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愛衣の家出

「な……何を言って……」

「入るからどいてっ」

「わ」


 彼女は強引に玄関に入ってくる。


「あら、愛衣ちゃんいらっしゃい」

「おばさまっ、こんばんわ」

「母さん、愛衣が勝手に……」

「ささ、愛衣ちゃん上がって上がって」

「ありがとうございます」

「へ?」


 そして愛衣は母さんに連れられて荷物を持ってずかずかと上がっていく。ど、どうなっとるんだ?

 そして後を付いていってみると、愛衣は洗面所に入り、母さんはそこから離れる。

 ???


「お兄ちゃん、何してるの?」

「わ」


 後ろに妹の明美が怪訝な顔してこっちを見る。


「家で犯罪とか止めてよね。気持ち悪い」

「……そんなことしないわい」

「ふん」


 そう言って部屋に向かう。今あいつは中学2年生で思春期真っ盛りだから兄に対しての態度が悪い。はぁ、お兄ちゃん困っちまうな。僕も仕方なく部屋に戻り漫画を読むが、内容が頭に入ってこない……。

 しばらくして誰かが部屋にノックした。


「あーい」

「……」

「愛衣!?」


 そこにはパジャマ姿の愛衣がいた。髪が濡れてある種の無防備状態になっているから、少しドキッとする。


「あ、あんだよ……?」

「……」


 彼女は部屋に入りドアを閉めて正座する。


「どうした……かしこまって……?」

「……しばらく宮田家にごやっかいになるので、宜しくお願いします」

「え!?」


 彼女は深々とお辞儀をするが、え? どゆこと? 愛衣がうちに???


「しかしうちの親が承諾するか……」

「おばさまにはここへ来る前に既に承諾を貰っているから」

「……」


 既に手はずを整えていたのか。愛衣と母とは昔から仲が良く、そして我が家のヒエラルキーは一番上が母さんで二番目が明美だから、母が承諾したら大体のことは通る。しかし僕は納得しない。


「しかしどうしてウチに泊まるんだ? おじさんと何かあったのか?」

「……」


 俯いて答えない。これは何かあったな。あまり問いただすのはあれだしな~……。はぁ。


「……分かった、困ったらお互い様だ。幼馴染みのよしみで少しなら良いよ」


 少し顔が緩み、優しくありがとうと言う。その顔はまるで麻衣ちゃんみたいだった。僕は目をそらす。


「……おじさんに連絡はしとけよ。心配するぞ」

「! ……そうね。送っとくわ」

「ところでどこで寝るんだ?」

「畳の応接間を借りさせて頂くわ」

「そうか……」

「……」

「……」

「……あのさ」

「何?」

「……いや、何でもない」

「……そ」


 そして彼女は僕の部屋から出て行った。……はぁ、日野家で一体何があったんだー? 僕は天井を見ながら、思案にくれた。あ、結局どこから情報を得て僕の後を付いてきたのか訊くの忘れてた。


『ケンカかー』

『うん』

『私んちはケンカしないから』

『そうなのか』

『うん』

『珍しいね』

『そう……なのかしら?』

『多分』

『何かあった?』

『え?』

『親とケンカでもしたの?』


 何て答えるか……。


『ケンカは年がら年中してるよ』

『あははwそっか』

『そうそう』

『今日はどんなケンカしたの?』

『ま、今日は妹相手だけどね。思春期だから面倒くさくて』

『あー、なるほどねーっ』


 等と話をした。良かった、そんなに落ち込んではなさそうだ。

 そして僕は布団に入って就寝する。

 翌日の日曜日。寝ぼけながら朝食を食べにダイニングに向かうと、愛衣が母さんと一緒に料理をしていて、ついギョッとした。笑い合いながら楽しんで料理している姿は微笑ましい程だ。

 仲が良いのは知っていたが、まさかここまでとは……。


「あら晴樹、おはよう。早いじゃない」

「……」

「お、おはよう」


 照れくさそうに愛衣も言う。


「……おはよう」


 そしてご飯を食べる段になるとうちの両親が、


「愛衣ちゃん。うちは一人増えるくらい大丈夫だから心配しなくて良いぞっ」

「ありがとうございます」

「そうよ~。うちを家族と思って良いから、気にしないでねっ」

「はい、ありがとうございます」

「もう孫の顔も見るの近いかしらーっ」


 うちの親は吞気だなと思いながら、ご飯を終えて部屋でくつろぐ。しばらくしていると僕の部屋をノックする音がする。……まさか、


「……はい」

「失礼します……」


 やはり愛衣だった。


「どうした?」

「……一緒に宿題しようと思って」

「……あぁ」


 そして僕達は宿題を始めた。こんな余裕に宿題をするなんて、いつ振りだろうか? 記憶にないな。黙々と静かに勉強をしていると、机が振動する。何だと思い、キョロキョロしていると愛衣が震えている。


「ど、どうかしたか愛衣?」


 彼女はこっちを見て、僕はギョッとする。愛衣は目をうるうるさせていた。


「……どうした?」

「……父さんと大ゲンカしちゃった」

「……それって」

「……私……一人っ子じゃなかったみたい……」

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