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16.第三回実力テスト「怪物捜し」(1/3)



「………………」


お互いの顔を見る目が、強張っていた。


誰が人間で、誰が怪物なのか。端から見ても全くわからない。


(いつの間に怪物と入れ替わったんだ?そんな時間、とてもなかったように思えるが……)


と、そこまで思っていた矢先に、俺は手に持っていたルール説明の紙を見て気がついた。


(まさか、これを天使から受け取る時に、みんな一人ずつ外へ出た時か?そこで入れ替わった……ってことなのか?)


わざわざ手の込んだことをするなと思っていたが、そういう意図だったのか?


みんなで協力すればなんとかなると思っていたが……まさかここにきて、誰か一人がすり変わるテストとは。


「ねえユータロー」


そんな中で、いつもと変わらぬテンションと距離感で、塩ケ崎さんは俺へ近づいていた。


「お、おお、どうしたんだ?塩ケ崎さん」


「とりあえず、みんなで自己紹介しない?」


「え?」


「誰が怪物と入れ替わっているか、今のところ外見ではわからない。だからみんなそれぞれに喋ってみて欲しい」


「なるほど……」


「そして、できることなら仲よしのぼくたちしか知らないことを話して欲しい。そうしたら、信憑性が増すから」


「確かにそうだな。分かった、じゃあみんなで自己紹介をしてみよう」


「うん」


塩ケ崎さんは全く臆することなく、淡々とテストに向き合っていた。


さすが、いつもどおり頭の切れる塩ケ崎さんだ。ってことは、彼女は本物ってことか?


(い、いや、まだ結論を出すな。全員の反応と様子を伺ってからだ)


「じゃあ、ぼくからするね」


そうして、塩ケ崎さんから順に自己紹介が始まった。


「塩ケ崎 昴、16歳。誕生日は4月18日。好きなことは将棋。それから……この前、ユータローのほっぺにちゅーをした」


お、おお、なんかいきなりインパクトあるな。改めて言われると、ちょっと恥ずかしい。


でも確かに、塩ケ崎さんが俺へちゅーをしたことは、俺たち六人しか知らないはずだ。上手いチョイスだな。


(ひとまず、塩ケ崎さんは保留か……)


そして、次は彼女の右隣にいた直樹がやることになった。


「えーと、名前は浅倉 直樹です。16歳で、誕生日は12月3日。それで、えーと……」


直樹は顔をしかめて、ぽつりぽつりとエピソードを語り始めた。


「これは僕が小学生の時なんだけど、海斗くんと優太郎くんと三人で夏祭りに行ったことがあったんだ。その時に僕、車にはねられちゃったことがあって」


「え?だ、大丈夫だったんですか?」


岡本さんが心配そうに尋ねると、直樹は笑って「大丈夫大丈夫」と答えた。


「怪我も全然してなくて、ピンピンしてたんだ。むしろ相手の方がめちゃくちゃ焦ってて、逆に困っちゃったんだよね」


直樹の話を聞いて、俺も海斗も「ああ、あったあった」と頷いた。


「六人みんなが知ってるエピソードじゃないけど、僕たち三人しか知らない話だ。どうかな?塩ケ崎さん」


「うん、いいよ」


直樹はほっと、安堵のため息をついていた。



……それからしばらく、この自己紹介は順調に続いた。


「うっす、佐々木 海斗だ。歳は17。誕生日は8月9日。俺のエピソードは~、幼稚園ん時に、優太郎と直樹の三人でカード買いに行って、俺が超レアカード当てたことだな。ダークジェネシスドラゴンってやつだ」


「私の名前は谷口 さやか。年齢は16歳。誕生日は3月1日。読者モデルをしてるわ。エピソードは……そうね、先日、藤山と二人で駅前に出かけに行ったことよ。喫茶店に行ったり、ゲームセンターへ寄ったりしたわ」


これが思いの外面白く、テスト中であるにも関わらず、「あったなあそんなこと」という話題で盛り上がってしまった。


「……え、えーと、次は私ですよね」


問題は、岡本さんだった。


「な、名前は岡本 寧々と言います。年齢は15歳で、誕生日は11月26日。え、えっと、みなさんとのエピソードは……」


彼女は最近絡むようになったばかりで、具体的なエピソードを語ることができなかった。


「ご、ごめんなさい。塩ケ崎ちゃんと話すようになったのも最近で、あまり話せることがなくて……」


「ま、まあまあ、それは仕方ないよ。大丈夫大丈夫」


そう直樹がフォローを入れていたが、その直樹も少し表情が固かった。


現時点では、彼女が怪物候補として一番怪しい。


「じゃ、最後はユータローだね」


塩ケ崎さんに言われて、俺はひとつ咳払いをしてから、語り始めた。


「あー、俺は藤山 優太郎。17歳。誕生日は5月17日。エピソードは……そうだな、中三の頃に、ファミレスで海斗と直樹の三人でこの学校を受験する約束をしたことだな」


「………………」


「俺と海斗は全然進路決めてなかったけど、直樹はこの学校に来たいって言ってたから、じゃあ俺たちもそうするかってなったんだよな」


「………………」


海斗と直樹の反応が、芳しくなかった。二人は目を合わせて、怪訝な表情を浮かべていた。


「ど、どうしたよ二人とも?」


「ね、ねえ優太郎くん……。この学校志望したの、優太郎くんじゃなかったっけ?」


「え?」


「ああ、俺もそんな記憶あるぜ。直樹じゃなかった気がするけどな……」


二人の言葉を受けて、この場にいる全員が俺へ目を向けた。


チリッと、空気が焦げ付くような緊張が生まれた。


「ま、待って待って!え、えーと、ちょ、ちょっと待ってくれよ!?」


俺は頭を抱えて、うんうんと唸った。


「そ、そうだ!ごめん、この学校を志望したのは確かに俺だった!直樹が選んでたのは、塾だったはずだ!勘違いしてた!」


「……そう、だったっけね?海斗くん」


「わりい、ちょっとそこまでは覚えてねえわ」


俺の訂正が、余計に二人の疑心暗鬼を深めてしまった。


「「………………」」


さっきまでの和気あいあいとしたムードは、完全に消え去っていた。


みな、押し黙ってしまった。


背中にじっとりと、嫌な汗が滲んできた。


「ここは、はっきり言うね」


塩ケ崎さんが、俺のことを真っ直ぐに見つめて言った。


「今のところ、ユータローが一番怪しい。これは情を交えずに、客観的な事実から言ってるよ」


「……っ」


い、いや、そうだよな。みんなの立場からしたら、俺を疑うのは当たり前だ。


「でもユータロー、大丈夫。まだ確定じゃないよ」


「え?」


「疑わしきは罰せず。怪しくても、確証が持てない限りは処罰しない。裁判の原則だよ」


「塩ケ崎さん……」


彼女は顔を伏せて、スカートを握り締めた。


そしてクールな彼女にしては珍しく、冷や汗をかいていた。


「……いや、ごめん。もしかしたら、ぼくがユータローだって疑いたくないから、庇おうとしてるのかも」


「え?」


「どうしよう、こんな気持ち、初めてだ……」


「………………」


あ、あの塩ケ崎さんが、動揺してる?


いつも冷静沈着な彼女が、こんな表情を……。


「ね、ねえ、ちょっといいかしら?」


そんな中、谷口さんが手をあげて言った。


「投票は、一度しかできないでしょ?だから、今は結論を急がない方がいいと思うわ」


「え?一度しかできない?」


俺がそう訊くと、谷口はきょとんとして、「そうよ?」とさも当たり前のように告げた。


「この紙に書いてあるじゃない。『投票は必ず行うこと。なお、投票は一度しかできないこと』って」


「……いや、俺のには、そんなの書いてないぞ?」


「え?」


ここで、また空気が緊迫した。


俺以外のみんなも、ルールの紙にはそんなこと書いていなかった。


「い、いや、本当よ。本当にそう書いてあるの。見せられないのが歯がゆいけど……」


「……なるほど、そうか」


その時、塩ケ崎さんが何かに気がついた。


「たぶん、みんなそれぞれ違うルールが載ってるんだ。だから天使は、わざと分けて渡したんだよ」


「な、なんでそんなことを?」


「ぼくたちの情報差を、疑心暗鬼に繋げるためだと思う。たとえば、サヤカが怪物だったとする。その場合、サヤカの言っているルールは嘘の可能性が高い」


「そうか、そういう部分でもお互いが信用できないわけか」


塩ケ崎さんは少し考えた後、「とは言え、今は情報は欲しい」と告げてから、みんなの顔を見た。


「みんなのルールを、それぞれ読み上げて。全員のルールを把握してから、改めて考えよう」


「だ、大丈夫か?他人へはこの紙を見せないように言っているし、教えるのもダメかもしれないぞ?」


「それなら、きっと『教え合うのはダメ』って書くはず。わざわざ口頭では教えられる状況にしてるのも、たぶん意図がある」


そうして一人ずつ、ルールを読み上げていった。


「えーと、俺のにはこうだな」


「あ、あの、私にはこう書いてます」


塩ケ崎さんは黒板を使い、そのルールひとつひとつを書いていった。


「……これで、全部かな」




【第三回実力テスト ルール説明】


(みんなに書いてある)

・六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。


・制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。


・このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。


・ノーマルクリア

怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。


(ユータローだけ)

・トゥルークリア

(黒塗りされて読めなくなっている)


(ネネだけ)

・投票は、部屋の中央にある箱と、人数分の用紙を使用してください。


(サヤカだけ)

・投票は、必ず行ってください。なお、投票は一度しかできません。


(ナオキだけ)

・投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません。


(カイトだけ)

・クリア未達成

制限時間内に投票を実施できなかった場合。マイナス7点。


(ぼくだけ)

・なお、このルールの中には、ひとつだけ嘘が紛れています。




「……うーん、なんだかこんがらがってきたぞ」


俺は頭を抱えながら、唇を尖らせた。


制限時間は、残り17分。それまでに投票を終えないといけない。


(くそっ、一体……誰が怪物なんだ?)











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