第四十九話
今日もいつものように冒険者ギルドに向かっていこうとしていた、そんなある日のことだった。
一人の少女を複数人の男女がいじめている、そんな光景を目にしてしまった。
異世界でもいじめなんてものがあるんだな。
とはいえ、ここは冒険者ギルドに向かっているところだし、今日もクエストをやらないといけないし、少女よごめん、と思って、その場を通り過ぎようと思った、その時だった。
少女の頭に、何かおかしなものがついていることに気が付いた。
それはケモ耳。
そしてけもしっぽ。
獣人!?
獣人なのか?
さすがは異世界である。
冒険者がいることだけで驚きなのに、まさか獣人までいるなんて。
異世界は最高だぜ!
こんなに可愛い生物が存在するなんて、そのケモミミを。
そのけもしっぽをもふもふしたいとそんなことを思ってしまっていた。
と、複数の子供の男女は獣人である女の子に石を投げながら、こんなことをいった。
「獣人が、なんでわたしたちの住んでいる村にいるのよ」
「早くここから出て行け」
「獣くせーんだよ」
と、言いながら、獣人の少女に向かって、石をぶつけていた。
いや、全力で石をぶつけたら、獣人の少女が怪我をしてしまうではないか。
なんてことをしやがる。
オレはこんなに可愛いケモミミを生やした少女をいじめるだなんて絶対に許せなかったので、こんなに可愛いけもしっぽを生やした獣人の少女をいじめるだなんて絶対に許せなかったので、少女を守るように前に立った。
少女のことを守るように立ったせいで、獣人の少女に向かっていたその石が、オレの身体にぶつかった。
だが石がぶつかろうと別に痛くもない。
かゆくもない。
身体強化を使わなくても、この程度のダメージはなんてこともない。
よほどモンスターの攻撃のほうが、ゴブリンの攻撃のほうが痛い。
「?」
獣人の少女は石での攻撃がとまったので、不思議そうな顔をして、こちらを見あげていた。
まさか人間の、しかも男に守ってもらえるとは思っていなかったのだろう。
そんな顔をして、こちらのことをびくびくおびえながら見上げている。
オレは両腕を組むと、偉そうな顔をして、いった。
「お前ら何やってるんだよ。獣人の女の子をいじめるなんて、かっこ悪いとは思わないのか? それでもお前ら男かよ。それでもお前らは人間かよ。信じられねえな」
こんなに可愛いケモミミを生やした少女をいじめるなんて……。
こんなに可愛いけもしっぽを生やした少女をいじめるだんて、人間だなんて思えない。
男だなんて思えなかった。
むしろこんなに可愛いケモミミを生やした少女は、愛でるべき存在だろうに……。
「早くそこからどけよ!」
「怪我するぞ!」
「石ぶつけるけどいいのか? そいつを守るってことは、お前もてきってことだぞ」
といってくる男の子と女の子。
「獣人をいじめるやつなら、オレはいつでも相手をしてやるよ。来いよ。いくらでもその攻撃を、石での攻撃を、オレが受け止めてやる」
「…………」
獣人の女の子は黙ってオレのことを見上げていた。
なぜこの人は自分のことを助けてくれるのだろうと、そんな顔をして、頭を両手で押さえるようにして、こちらを見上げている。
「うらっ」
「おらっ」
「石をぶつけて、こいつを倒しちまえっ」
といって、オレに向かって、石を投げつけてくる男の子と女の子。
ちょっと君たち。
いくらなんでも本当に投げてくることはないんじゃないですかね。
しかも全力で投げてくるとかあなたたちは鬼なんですかね。
物事にはやりすぎってものがあるんだよ……。
とはいえ、まあこれくらいの攻撃は、モンスターとの戦いだとでも思って、敵の攻撃を受け続けることにしたオレである。
まあ防御の練習だとでも思えばいいだろう。
っていうか、こいつら、どんだけ石を投げ続ければ気がすむんだ。
そら、この獣人の女の子も、泣きべそをかいて、身を守るようにして、しゃがみこんでいるわけである。
やりすぎなんだよお前ら。
と、そう思いながら、複数の男の子たちのことを見る。
「だ、ダメだこいつ」
「化け物だ」
「逃げるぞっ」
といって、さっきまで攻撃を仕掛けていた男の子たちが、どこかへと逃げていってしまった。
さて、獣人の女の子のほうを見ると、どうやらこの獣人の女の子は、人間のことが完全に苦手なようで、オレのことも苦手なものを見るような目で見てきた。
人間は敵、とそう思っているのだろうか。
人間は怖い、とそう思っているのかもしれない。
みんな異世界では獣人のことが嫌いなのだろうか。
こんなに可愛いのに。
こんなに可愛いケモミミを生やしているのに。
こんなに可愛いけもしっぽを生やしているのに、本当に異世界の人間というやつらは理解ができない。
わけがわからないよ。
「こっちに……来ないで……何も悪いことはしませんから……もう許してください……これ以上、いじめないで……」
という獣人の少女。
別にいじめるつもりはないし、何もおかしなことはするつもりはないんだが。
やはりこれは人間であることが悪いのか。
おっさんであることが悪かったのか。
っていってもな、オレは人間の、しかもおっさんなんだよな。
オレはなぜかちょっと焦りながら、
「わかった。これ以上は近寄らないから、泣くな泣くな。泣きべそをかくな。まるでオレがいじめたみたいじゃないか」
というオレ。
「いじめない? 怖いことをしない? ひどいことをしない? 石をぶつけない?」
ときいてくる獣人の少女。
「ああ。いじめないし、怖いことはしないし、ひどいこともしない。絶対に何もしないよ」
というオレ。
すでにおびえていて、その獣人の女の子の耳がぺたんとしているのを見て、オレはなんだその耳は、おお、可愛すぎるぞと思ってしまったが、そのことは表情には出さずに、表面には出さないようにする。
そんな感情を今この少女にばれてしまうと、ものすごい嫌われてしまうような気がしたからだ。
さて、獣人の少女をたすけたはいいが、どうやらこの子はオレのことが嫌いなようだ。
人間のことが嫌いなようだ。
とはいえ、このままこの獣人の少女を放置してしまっていいのだろうか。
でもまあ嫌われているみたいだし、オレは冒険者ギルドに行かなくちゃいけないしなあ。
さっさと去るべきかなあ。
でもなあ。
このままここにほっておくのもなあ。
そう思いながら、少女に、獣人の少女に近づいていこうとすると、
「お、お願い。私、人間が怖いのっ。人間のことが信じられないのっ。だからそれ以上は近寄らないでっ」
という獣人の少女。
近寄るなと言われたら、やはりここはここから去るしかないだろう。
まあこのままこの場所に獣人の少女を放置していっていいのか。
ダメだろうとそうも思ったのだが、かたくなにそれを拒否する少女に、人間が怖いという少女に、人間のことが信じられないという少女に、無理に歩み寄るのは間違っていたのだろう。
ここは立ち去るのが正解のようだ。
と思って、立ち去ろうとしたときのことだった。
振り返って、行こうとしたときのことだった。
「あ、ちょっと待って。やっぱり行くのもダメっ」
「ええー」
えっと……近寄るなといわれ、行かないでと言われたら、オレは一体どうすればいいのだろうか。
どうしよう。
獣人の女の子の顔を見ると、そっちもまた、どうしよう……どうすればいいの?
というような顔をしている。
いや、そっちにまでそんな顔をされても、困るのはこっちなんだが。
ほんと、どうしようか……。
という顔をして、オレたちはお互いの顔を見ている。
オレは困って空を見上げた。
空は青空だった。
いい天気ではあったが、その空は、オレにどうすればいいのか、それを教えてくれたりはしなかった。




