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17.第三回実力テスト「怪物探し」(2/3)



「やべえ、俺なんか訳分かんなくなってきたわ」


海斗が歯を食い縛りながら、腕組みをしていた。


「誰か怪物がわかんねえってことはよ、このルールが正しいかどうかもわかんねえんだろ?なら、もう何を信じればいいんだよ」


「カイト、大丈夫。ここは消去法にしよう」


塩ケ崎さんは黒板のルールに目を配りながら、俺たちへ説明した。


「一旦、このルールは全部本当だと仮定する」


「全部本当?」


「そう。そして、矛盾しているところを潰せばいい」


「矛盾なあ……。俺の頭じゃ、もうさっぱりだよ」


海斗はしんどそうにため息をついた。


「誰がどのルールを発言したかは、今は見ない。まずはルールだけに着目しよう」


そうして、塩ケ崎さんはルールごとに番号を振った。



①六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。


②制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。


③このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。


④ノーマルクリア

怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。


⑤トゥルークリア

(黒塗りされて読めなくなっている)


⑥投票は、部屋の中央にある箱と、人数分の用紙を使用してください。


⑦投票は、必ず行ってください。なお、投票は一度しかできません。


⑧投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません。


⑨クリア未達成

制限時間内に投票を実施できなかった場合。マイナス7点。


⑩なお、このルールの中には、ひとつだけ嘘が紛れています。




「まず、基本的にはほとんど矛盾しない。全部正しくても筋は通る。問題は、この⑩の嘘ルールについて考えなきゃいけない」


「ね、ねえ、塩ケ崎ちゃん。この⑩の『嘘のルールがある』っていうのが、嘘だったりしない?」


岡本さんからの問いかけに、塩ケ崎さんは「あり得ない」と切り捨てるように答えた。


「それは論理的に成立しない。なぜなら、この⑩は①~⑨の中に嘘があるって示しているから」


「ど、どうして分かるの?」


「そんなのちょっと考えれば分かる。⑩の話が嘘だったら、文章として矛盾が出る」


「そ、そうなのかな?」


岡本さんが眉をひそめると、塩ケ崎さんはだんだんとイライラし始めた。


「どうしてこの矛盾がわからない?早く理解して欲しい」


「ご、ごめん……」


「話が削がれるから、ネネは少し黙ってて」


岡本さんは顔をうつむかせて、悲しそうに目を伏せた。


「お、おいおい塩ケ崎さん、そうキツく言わなくても……」


俺がそう言うと、彼女は険しい顔で「ぼくは余計な情報が錯綜して欲しくないだけ」と告げた。


「無意味な意見は切り捨てる。でないと、間に合わない」


「でも塩ケ崎さん……」


「このままだったら、一番怪しいのはユータロー!だからなんとかして違う結論を出さないといけないの!」


この時、彼女は初めて感情的になった。


「今ここにいるユータローが本当に怪物なら、それは仕方ない。でも、万が一にも間違ったら……ぼくは、ぼくは……絶対に自分を許せない!」


「………………」


「だからみんな、今は静かにしてて!ぼく一人でなんとかするから!考え事の邪魔しないで!」


「塩ケ崎さん」


俺は、興奮する彼女の前に行き、中腰になって、彼女と同じ目線に立った。


「一人で、戦う必要はないよ」


「………………」


「君は確かに頭がいいし、度胸もある。ある程度のことは一人でできちゃうよね。でも、今はそうじゃなくていい。俺たちのことも頼ってくれ。な?」


「……ユータロー」


「俺たち、みんな友だちじゃないか」


「………………」


塩ケ崎さんは、一瞬ハッとした顔をした。そして、口をきゅっとつぐんで、大粒の涙を流し始めた。


「うっ、うううっ、うううっ!」


「………………」


「ユータローが、ユータローが死んじゃったら、ぼく、ぼく、本当に嫌で……!」


「ああ、ありがとう、塩ケ崎さん」


俺がそう言うと、彼女は俺のことをぎゅっと抱き締めてきた。


まるで、親と離ればなれになるのを嫌がる、小さな子どものように。


そんな彼女の背中を、俺はとんとんと軽く叩いた。


「いいんだ、今は少し落ち着くといい」


「ううううっ!!ううううっ!!」


「………………」


俺は彼女のことを抱き締めながら、他のみんなへ目を向けた。


その時、目の合った直樹に、アイコンタクトを送った。俺たちの代わりに話を進行して欲しいというメッセージだ。


直樹はそれを受け取り、こくりと頷いた。


「みんな、塩ケ崎さんの言うとおり、一旦全部のルールを本当だと考えてみよう」


直樹は塩ケ崎さんに代わり、チョークを持って黒板の前に立った。


「そして、この⑩の嘘ルールについて、①~⑩のどれが嘘なのか、考えてみよう。塩ケ崎さんは⑩は論理的にあり得ないと言っていたけど、ひとまず今は、これもあり得るものとして考えてみない?」


「………………」


直樹の言葉に、塩ケ崎さんは頷いた。


「ぼくも、結論を焦ってたから、間違ってる可能性ある……」


「うん、ありがとう塩ケ崎さん」


「うーん、どれが嘘かあ……」


海斗は目を細めて、ルールの一覧を睨んでいた。


「ねえ、ひとついいかしら?」


その時、谷口がまた手を上げた。


「私は、①が怪しいと思うわ」


「①?」


「ええ。『六人の中に、一人だけ怪物が紛れました』とあるけど、これがそもそも嘘だったら?」


「「!」」


「パターンとしては、二つあるわね。『怪物は二人以上いる』と、『そもそも怪物は一人もいない』場合。でも私は、二人以上いるっていうのはおかしいと思うのよ」


「そ、それはどうして?」


直樹の質問に、谷口さんはこう答えた。


「二人以上いる意味が弱いのよ。だって、この投票で処刑できるのは一人だけ。もし二人以上いたとしたら、一人しか処刑できないのもなんだか違和感があるわ」


「なるほど、確かにちょっと変な気がするね」


「だから、もし①が嘘なんだとしたら、『怪物は一人もいない』可能性が高いと思うの」


「うん、その可能性は大いにあるね。よし、この調子で他のも見てみよう」




①六人の中に、一人だけ怪物が紛れました。→嘘の可能性あり。その場合、怪物は一人もいない。


②制限時間30分の間に、六人で投票を行い、怪物と思われる一人を処刑してください。→これが嘘だとテストのルールが定まらないので正しい。


③このルールの書かれた紙は、他人へは見せないでください。→嘘の可能性あり。


④ノーマルクリア

怪物と思われる一人を処刑すること。プラス4点。→保留


⑤トゥルークリア

(黒塗りされて読めなくなっている)→保留


⑥投票は、部屋の中央にある箱と、人数分の用紙を使用してください。→これが嘘だと投票方法が定まらないので正しい。


⑦投票は、必ず行ってください。なお、投票は一度しかできません。→保留


⑧投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません。→これが嘘だと投票結果の出し方が定まらないので正しい。


⑨クリア未達成

制限時間内に投票を実施できなかった場合。マイナス7点。→保留


⑩なお、このルールの中には、ひとつだけ嘘が紛れています。→保留




「……ふう、少しは絞れたかな?」


直樹は腕で額の汗を拭った。


「さて、ここからさらに絞りたいところだけど……うわっ!?も、もうあと8分しかない!」


直樹は懇願するように、「どうする?優太郎くん」と俺へ目を向けてきた。


「……そう、だな」


正直、整理されていない問題が多い。何が本当で何が嘘かもまだ曖昧だ。


しかし、タイムリミットはもうそこまで来てる。ここでウダウダしてたら詰む。


特に塩ケ崎さんは1点しかないんだ。制限時間を過ぎた瞬間に死んでしまう。


(そうだ、優太郎。ここでこそ俯瞰して見ろ……)


俺がテストの前に、クラスメイトのみんなへ言ったじゃないか。問題を俯瞰して見て、天使が俺たちに何をさせようとしてるか考えろって。


そうだ、天使たち。天使たちは……俺たちの善性を測ってる。そこを重点的に考えるんだ。


「……まず俺が思うのは、⑤のトゥルークリアは必ずあるってことだ」


「トゥルークリア?」


「そうだ。これがよい子テストだってことをメタ的に考えると、ノーマルクリアの『処刑して終わり』は、よい子テストっぽくない。必ず、もっとよい子であることを求めてくるはずだ」


「なるほど、さらに高度なクリア方法があるってことだね?」


「ああ。つまり、『誰も処刑しない選択肢』を取れるかどうかってことじゃないか?」


そこに、海斗が「でもよ優太郎」と言って会話に参加した。


「投票は、絶対しないといけないって書いてあるぜ?これが嘘かどうかわかんねーけど、もしほんとだったらどうすんだよ?」


「そこなんだよな……。それがネックなんだ。誰も殺さずに投票を完結させることができればいいんだが……」


「……あ、あの、すみません」


その時、岡本さんも話に入ってきた。


「⑧は……使えませんか?」


「え?」


「『投票にて最多票だった者が処刑されます。なお、最多票が複数いる場合は、処刑は執行されません』。つまり、みんなで票を分散して、最多票を出さなければ……」


「!なるほど、投票自体はやったけど、処刑される者は決まらない!そこは穴があるかもしれない!」


ここに来て、ようやく希望が出てきた。


か細く、糸のように弱い希望だが、まだ勝てる道があるかもしれない。


制限時間は、残り4分を切っていた。










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