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15.仲間たち


……日々の生活は、驚くほど平和だった。


海斗や直樹、谷口、そしてクラスメイトたちと日間テストをこなし、時々塩ケ崎さんと将棋を指して遊ぶ。


時にはよい子テストの期間であることを忘れて、笑いあうこともあった。


だが、現実にはこのテストはずっと続いている。そして、実力テストも着実に行われる。


俺たちの命は、全部天使の手のひらの上にあるんだ。









……2026年11月3日、火曜日。朝の9時頃。


本来は文化の日で祝日のはずだが、実力テスト開催のため、みな学校へ集っていた。


もし、これが普通の学校の催しだったら、「祝日なのに学校だるーい」とか「早く帰りて~」なんて言葉が飛び交ったろう。


「………………」


だが、今日は誰もなにも言わない。みんな顔を曇らせて、足元を見ながら校門へと入っていく。


天使たちに従えば、死ぬかも知れない。でも、逆らったらもっと死ぬかも知れない。


俺たちに、選択肢などなかった。


(確か今日は、体育館に集合だったな)


俺は靴から上履きへ履き替えた後、その足で体育館に向かった。


中へ入ると、既に多くの人がいて、がやがやと館内をざわつかせていた。


「おお、来たか優太郎」


「優太郎くん、おはよう」


先に来ていた海斗、直樹と合流する。


「これは……全生徒が集められてるのか?」


俺が呟くと、直樹が「たぶん、そうだと思う」と答えた。


「今度のテストは、もしかするとクラス対抗かも知れないね」


「なるほど、それでわざわざ体育館か」


海斗は腕を組んで「クラス対抗っつったら、スポーツとかか?」と予想した。


「例えばよ、当たったら死ぬドッジボールとか。負けたら死ぬサッカーとか」


「そうだね、充分あり得る展開だと思う」


「でもよ海斗、よい子テストってことは、俺たちの善性を測るってことだろ?ドッジボールとかだとしても、もっと捻ったルールが加わる気がするぜ」


「そっか、確かにな」


俺たちは、これで三回目の実力テストとなる。経験値が増えたこともあってか、テストへの予測を立てやすくなった。


慣れてきたというのも嫌な表現だが、人間というのは、その場の環境に適応しようとするものなのだろう。


「藤山たち、こっちよ」


ふと遠くの方で、谷口が俺たちを手招きしているのが見えた。


「よお、谷口」


「二年一組、みんなこっちで集まってるわよ」


そうして、俺たち三人も、一組のみんなの元に集合した。


「ね、ねえ、藤山くん」


怯えた様子の浜田さんが、俺へ尋ねてきた。


「今回のテスト……どんなルールだと思う?」


「そうだな、さっき三人で話してた時は、クラス対抗じゃないかって予想してたよ」


「クラス対抗?」


「ああ。わざわざ体育館に全生徒を集合させるってことは、一斉にテストを行う可能性が高い。となりゃ、違うクラス同士で戦うことも充分あり得るってことさ」


俺がそう言うと、浜田さんを始め、俺の話を聞いていたクラスメイトたちがざわついた。


「ど、どうしよう。体力勝負とかだったら、三年生に勝てないかも……」


「二年二組にも、喧嘩強いやつ多いぜ!あそこ柔道部が集まってるからな!」


「そもそも、一対一じゃなくて、全クラスが敵かもしれないぞ?お、俺たち、今度こそやばいんじゃ……」


俺の予測が、水面に石を落とした波紋のように、クラスメイトたちへ広がっていった。


それは焦りを産み、不安を育て、恐怖に変えていった。


「まあまあ、みんな待てよ」


クラスメイトたちの顔に目をやりながら、俺は言った。


「ここであーだこーだ予測しても仕方ない。一旦落ち着こう」


「でも……」


「大事なのは、ミノタウロスの時みたいに、またみんなで協力できるようになることだ」


「………………」


「不安になるのは充分わかる。はっきり言って俺も怖い。だが、それに飲まれないようにしよう」


「………………」


「大丈夫だ、この前もみんなでクリアできたんだ。今回もきっとできる」


無論、根拠なんてない。


前回よかったからと言って、今回も上手くいくとは限らない。


だが、みんなを安心させられるなら、綺麗事のひとつやふたつ言おう。


だから、俺が一番落ち着くんだ。クラスのために、不安を見せるな。



キーンコーンカーンコーン



「!」


だだっ広い体育館に、けたたましくチャイムが鳴った。


それに続いて、天使のアナウンスが始まった。


『みなさま、おはようございます。本日はお集まりいただき、ありがとうございます』


『本日は、六人一組のチームを作ってください。これは、同じクラスの者に限らず、自分の好きなように構成していただいて構いません』


「六人一組か……。どうやら、クラス対抗じゃなさそうだな」


俺はそう呟きながら、ひとまずメンバーを決めることにした。


「海斗、直樹、谷口。よかったら俺とチームを組まないか?」


「おう、あたぼうだぜ」


「うん、もちろんだよ優太郎」


「ええ、最初からそのつもりよ」


「ありがとうみんな。さて、残りは二人だが……」


と、そうして辺りを見渡していた時。


「ユータロー」


俺の背後から声が聞こえた。


当然、それが誰かは、顔を見ずとも分かっていた。


「やあ、塩ケ崎さん」


「ユータロー、ぼくと組も?今回はクラス違くてもいいって」


「おお、いいのかい?」


「うん。ぼく、ユータローと一緒がいい」


「ははは、ありがとな。君がいてくれたら、めちゃくちゃ心強いよ」


「うん」


そうして、塩ケ崎さんはにっこりと笑った。


「あ、あの、すみません……。また塩ケ崎ちゃん、ずけずけ入っちゃって」


ふと見ると、いつも塩ケ崎さんの付き添いでいる女の子もそばにいた。


塩ケ崎さん曰く、彼女は岡本 寧々さんという名前とのこと。


「やあ岡本さん。俺は何も困ってないから、気にしないでよ」


「ほ、ほんと、いつもいつもすみません……」


恐縮している彼女に、直樹が「よかったらうちのチームに入る?」と誘っていた。


「え?い、いいんですか?」


「うん、僕たちは全然大丈夫だよ。ねえみんな?」


直樹の提案に全く異論がなかった俺たちは、塩ケ崎さん同様、岡本さんを快く受け入れた。


彼女は畏まった態度で、何度も「すみません、ありがとうございます」と頭をさげていた。


「ネネ、そんなに気を遣わなくていい。もっとリラックスして」


「し、塩ケ崎ちゃんは、もっと気を遣った方がいい気が……」


まさに対極とも言える二人の会話に、俺たちは少し微笑んだ。


『それでは、第三回実力テストのルール説明を行います』


天使からのアナウンスが入り、俺たちの間に緊張が走った。


『それぞれのチームごとに、事前に準備された部屋へ入っていただきます』


「部屋……?」


『チームごとに天使が案内を行いますので、各人、それに従ってください』


それを受けて、俺たちのチームは視聴覚室へ案内された。


普通の教室とは違い、長机がずらりと並んでいた。正面には大きなスクリーンがあり、黒板の前に垂れ下がっていた。


そして部屋の中央には、白くて四角い箱が置いてあり、中に物を入れられるよう、くり貫いてあった。


「今度は、ここが舞台か……」


俺は部屋全体を見渡しながら、ふうと息を吐いた。


『それでは、各人にルールの書かれた紙を手渡します。一人ずつ部屋から出て、天使から受け取ってください。なお、二人以上で受け取ることはできません』


わざわざ一人ずつ、紙を手渡すのか?変に手の込んだことをするな。


だが、今はまだ何も全貌が見えないため、ひとまず天使の言うことに従った。


視聴覚室の中に五人、一人が外で天使から紙を受け取る。それを六回繰り返した。


『それでは、施錠いたします』



ガチャリッ



そうして、部屋の鍵を閉められて、俺たち六人は視聴覚室に残された。


「とりあえず、ルールを読んでみよう」


俺の声に、塩ケ崎さんが「はーい」と答えた。


「………………」


みんな、無心になってルールを読んだ。


そして、口々に呟いた。


「な、なんだ……これ?」


「う、嘘でしょ……?」




【第三回実力テスト ルール説明】


・六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。


・制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。


・このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。


・ノーマルクリア

怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。


・トゥルークリア

(黒塗りされて読めなくなっている)






「か、怪物が……紛れてる?」


俺はおそるおそる顔を上げて、周りを見渡した。


みんな、いつも一緒にいる……かけがえのない仲間たち。


普段と同じように見える、俺の友だち……。



キーンコーンカーンコーン



『それでは、テストを開始してください』










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