第100話「通路が開く」
翌朝、第七迷宮の北口の前に立った。
ゴブが隣にいた。バインが少し後ろにいた。カーラが馬で来ていた。
カイルは第四迷宮にいる。通信で繋がっている。
「今から、通路設計を起動する」と俺は言った。
「何が起きるんだ」と聞いたのはゴブだった。
「わからない。スキルを使うのは初めてだから」
「わからないのか」
「やってみないとわからないことがある」
「まあ、そうだな」
スキルを展開した。
【迷宮管理Lv.7:通路設計——起動】
北口の石門が、少し振動した。
石の表面に、文字のような模様が浮かんできた。迷宮語だ。俺には読めないが、スキルが「設計中」と翻訳した。
「何かが出てきた」とゴブが言った。
「設計が始まった。少し待ってくれ」
スキルの処理が続いた。
一分。
五分。
十分。
北口の石門の形が、わずかに変わり始めた。
「門」の形をしていたものが——少しずつ、「道」の形になっていく。
幅が広がる。高さが変わる。石の色が、わずかに変わる。
「閉じているもの」が「繋がっているもの」になっていく感じ。
ゴブが「うわ」と言った。
「見えてるか」と俺は聞いた。
「見えてる。なんか——すごい」
「どう違う」
「前の門は、「ここから先に入るな」という感じだった。今のは——「ここから向こうに行ける」という感じがする」
スキルが完了した。
【迷宮管理Lv.7:通路設計——完了。第七迷宮北口——「門」から「道」へ移行】
石門があった場所に、「道」があった。
物理的な形はほとんど変わっていない。でも——何かが違う。
ゴブが前に出た。
道の入口に立った。
少し、中に足を踏み入れた。
それから振り返った。
「変な感じ」とゴブは言った。
「変な感じ、とは」
「出ていい、という感じがする。前は「ここが境界だ、越えるな」という感じがあった。今は——どちら側にいてもいい、という感じがする」
「スキルが変えた感覚かもしれない」
「そうかもしれない。でも——悪くない」
カーラが馬から降りて、道の前に立った。
「これが——「道」ですか」
「そうです」
「……中に入っていいのですか」
「全当事者が合意しています。入っていいです」
カーラが一歩、中に入った。
それから、すぐに出てきた。
「中は——」
「どうでしたか」
「……普通でした。ただの洞窟でした」
「そうだと思います。特別なことはないですが——入っていい場所になった」
「それが、大事なことですね」
「そうです」
ヴォルトに接続した。
「道ができた」
「——感じる。変わった」
「外から来られるようになった。来るか」
「——来る。ただし——まずは、あなたが来てくれ」
「俺が」
「——あなたが来て、中を確認してほしい。私は——まだ「外の者が来る」ということに、慣れていない」
「わかった。行く」
ゴブが「俺も行く」と言った。
「二人で行くのか」
「ドランがいなくなった迷宮を、俺も確認したい。それと——」
「それと」
「一人で行かせると心配だ」
「心配しなくていい」
「心配する。それは俺が決める」
俺は「まあ、そうだな」と言った。
スキルが動いた。
【迷宮管理Lv.8:解放——「封印層接続」可能状態】
Lv.8。
俺はその表示を見た。
「ゴブ」
「何だ」
「スキルが上がった」
「どういう意味だ」
「第23層に——直接繋がれる状態になったかもしれない」
「それは——まずいのか」
「まずくはない。でも——」
俺は少し考えた。
「封印層に接続できるなら——外から押しているものの状態がわかる。今まで見えなかったものが、見えるかもしれない」
「見えた方がいいのか」
「見えないよりはいい。聞かないと損だ」
ゴブが「それを言うと思ってた」と言った。
俺たちは道の中に入った。
第七迷宮の、かつての「門」が、今は「道」になっていた。
その先に何があるのか、まだわからない。
でも——道はある。
繋がっている。
それだけで、今は十分だった。




