表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門番、魔王軍と交渉する〜ハズレジョブでも、話を聞く奴が世界を動かす〜  作者: ハル
墓場の門

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/77

第10話「調停者の仕事」

全員が前室に集まった。


 グレン、エリア、カイル——そう、カイルも呼んだ。証人として必要だと思った——ゴブ、ヴァル、そして迷宮民が十数体。


 俺は扉の前に立った。


 正確には、扉と迷宮の境界線に。


「何をするんだ」


 グレンが聞いた。


「封印に触れます。正確には——封印に、意思を送ります」


「意思を?」


「このスキルの本質は交渉です。対話できる相手とは何とでも話せる。封印も、古代の意思が込められたものなら——」


 エリアが小さく声を上げた。


「そういうことか。封印は古代の調停者が——」


「作ったものだと思っています。だから今の調停者である俺が触れれば、対話できるかもしれない」


「失敗したら?」


「わかりません。でも何もしなければ14日で封印が消える。試す価値はある」



 



 俺はスキルを起動した。


【迷宮管理 Lv.3】

【封印接続:実行しますか? Y/N】


 Y。


 頭の中に、何かが流れ込んできた。


 映像ではない。音でもない。


 強いて言えば——感情、だった。


 疲れている。


 それが最初の印象だった。


 何百年も疲れ続けている、何か巨大なものの感情。



 



 俺は話しかけた。声ではなく、意思で。


「聞こえるか」


 返事があった。言葉ではない。ただ——「聞こえている」という感覚。


「俺はレン・アシダ。第七迷宮の調停者だ。あなたに頼みたいことがある」


 感情が揺れた。興味、のような何か。


「あなたは疲れている。長い間、一人で支え続けてきた。それはわかる」


 反応がない。


「俺はあなたに全てを任せるつもりはない。手伝いたい。外からも、内からも、支えたい。ただ——」


 俺は続けた。


「そのためには、あなたに少しだけ待ってほしい。今すぐ崩れてしまったら、準備が間に合わない」


 長い沈黙。


 疲れている感情が、少しだけ——揺れた。


「待ってくれるか」


 返事は言葉ではなかった。


 ただ、スキルの数値が変わった。


【第23層「支配の霧」封印強度:31%→38%】

【低下速度:大幅減少】

【推定封印消失まで:63日(再計算)】


 63日。


 14日が、63日になった。



 



 俺がスキルを閉じると、全員が黙って俺を見ていた。


「封印の低下速度が落ちた。63日の余裕ができた」


 誰も言葉を返さなかった。


 最初に口を開いたのはエリアだった。


「……封印と対話したんですか」


「対話、かどうかはわからない。ただ伝わった気がする」


「何を伝えたんですか」


「待ってくれと頼んだ」


 グレンが呆れたような顔をした。


「古代の封印に、待ってくれと頼んだのか」


「交渉の基本です。相手の状況を聞いて、こちらの事情を伝えて、折り合える点を探す」


「……相手が封印でも同じか」


「今のところは同じでした」



 



 カイルがずっと黙っていた。


 全員が動き始めてから、彼だけが俺のそばに残った。


「……なあ、レン」


「なんだ」


「俺、ジョブ判定の日のこと、覚えてるか」


「覚えている」


「俺、お前に『生きてはいけるんじゃないか』って言った」


「言った」


 カイルが俯いた。


「ひどいことを言った」


「事実だったから気にしていない。門番でも生きていける」


「そういう話じゃない」


 カイルが顔を上げた。


「お前は生きているだけじゃない。俺が見たことのないことをやっている。魔物と話して、封印を延長して、王国の査察官を動かして——それが全部、門番一人でやったことだ」


「みんなでやった」


「お前がいなければ始まらなかった」


 俺は何か言おうとして、やめた。


「……羨ましい」


 カイルが小さく言った。


「俺はCランク冒険者になれるかもしれない。でもお前みたいな働き方は、できない。できると思っていなかった。そんな仕事があるとも思っていなかった」


「それは違う」


「違うか?」


「お前にしかできないこともある。5層で五人を統率して、一人も死なせなかった。俺にはできない」


 カイルが少し黙った。


「……それは」


「強い奴が必要だ。俺一人では体力勝負にならない。いつかもっと大きな交渉が必要になる時、カイルみたいな奴が後ろに立っていると話が変わる」


「俺に、お前の後ろに立てと言っているのか」


「いつかの話だ。今は試験に受かれ」


 カイルが笑った。久しぶりに見る顔だった。


「……お前、変わったな」


「変わっていない」


「変わった。俺が知っているレンは、こんなに喋らなかった」


 そうかもしれない、と俺は思った。



 



 夜。


 全員が去り、前室にゴブとヴァルだけが残った。


 俺は扉の前に座って、スキルを眺めた。


【迷宮管理 Lv.3(経験値:0/300)】

【調停者 認定:第七迷宮調停者(王国公式)】

【現在の交渉相手:9  成立件数:7  継続中:2】


「調停者」


 ゴブが俺の隣に座った。


「なんだ」


「疲れたか」


「少し」


「珍しい。お前が疲れたというのは初めて聞いた」


「封印に繋がったのが、意外とこたえた」


「何を感じた」


 俺は少し考えた。


「疲れていた。何百年も、一人で待ち続けている。助けを待っていた」


「霧が、か」


「封印が。霧じゃなく、封印の側の感情だ。封印は疲れていた。霧に負けそうで、でも崩れるわけにはいくて——ずっと耐えていた」


 ゴブが静かに言った。


「……それは、俺たちと同じだ」


「そうかもしれない」


「助けを待っていた。でも誰も来なかった。だから来ることを諦めかけていた」


 俺は頷いた。


「でも来た」


「来た。調停者が来た」



 



 夜空に星が出ていた。


 前室の屋根のない部分から、よく見えた。


「ゴブ」


「なんだ」


「お前たちを、最終的には外に出したい」


 ゴブが俺を見た。


「……それは」


「23層の問題が解決したら。霧が抑えられたら。王国との協定が積み上がったら。いつかは、出られると思っている」


「俺たちが外に出たら——」


「一緒に見よう。空の広さを」


 ゴブが長い間、俺を見た。


「……お前は、なぜそこまで」


「わからない。でも引き受けた仕事は最後までやる性格だ」


「門番の仕事は、魔物を外に出すことではないのに」


「今は調停者だから」


 ゴブが、初めて笑った。


 ゴブリンの笑顔は人間のそれとは違うが、笑顔だとわかった。


「……了解した。最後まで付き合ってやる」



 



【第一章 完】


次章「調停者の名前」予告:

王国内で「第七迷宮の調停者」の噂が広がる。封印の問題が知られるにつれ、様々な思惑を持つ人間たちが前哨基地に集まり始める。そして——23層の霧が、初めて「声」を出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ