第101話「封印層への道」
道の中は、暗かった。
入口から数十歩で、外の光が届かなくなった。スキルが照明代わりになる——というわけではないが、状態表示が灯りのように空中に浮かんでいた。
【迷宮管理Lv.8:封印層接続——確認中】
「暗い」とゴブが言った。
「そうだな」
「前に来たときとは違う気がする」
「通路設計が通ったから、構造が変わった部分があるかもしれない」
「いい方向に変わったのか」
「わからない。ただ——」
俺はスキルの数値を見た。
【第七迷宮 現在状態】
封印強度:41%(微増)
封印消失まで:推定不明
「封印強度が上がっている。わずかだが」
「わずかって、どれくらいだ」
「昨日は39%だった。二ポイント上がっている」
「それは、通路設計のせいか」
「可能性がある。当事者全員の合意が、封印の安定に影響しているかもしれない」
ゴブが「ふん」と言った。感想とも疑問ともつかない声だった。
迷宮の内部は、外から見るより広かった。
十五層まで来たことはある。でも今日はそれより深く行く。
スキルが示す方向に従って歩いた。二十三層——ヴォルトたちがいる層——ではなく、もっと下だ。
Lv.8の新機能が、「封印層」への経路を示し始めていた。
「どこまで行くんだ」とゴブが聞いた。
「スキルが示す限界まで」
「限界で何がある」
「わからない。でも——」
俺は少し止まった。
何かを感じた。正確には「聞こえた」という感覚に近い。音ではない。でも、何かが届いた気がした。
「今、何か感じたか」
「感じた」とゴブが言った。「なんだ、これ」
「俺もわからない。スキルが何か拾っている」
【迷宮管理Lv.8:封印層——外部信号を検知。性質:不明】
「外部信号」
「スキルにそう出ている。外から、何かが来ている」
ゴブが俺の横に並んだ。
「調停者」
「何だ」
「これが——外の脅威か」
「まだわからない。でも——」
俺はスキルに聞いた。応答はなかった。ただ、数値が動いた。
【封印強度:41%→40%(低下中)】
「また下がった」
「何かが押してるのか」
「押している——というより、触れている。そんな感じだ」
もう少し下りた。
ヴォルトに接続した。
「今、封印層の近くにいる」
「——感じている。来ているのか」
「来ている。外部信号というものを感じた。これが、外の脅威か」
「——そうだ。それが、ずっと向こうにいる」
「距離は」
「——遠い。でも触れている。手が届く距離ではないが——意識はこちらに向いている」
「意識、か」
「——知性体だ。ただし——話を聞く種族ではない、と私たちは思っていた」
「思っていた、という過去形は」
ヴォルトが少し黙った。
「——あなたが封印の外を感知できるなら——もしかしたら、向こうも感じているかもしれない」
「向こうも、俺を」
「——そうだ。今まで、封印の外を感じた「内側の者」はいなかった。あなたが初めてだ」
俺はその言葉を聞いた。
「つまり——今まで誰も、外に呼びかけなかった、ということか」
「——呼びかける手段がなかった」
「俺には、あるかもしれない」
ゴブが「調停者」と言った。念を押すような声だった。
「わかってる。無茶はしない」
「無茶の定義が俺と違う気がするんだが」
「聞いてみるだけだ。聞かないと損だろ」
ゴブがため息をついた。
俺はスキルを使って、外部信号に向かって、一言だけ送った。
「聞こえるか」
返事はなかった。
でも——封印強度の数値が、一瞬止まった。
【封印強度:40%(変動停止・一時)】
「止まった」とゴブが言った。
「ああ」
「何かに気づいたのか、向こうは」
「わからない。でも——」
数値がまた動き始めた。今度は、下がらなかった。
【封印強度:40%(安定)】
「安定した?」
「した」とゴブが言った。「それは——いいことか」
「悪くない」
俺はスキルの表示を見つめた。
「次は——もう少し、近づいてみる」




