ラブストーリーと殺し合い(愛?)は突然に
ラブストーリーと殺し合い(愛?)は突然に
シャルクレたちを見送った後、カイトとタマルも出発の準備にとりかかる。
準備は勿論タマルが全てやり、カイトは竜車の荷台で寝っ転がってるだけであった。
「アンタ、手伝うとかの甲斐性持ち合わせてないんかい!?」
「あぁ、今それの持ち合わせ全然ありませーん」
「な、なんてダメ人間!ヤバいゴミ拾ってしまったのでは......?!」
今さら後悔しても仕方ないことではあるが、この世界の常識が一切なく、特技もなく、強さもなく、ヤル気もない人間を食わせていかねばならないという、ある意味介護生活となるのではないかとタマルは恐怖した。
「と、ところでカイさん、カイさんは何かアテとか目指す場所とか目的はないんすか?」
それらがタマルと不一致していれば、ゴミを捨てる理由になる。
「あのなぁ、急にココ来て、んなもん直ぐに見つかるわけねーだろ。俺には夢も希望も金も何にもねーんだ。
......なぁ、捨てたり、しないよな?そんな可哀想な俺を見捨て、ないよな?」
タマルの不穏な気配を感じ取り、カイトは先手を打った。
「ハハ!ソンナワケナイジャナイスカ!......はぁ、せめてヤル気くらい見せてもらいたいもんすね」
愚痴を言いながら、タマルはロンロリアルと竜車の接続作業を進めた。
「キュウゥン!」
作業中、ロンロリアルがタマルの頬に顔を寄せて甘えてくる。
「く、くすぐったいよ!」
「キュウキュウゥン!」
ロンロリアルの顔を撫でると、ロンロリアルは更に嬉しそうな声を上げる。
「......ホント、お前と別れることにならなくて良かったっす!」
「キュウゥン!!」
ロンロリアルもタマルに同調するかのように返事をした。
「まぁ、それはあの人のお陰なんすけどね......」
そう言って竜車の中を覗きこむと、当の本人は腕を枕にしてダラダラ寝転んでいる。
タマルの竜車はロンロリアルの体力を活かして、なるべく多くの荷を運べるように普通のサイズより倍近くの大きさとなっている。
したがって、中で寝る人間も足を伸ばしてゆったりと寝転んでいられるのだが、現時点でそれをやられるとタマルは不愉快な気持ちになってしまう。
「あのっすねカイさん、寝るのは後にしてもらってっすね......」
「しかし、そのトカゲの名前語呂悪ぃな」
「はい?」
軽く説教しようかと思った矢先に、思いがけないことを言われてしまい、出先を挫かれてしまった。
「ロンロリアルって呼び辛くね?」
「ロンロリアルっていうのは、種族名でコイツの名前じゃないっすよ」
「は?何、そんじゃおめーは、今まで大事な相棒を、人間だったら『おい人間!』って呼んでたことになんぞ!お前、結構薄情なんか?」
「なんすか急に!名前とかってペットなら分かりますけど......文化的に名前を付ける習慣がなかったっていいますか......」
今まで名前を呼ぶ必然がなかったことから気にしてなかったが、タマルは名付けを完全に失念していた。
しかし、それを認めるとカイトにうるさく言われるような気がして認めるわけにわいかず、タマルは誤魔化すことにした。
「ふーん、ねーんだ、そーゆーの」
「え、えぇ、習慣ないんで気にしてなかったっす......でも、せっかくだから名前つけましょうか!」
「そーゆー文化ないのに?......ふーん」
「えぇ、ないんすけど......せっかくなんで......」
カイトにジと目で見られて嫌な汗が滝のように出てきたが、タマルは誤魔化しを通すことにした。
「まぁ、そーゆーことにしておいてやるか。さーて、お前の名前は何が良いかな、なぁっ!タマロン!」
「そーっすね、どんなのが良いすかね、ドラゴン系統だから、そっちの感じが出るような......って、タマロンって名付けてるよ、この人!」
「キュウゥン!」
勝手に名前が決まってしまったが、呼ばれたロンロリアルが嬉しそうにしている姿を見ると、否定する気は失せてしまった。
「いや、お前が気に入ったなら文句ないすけど、タマロンってセンス感じないすね」
「ターコ、タマルのロンロリアルでタマロン!分かり易くて良いだろーよ!なぁっ、タマロン!」
「キュウゥン!!」
喜んでいる一人と一匹を見ていると、最早ツッコミを入れる気も失せてしまった。
「はぁ、何かこんな感じでずっと引っ掻き回されるんすね、俺のこれから......」
カイトのペースに振り回される未来図を思い浮かべ、タマルは頭痛がする思いがした。
「あんだよ、相棒に素敵な名前か決まったっつーのに、陰気な顔しやがって。」
「誰のせいっすか!......はぁ、もういいっす。準備できたんでそろそろ出発するすよ」
カイトを相手にすることに疲れてしまったタマルは、さっさと出発することにした。
「おうよ、安全運転、快適な旅を頼むぜ~」
そういうとカイトはゴロンと馬車のなかで寝転ぶ。
その姿を見たタマルはニヤリとした。
「シロサ村には半日くらいで着くと思うんで、カイさんは、どーぞ、どーぞ、ごゆっくり~っす」
カイトは馬車の乗り心地を知らない。しかも、ロンロリアルが引く馬車の揺れ具合を。
それを味わうカイトの表情を楽しみに、タマルはタマロンに出発させたのだった。
ー 半日後。
「はぁ、はぁ、はぁ、てめー、止まれって何度言ったら分かんだボケー!」
「え?いや、ぜーんぜん聞こえなかったっすよ~♪」
「て、てめー、絶対ワザとだな!お、覚えてろ......オロロロロ」
シロサ村を目前にして、一旦馬車の中を確認したのだが、タマルの予想通り、カイトは極度の揺れとスピードで酷い乗り物酔いになったようだった。
「後少しで村に着くんで、今のうちに吐いといて下さいっす!」
「オロロロロ......くそぅ......」
荷台から身を乗り出して、ボカシがかかる液体を出しつつ悪態をつくが、タマルには届いてなかった。
「シロサ村に戻るのが4日振りとは思えないっすね~、あぁ、早く宿屋でお風呂に入りたいっす!」
そう言うと、逸る気持ちを抑え切れず、タマルはタマロンに先を急がせた。
「あ、コラ!まだ出し切ってな......オロロロロ!」
一同の通った跡には、ボカシの軌跡があったという......
ー 十分後
「おぉ、タマルか?今回も無事に戻って来たんだなぁ」
停車する気配を感じてカイトが荷台から顔を出すと、門の前に座る白い髭面の初老の男からタマルが声を掛けられたところだった。
門といっても丸太でこしらえた木製の枠というだけで、ヨリメルがぶっ叩いたら崩れてしまうような、申し訳程度の門である。
「えぇ、色々あったっすけど、何とか無事だったっす!」
「そうかい、無事なら何よりだがね。ん?そこのゲロ臭いあんちゃんは見ない顔だなぁ。」
よく見ると、初老の男の顔は髭というより、顔が白い毛でフサフサしており、鼻が長くて黒い犬の顔だった。
犬爺は鼻をピスピスさせながら顔をしかめた。
「あぁ、この人はカイトさんといって、今回の旅でお世話になった人なんす。ちょっとゲロ臭いかもしれないすが、怪しい人じゃないっすよ」
「こらこら、どんな紹介してくれてんじゃ、てめーは!」
「あいだ!」
カイトがツッコミながらタマルの頭を小突くと、犬の男はさらに顔をしかめた。
「何じゃ、柄が悪いのぅ」
「えぇ、まぁこの通り柄が悪い人なんすけど、世話になってしまったというか仕方なくというか......おっと、か、カイさん、この犬族のじぃちゃんは、シロサ村の南門の門番してるダンさんっす」
思わず本音が漏れそうになり、タマルは慌ててカイトにダンを紹介した。
「......今聞きずてならぬ事が聞こえたよーな......」
口をつぐむタマルをカイトがジロリと睨むと、ダンに止められる。
「カッカッカ!カイトさんとやら、あんまりタマルをいじめさんなよ。その坊っちゃんは、真面目だがちと正直過ぎるんじゃからなぁ、ハッハッハ!」
そう笑うダンを改めて見てみると、鎧っぽい皮の服を着ていて、槍っぽい武器を手にしている。門番ということで武装しているのだろうが、素人目にも分かる貧相な装備品だ。
加えて、門番その人自体が、門番をするには歳を取りすぎているように思えた。
「おい、あんた門番なんだよな?」
「あぁ、如何にも!シロサ村南門を守るダンであるぞ」
そう名乗りを上げると、槍を地面について起立の姿勢を取ろうとするが、腰が若干曲がっていて起立仕切れていない。
「おい、門番って、こんなヨボヨボで大丈夫なのかよ?」
門番を置くくらいなのだから、村に危険が迫る可能性を示してしると思われるが、当の門番がかなり頼りなく感じたカイトはタマルに耳打ちして尋ねた。
「えぇ、問題ないすよ。門番っていっても、シロサ村は危険がない村なんで、主な仕事は初めて来た人の道案内とかなんす」
「それ門番じゃねーぞ、もはや」
「そうかもしれないすね。でもシロサ村は、王国の領土内なんで、村の周辺は王国の騎士団とかが見回りしてるんで安心なんすよ。
門番は、退役兵とかの斡旋先になってるんす」
「へぇ~、斡旋とかあるんだ。しっかりしてんだな」
「えぇ、退役兵じゃなくても、短期の仕事とかはハーイワークで斡旋してるっす」
「ハーイワーク!?ハローじゃなくて!?フランクな言い方にしただけかよ!?」
この世界の社会について少し感心したのもつかの間、聞き慣れた場所が冗談な名前でこの世界にもあった。
「おいタマルよ、村に入るのか入らんのか?」
「あ、すんません、入るっす!ほら、カイさんは大人しくしてて下さいっす!」
ある意味ショックを受けているカイトをよそに、タマルはシロサ村に馬車を進めた。
「カイトさん、だったかな。わしゃ確かにヨボヨボだが、まだまだ現役、若いモンにゃ負けんぞ!この南門はワシが守る限りは安泰じゃわい!」
耳打ちした声は、しっかりダンの耳まで届いていたらしい。
胸を張るダンは、門番という仕事に誇りを持っているように感じた。
「へっ、そーかよ。あんまし無理すんなよ、じーさん」
不意をつかれて、カイトは苦笑いで答えた。
カイトが知るRPGや映画などのファンタジー世界における『村』の定義は、住人は20人前後で狭い田舎村、というものだった。
しかし、村に入ってからその定義は符合しないことが分かる。
所狭しとまではいかないが、木製の家は想像よりもかなり多く建ち並んでいるし、舗装はされていないものの、道路はちゃんと均してある。
看板を出している店らしい建物も何軒か目にしたし、何より面積が広い。
門を通過して十分以上経過しているが、まだ村の中であるらしい。
カイトの定義では、村の端から端までは歩いて5分くらいなものだ。
「おい、まだ宿屋には着かねーのか?」
「はい、村には宿屋が2軒あるんすけど、タマロンが休める納屋付きの宿屋が北の方にあるんすよ。『止まり木』って宿屋っす。もう目の前すよ」
そう言われて見ると、他の建物より大きな木製の建物が近付いていた。
一階は西部劇で見るバーのような見た目で、三階建てとなっている。なかなか大きな建物だった。
「受付に行ってるんで、ちょっと待ってて下さい」
そう言うと、タマルは馬車を宿屋の軒先に停めて建物に入っていった。
数分後、タマルはエプロンを着けた猿顔を連れて出てきた。
「カイさん、お待たせしたっす。エリンさん、この人がカイトさんっていう、俺が世話になってる人す。カイさん、こっちがエリンさんっていう、宿屋の仲居さんす」
「初めまして、エリンといいます。『止まり木』にようこそ!
あら、タマル君、良い男じゃないの!もう、そうならそう言ってよ!」
エリンはタマルの背中をバシバシ叩いて赤い顔をしている。
「ぐはっ!エリンさん、痛いっすよ!」
「あらやだ、タマル君は痛がりなんだから~♪よろしくねカイトさん、良い男は大歓迎よ!」
「お、おう、よろしく頼むぜ......」
エリンのパワーに圧倒されながら、カイトが返事をすると、エリンはタマロンの手綱を持った。
「じゃあ、このコは納屋で休ませてあげるわね!タマル君たちは荷物下ろしてお風呂にはいっちゃって!」
そう言うと、エリンは建物の奥にタマロンと馬車を引いていった。
「じゃあ俺たちは、お風呂でも入りましょうっす!」
「あ、あぁ、そーだな。......なぁ、やっぱりここは、あーゆー人が多いのか?」
「あーゆーっすか?」
一瞬何を問われているのか分からなかったが、少し考えてタマルは合点がいった。
「あぁ、獣人族のことっすね。うーん、そうすね、この中央大陸は獣人族が多いすかね。もっと北の方に行けばエルフ族を多く目にしますし、他にもドワーフ族とか、ホビット族、オーガ族とか。西大陸には魔族がいますしね。もちろん、俺みたいな人族もっす。カイさんの世界にはいないんすか?」
カイトはあまり深く考えないようにしていたが、やはりこの世界は自分が生きていた世界とはかけ離れた場所であることが理解できてしまう説明だった。
「うん、いねー。鳥が『オハヨウ』って言うだけでテレビ出れるよーな世界なんだぞ。」
「はぁ、てれびってのがよく分からないっすけど......」
そんな会話をしながら宿屋に入る。
宿屋の一階はロビーというより食堂となっており、イメージ的にはやはり西部劇のバーに近い。カウンターが中央奥にあって、その他は簡素なテーブルと椅子が10セットちょっと置かれている。
階段はカウンターの左脇にあった。
テーブルには5人くらいの客が酒を飲んだり飯を食ったりしている。
そのうち、ネズミ顔の酒を飲んでいた客がタマルに話し掛けてきた。
「お、タマルじゃねぇか。商売はどうよ、順調か?グフフ」
馴れ馴れしい言葉と態度とは変わって、タマルは硬い表情のままだ。
「えぇ、お陰で様で。」
それだけの返事でその場を後にしようとする。
「お、何でぇ、素っ気ねぇな。強盗にでも遭ったか?何てな!ゲァッハッハ!」
小馬鹿にしたようなものの言い方、汚い笑い声は、初見のカイトをも十分に不快にさせるものがあった。
「ん?タマルに連れなんて珍しいな。何だぁ、用心棒か?せいぜい可愛いお坊ちゃん守ってやるんだな!ゲハハハ!」
「......おい」
ドスの利いた声でカイトはネズミ顔に声を掛ける。
「ゲハ!ん?何だい、真っ黒用心棒さんよ!なーんてな、ゲェハハハハ!」
「......おめー、臭ぇーから喋んな」
それだけ言うと、階段を登るタマルに続いた。
「な、何ぃ!だ、誰が臭いって......」
男が周りを見ると、近くにいたはずの他の客が先程より自分から距離を空けて目を背けていたことに気付き、恥ずかしくなった。
「く、くそぉ、あいつらめ......」
ネズミはそう言いながらも、水で口をゆすいだ。
シングルベッドが二つある部屋に入るとタマルがため息を吐いた。
「何だ、あのネズミは?」
「あの人はホルスっていう流通商やってる人っす。所謂、商売敵ってやつすね。俺があの人の顧客取っちゃってから、あんな調子で絡んでくるんすよ。俺、あの人苦手なんすよね......ちなみにあんな顔っすけど獣人族じゃなくて人族みたいっす」
「ま、紛らわしい!あれ完全にネズミじゃねーか!......まぁ、商売なんてそんなもんだ。イチイチ気にしてたら、てめーの稼ぎになんねーぞ。」
「そーなんすけどね、嫌味ったらしくて参っちゃうっすよ。まぁ、嫌味言うだけで手出されたりはされてないんで、適当にあしらってるっす」
タマルは、さもウンザリといった表情だ。
人の良いタマルをこうまでさせるとは、相手は相当性格が悪いようだ。性格の悪さは顔にしっかりと出ていた。
「そーかよ、まぁ真面目に相手にする価値はなさそーだな」
「えぇ、そーすね。あ、カイさん、俺、顧客に売金渡してこなきゃなんで、適当に休んでて下さいっす!」
「あぁ?ウリキン?」
「はい、今回の旅は、俺が嘱託を請けてシロサ村特産のサルアリ汁を各地で売って、その15%が俺の手元に入るって仕事だったんす。なんで、依頼人に15%を差し引いた売金を渡して契約完了となるんす」
「なーるほどな~。何だよ、しっかり仕事してんじゃねーかよ、商売人!」
「もちろんっすよ!」
商売の話になり、タマルは元気が出たようだった。生活のためでもあるだろうが、それ以上に根っからの商売好きなのだろうとカイトは思った。
「じゃ、行ってきますんで、カイさんは寛いでて下さいっす!」
「おーよ、行ってこいや!」
元気に部屋を出ていくタマルを見送り、カイトはベッドに横になった。
横になると、今日の出来事を振り返る。
全裸で骸骨に出会い、変態女に殺されかけて、一瞬で川に移動して流されて。
流れついた先では猪コンビに殺されかけて。
最後には乗り物酔いに殺されかけた。
思い起こすだけで、今日はお腹一杯の気分だった。
サラリーマンをしていた人生では得ることのない経験を経て、自分が異なる世界に来てしまっていることは、もはや認めざるを得ないようだった。
「......ったく、ゲップが出ちまうくらいだな......うぷっ」
酷かった揺れを思い出してまた気分が悪くなってきた。
吐いても窒息しないように身体を横にすると、カイトは簡単に意識を手放した。
「......カイさん、カイさん!」
身体を揺らされて、カイトはうっすらと目を開けた。
「カイさん、大変っすよ!」
何事か騒ぎ立てて起こすタマルをよそに、カイトは憂鬱な気分になった。
「......んだよ、やっぱ夢じゃねーのかよ......」
「何言ってんすか!それはもう諦めて現実を見て下さいっす!っていうか、それどころじゃないんすよ!大変なんすってば!」
「だー、もーうるせーな!聞こえてんだよ、んなデカイ声じゃなくてもよ!!
......んで、どーしたよ、さっそく俺のハーレムへの入所希望者が現れたんかよ?」
「アンタの脳ミソどんだけ腐ってるんすか!?いや、でも近くはないんすけど、遠くはあるっていうか、とにかく女の人っす!」
「おい、ツッコミに力入れ過ぎて説明がおざなりになってんぞ!」
「ハッ、す、すんませんす。何しろビックリしてっすね。」
タマルはツッコミをツッコまれ、深呼吸をする。
「な、何しろ、カイさんに女性のお客さんなんすよ!」
「俺に、女の客だぁ?」
カイトが訝しむのも無理はない。
この世界に来てから知り合ったのは、タマルの他には骸骨とオーク族コンビしかいないのだ。
「どんな奴だよ?」
「そ、そこが問題なんすよ!金髪の、超美人さんなんすよ!!なんすか、あの人は!どんな関係なんすか!?ズルいっすよ自分だけ!!裏切り者ーっ!!」
「だーっ、落ち着け!落ち着けバカヤロー!俺がそんなネーチャン知り合いなわけねーだろが!!人違いじゃねーのか?」
そう言ってタマルを落ち着かせようとするが、タマルの興奮は静まらない。
「そんなこと言って!だって、全身真っ黒の服装でマントまで真っ黒の人って言われたんすけど、そんなのカイさんしかいないじゃないすか!?」
そう言われて、カイトは全身に汗が吹き出るのを感じた。もちろん、冷や汗だ。
「おい、そのネーチャンは俺の名前は言ってねーのかよ?」
「え?はい、そーっすよ。宿屋に入ろうとした時に声掛けられたんすよ。
『あなた、全身真っ黒のお兄さんのお知り合い?逢いに来たって伝えて貰える?それまで一階で遊んでるから』
って言ってたっすね。......そーいや、何で俺がカイさんと一緒だって分かったんすかね?」
思い当たる人物は一人しかいない。
人の命を削って悦に浸る変態だ。
「そのネーチャンは、赤黒い鎧にバカデカイ武器持ってなかったか?」
真剣な顔をして尋ねるカイトの雰囲気に、タマルもただ事ではないものを感じた。
「いえ、普通の白いシャツにピンクのスカートだったっすけど。武器なんて持ってなかったっすよ」
そう聞いて、少しカイトの警戒が緩んだ。
「ん?そうか、じゃあ違うんか......」
カイトが見たところ、赤嵐の鎧と武器は間違いなく変態女の専用物で、それを外して敵に会いに来るとは思えなかった。
「そーだよな、まさか手掛かりなしにココまでは追い付けねーよな......」
「カイさん......?」
「そーなると、やっぱり俺のファンか!?超美人なんだっけ!?パイオツカイデーだったか?」
「マジな顔したと思ったら、何すかそれ!
自分の目で確かめて下さいっす!」
「そーだな、喜んで!!......グフフ、ようやくこの世界に来た恩恵が、この手に!!」
「バカ言ってないで、一階に降りますよー」
下品な想像をしているカイトに呆れながら、タマルが先を促す。
階段を降りながらもカイトの表情は緩みっ放しで、タマルは面白くない気持ちだったが、自分も美人と御近づきになれるかもしれないという打算の元、ツッコミはせずにカイトを一階へ連れて行った。
一階に降りると、数人いた客はほぼ店の中央のテーブルに集まっていた。
もっと正確にいえば、中央の椅子に座っている金髪女の周りに集まっていた。
金髪女はこちらにキレイな後ろ髪を見せているため顔は見えないが、輝くような金髪は美しい光沢を放っている。
その女性を囲む一団のなかには、ホルスも含まれており、ホルスがタマルたちをあざとく見つけた。
「おい、お姉さん、あんたの探してるっていう真っ黒野郎が降りて来たようですぜ」
何故かホルスが女性に手下言葉で話し掛けると、一団の男たちの目が一斉にカイトに向けられる。
階段を降りきり、女性に近づきながらカイトが声を掛ける。
「おい、あんた、俺に何か用なんだって?」
「えぇ、逢いたかったわ、あなたに」
振り向かずに返事をする女の声を聞いて、カイトは右手がジンジン痛むと同時に全身が粟立った。
「て、てめーは!」
「あらぁ、連れないのねぇ、そーんな声出しちゃって。」
振り向いた女は鎧こそ着けていないが、紛れもない、自分を殺そうとした赤嵐だった。
「てめー、何でココが分かった!?」
「やぁねぇ、せっかくの再会なのに、もう少しロマンチックな言葉が欲しかったわ、お姉さんは♪」
「タマル離れろ!コイツが赤嵐だ!!」
「へ?その人が?あの......赤嵐っすか!?」
「んもぅ、私にもちゃあんとした名前があるのよ、自己紹介するから貴方も教えてね。じゃないと、ミナゴロシ、しちゃうんだから!」
そう言いながらウインクをするが、カイトには悪寒しか走らない。
しかし、どうすればこの窮地を逃れることができるか考え出さねばならなかった。
それができないなら、高確率で殺されるであろう。
「おい、お姉さん、俺ら無視してあんな奴相手にするなよぉ。じゃないと、お仕置きしちゃうぞぉ~」
カイトの言葉を聞いてなかったのか、ホルスが赤嵐の肩に触れる。
「バカヤロー!そいつ赤嵐だって言ってんだろ!離れろ!!」
「へ?赤嵐って、あの帝国の?このお姉さ......」
言い終わる前に、ホルスは喉元から真っ赤な血を噴射していた。
「はれ?これ、俺の血......?」
派手に噴射する喉元を押さえながら、ホルスは膝をついて倒れた。
「汚ならしい手で私に触んじゃねーよ」
先程とはうって変わって、冷淡な声を発する赤嵐の手には、いつの間にか30センチメートルくらいのやや大きめのナイフが握られていた。
「あらやだ、汚い言葉はダメよね、ゴメンナサーイ」
止めどなく吹き出すホルスの血を浴びて、赤嵐は申し訳なさそうに嗤った。
「う、うわぁー!人殺しだー!」
ホルスと一緒に赤嵐を囲んでいた男たちが一斉に外へ逃げて行ったが、赤嵐は気に止めることなく、カイトに微笑んだ。
「じゃあ、私から自己紹介ね♪
私は、クラウディア・フォーナイト。
お仕事は、ガン帝国騎士団第一先鋒隊筆頭騎士をしているの、ヨロシクね♪」
タマルには不覚にも、自己紹介をして微笑む女が赤嵐だと分かっていても見とれてしまった。
たとえそれが、金髪を血で赤く染める女であっても。




