第五十話
獣人の女の子と仲良くなるのに、ものすごい時間がかかった。
その時間とは三十分ほど。
もうどうしよう。
お互いどうしたらいいんだろう、とそんなことを考えていたら、獣人の女の子がぽつりぽつりと話し始めたのだ。
「えっと……私……グレアって言います」
「オレはサトウってんだ」
二人でぺこぺこしながら、自己紹介を始めた。
お。
ようやく話してくれたぞ。
この調子で、もっと仲良くなりたい。
とはいえ、焦ってしまって、嫌われても困る。
相手がまるで動物のように、猫のように、犬のように、そこそこの適距離を持って接すのがベストだろう。
近づきすぎず、適距離で。
「私……人間のことが嫌いなんです。だって人間の男の人って、わたしのことをいじめるから。獣人族のことをいじめるから。いつも石をぶつけてくるから、暴力をふるってくるから」
というグレア。
「お、おう……それはすまなかった。人間代表として、謝らせてもらおう」
別にオレが人間の代表というわけではないのだが、なんだかあまりにも申し訳ない気分になったので、謝っておくことにした。
だってこんなにもかわいいけも耳の少女を、こんなにもかわいいけもしっぽの少女を、いじめるだなんておかしいと思うのだ。
こんなに可愛い生き物は、もっとめでるべきだとそう思うのだ。
「でも……あなたからは……敵意とか……そういったものは感じられません……むしろわたしに好意的な感情を感じます」
というグレア。
何を当たり前のことをこの獣人はいっているのだろうか。
そんなにもかわいらしい耳を持っている女の子に、そんなにもかわいらしいけもしっぽを持っている女の子に、敵意なんてものを、憎しみなんてものを持つわけがないではないか。
むしろ好意を持って当たり前だ。
そのけも耳を触りたいだとか、もふもふしたいだとか、そのけもしっぽに触りたいだとか、もふもふしたいだとか、そういった感情しか持っていない。
いや、けも耳を触りたいだとか、けもしっぽを触りたいだとか、動物好きとしては、それは普通のことだろう。
むしろ当然のことだと強く言いたい。
強く主張したい。
とはいえ、相手はなんだかこっちに対して、あまりいい感情をお持ちではないようなので、まあさっきよりはましになったが、まあそれについては控えるが。
まあなんだ。
これ以上人間が嫌われるのは、嫌だからな。
オレがこの獣人の女の子をめちゃめちゃにもふもふして、人間が怖い、って思われたら嫌だからな。
そうしたい気持ちはものすっごくあるけれど、かなりあるけれど、やめておこう。
まあ仲良くなったら、触らせてもらえばいいだろう。
もふもふすればいいだろう。
まあ仲良くなれるかはわからないが。
「サトウさんはどうして私のことを助けてくれたんですか?」
というグレア。
どうして?
どうしてって。
そんなの決まっているではないか。
「かわいいからだ!」
「…………」
数秒間無言。
まさかそんな単純明快な答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。
グレアは自分の獣人の耳を触って、言った。
「えっと……私のこと、怖くないですか?」
というグレア。
怖い?
むしろ可愛いと思うのだが。
その耳かわいいと思うのだが。
そのかわいい獣人のけも耳をもふもふしたいと思うのだが。
「全然。むしろ怖いどころか、可愛いと思う」
グレアは言った。
「えっと……このしっぽを見ても、怖いとは思わないんですか?」
というグレアの質問に、オレは、
「全然。かわいいと思う」
と答えた。
むしろ、
「そのしっぽをものすごく触りたいです。もふもふしたいです」
と正直に答えた。
「うっ……」
と、なんだか顔を真っ赤にするグレア。
まさか泣かれるのか。
質問の答えを間違えたせいで、正直に答えたせいで、嫌われてしまったのか、とそう思っていたら、グレアは言った。
「なんだか……おかしな人間に出会ったみたいです」
というグレア。
お。
おう。
まあそうだな。
オレは変なおっさんかもしれないな。
むしろおかしいのは、異世界の人間のほうなんだけどな。
なぜこんなにも可愛い生き物を、可愛い獣人を、迫害するのか、そっちのほうがオレには理解できねえよ。
可愛いものはもふもふするべきだし、可愛いものはめでるべきだとオレは思うのだ。
「サトウさんは……やっぱりおかしな人ですね」
というグレア。
「そうか? オレは自分では普通だと思っているんだが」
まあこの異世界では、獣人と仲良くしようと思う人間なんていないのだろうか。
っていってもなあ、オレは異世界にきたばかりだから、そういったことにはあんまりわからないんだよ。
詳しくないんだよ。
と、グレアのお腹がぎゅーとなった。
そのお腹の音が聞かれたと思ったのか、顔を真っ赤にするグレア。
まあ別にお腹の音を聞かれたくらいで、別に顔を真っ赤にすることもあるまい。
オレは言った。
「なんだ? 腹減ったのか?」
「いえ、大丈夫です。お腹はすいていません」
というグレア。
この獣人の女の子は、お金持ちではないのだろうか。
それともグレアの家が、裕福な家ではないのだろうか。
お金を持っていないのだろうか。
異世界にきたばかりのオレのように。
異世界召喚されたばかりだというのに、追放されたあのときのオレのように。
だったらと、オレは言った。
「だったら、飯食いにいこうぜ。オレは今腹ペコなんだよ。よかったら一緒に飯食いにいくか?」
グレアはちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。
「サトウさんがどうしてもご飯が食べたいというのなら……でもわたしはお金があまりないので……サトウさんが一人でご飯を食べにいったほうがいいと思うんですけど」
というグレア。
オレははははと笑うと、言った。
「一人より、二人で飯を食ったほうが楽しいだろ。ほら、飯を食いに行くぞ。グレア」
と、オレはグレアに言った。




