていたな」


「はい」


「あれは本当か」


「本当です」


「何が怖かった」


「最初の夜、ゴブリンが門を叩いてきた。暗い夜に、魔物が。怖かった」


「でも——受け入れた」


「聞いてから判断しようと思った。聞いたら、怖い理由がなくなった」


 セルディンが少し黙った。


「俺は今も怖い。ここに来る道でも、怖かった」


「来てくださった」


「……怖いままで来た。あなたが言っていたからな。「怖いままでいい。聞くのに、怖くなくなる必要はない」と」



 



 第七迷宮の前室を、外から見せた。


 ゴブたちが中にいた。子供のゴブリンが二体、入口の近くで遊んでいた。


 セルディンが立ち止まった。


「……小さいな」


「子供です」


「魔物の子供は——見たことがなかった」


「俺も最初は驚きました」


「大きくなると、凶暴になるのか」


「ゴブは「凶暴だと思われている」と言っていました。向こうも俺たちを怖いと思っている」


「互いに怖い、ということか」


「互いに事情がある、ということだと思います」


 セルディンが子供のゴブリンを見ていた。長い間、黙っていた。


「……封印の問題は、本当に深刻なのか」


「深刻です。外の脅威が三百年、封印を削り続けてきた。今、その外の脅威が「待機」に入っています」


「なぜ待機に」


「俺が呼びかけた。向こうが気づいて——待ち始めたようです」


「呼びかけた——というのは、交渉を試みたということか」


「まだ交渉と呼べる段階ではありません。ただ、「聞こえるか」と送った。返事はなかったが、止まった」


 セルディンが「……不思議な話だな」と言った。


「不思議、ですか」


「呼びかけて、止まった。魔物と話せる門番が、さらにその外にある脅威と話そうとしている」


「そうです」


「できると思うのか」


「できるかどうか、聞いてみないとわかりません」



 



 帰り際、セルディンが振り返った。


「一つだけ聞いていいか」


「どうぞ」


「もし失敗したら——この迷宮はどうなる」


「封印が消えれば、外の脅威が内側に入ってくる。ヴォルトたちが長年守ってきたものが崩れる」


「それは——王国にも影響があるか」


「迷宮は全国に七つある。全部の封印が崩れれば——規模は大きくなります」


 セルディンが「……そうか」と言った。


「お力を貸してもらえますか」とは聞かなかった。


 それはセルディンが決めることだ。


 俺にできるのは、情報を出すことと、聞くことだけだった。


【外部信号——待機中。継続時間:72時間】


 スキルが、外の脅威がまだ待ち続けていることを示していた。

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