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門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
第23層との交渉

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第104話「複数の迷宮」

カーラに報告すると、三十秒ほど黙られた。


「自分で引いた、ということですか」


「そうだ。攻撃でも防御でもなく、自発的に」


「それが——どういう意味を持つと、あなたは判断していますか」


「わからない。ただ、三百年止まらなかったものが止まった。それは何かが変わったということだ」


「何が変わったんですか」


「俺が呼びかけた。返事はなかったが、俺の声が届いた可能性がある。届いたとして、何らかの反応をした」


「交渉できる、ということですか」


「まだそこまでは言えない。ただ——聞こえているかもしれない。聞こえているなら、いずれ話せるかもしれない」


 カーラが窓の外を見た。外は晴れていた。


「カイルから——第四迷宮でも同じことが起きたと報告がありました」


「知っている」


「複数の迷宮に同時に触れているなら——一体ではないということですね」


「おそらく」


「一体でないなら——全部に同じことをしなければいけないということですか」


「まだわからない。ただ——」


「ただ」


「一つとの接触が成功すれば、他の迷宮に波及する可能性もある。ヴォルトが言っていた。向こうは三百年、一つの塊として動いてきた。一部が変われば、全体が変わるかもしれない」


 カーラが俺を見た。


「楽観的すぎると思います」


「かもしれない。でも——悲観的に考えても、選択肢が減るだけだ」



 



 その日の夕方、セルディン議員から書簡が届いた。


 内容は短かった。


「アシダ殿。外の脅威について、詳しく聞かせてほしい。先日の合意後、議会内で情報共有の必要性について議論があった。私個人として、現状を正確に知りたいと思っている」


 俺はカーラに見せた。


「セルディン議員が動いた」


「……意外ですね」とカーラが言った。


「なぜ」


「最後まで反対派だった人が、自分から動くとは思いませんでした」


「「話を聞かせてほしい」と言っている。それなら聞く」


「でも——外の脅威のことを議会に知らせると、対応が分かれます。「封印を維持する方向」と「迷宮を完全に封鎖・破壊する方向」に」


「わかっている」


「封鎖・破壊の方向に動かれると、ヴォルトたちが——」


「わかっている。でも隠しても、いずれ知れる。知れたときに「なぜ隠した」という話になる方が、対応が難しい」


 カーラが「……あなたは本当に交渉が好きですね」と言った。


「好きかどうかはわからない。でも話を聞かないと始まらない」



 



 ゴブに状況を伝えた。


「議員が動いたのか」


「ああ。俺が直接会いに行くと伝えた」


「王都に行くのか」


「いや、セルディン議員がこちらに来る。第七迷宮を見たいらしい」


「……魔物の難民がいる場所に来るのか」


「来たいなら来ていい。ただし——」


「ただし」


「前室には入れない。外から見るだけだ」


「それはわかった。ただ——」


 ゴブが少し考えた。


「俺たちを見て、怖がらないか」


「怖がる可能性はある」


「怖がって、危険と判断したら」


「そのとき考える」


「その場で対応するつもりか」


「対応するための材料が多いほどいい。セルディンが来れば——ヴォルトのことを直接見せられるかもしれない。見た上で判断してもらう」


 ゴブが「……調停者らしい判断だ」と言った。


「怖がらせてどうするんだと思っていたが」


「見せた上で話す。それが一番早い」


「でも——失敗したら?」


「失敗したときは、失敗した理由を分析する。次に活かす」


「次があるとは限らないだろ」


「まあ——聞いてから判断しよう」



 



 夜、スキルに新しい表示が出た。


【迷宮管理Lv.8:外部信号——パターン変化。「探索」から「待機」へ移行】


 探索から待機。


 向こうが、何かを待ち始めた。

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