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明日に向かって

明日に向かって



自己紹介を済ませると、パートナー契約(仮)を締結したばかりのタマルとボディーガード2名は、改めてカイトの非常識さを問う。


「ところで、カイトの兄さんよ」

「あんだよ、あんちゃんから兄さんに格上げかよ?調子いーな、全く」

「へっ、そういうなって。でよ、結局のところ、アンタ何者なんだよ?」

「ナニモノ、ねぇ......」

「そ、そうだぞ。アニキのアニキは、じ、常識がないんだな」

「いや、おめーらに常識云々言われたくねーんだが......」

「そうすよ、ポーションも外法も知らないなんて、非常識が過ぎますよ。まるで違う世界から来たみたいな......」

「違う世界、か......」


カイトにとってここは、非常識が過ぎる場所だった。骸骨人間に豚人間、見たことのないトカゲ、得体の知れない術。しかし、ここはそれらが常識だという。


「確かにここは、俺が生まれて生きてきた世界とは違うのかもな......」


そう呟くと、タマルがギョッとした。

「違う世界ってのは例えっすよ、何真剣に受け止めてんすか!?やだなぁもう!は、ハハ!」

「......」

しかし、カイトは考えこんだ表情のままだ。


「え?いやいや......え?冗談っすよね!?」

「小僧小僧!狼狽え過ぎぞ!落ち着け!」

ガシッとシャルクレに頭を捕まれて、落ち着かされる。


「......なぁ、兄さんよ、アンタとはまだ出逢ってそんなに経ってないが、俺ぁあんたを信用してる。......いや、ココをズバッとやられちまってる」

シャルクレは心臓をトントンと指差す。

「こんなことは俺もヨリメルも、そして多分小僧だって同じだ。だから、アンタを信じる。それどころか、俺らを信用して欲しい、頼って欲しいとすら思ってんだ。だから、兄さん、アンタも俺らを信じてくれ。」

シャルクレは真っ直ぐカイトの目を見据える。

チラリと横を見ると、見据えていたのはシャルクレだけではなく、タマルもヨリメルもカイトの目を見据えていた。


「......はぁ、別におめーらが信用できねーってわけじゃねーんだよ。野郎共が暑苦しく見詰めんじゃねーよ」

溜息混じりにそう言うが、三人が目を反らす様子がない。それどころか、三人揃ってカイトにジリジリと詰め寄る。カイトが話すまで逃がしてはくれないようだった。

「わーった!わーかったよ!話す!話すからこっち寄ってくんな!

......話すけどよ、俺だってまだ状況が分かってねーんだ。相当ヘンテコな話になるぜ?」

「へっ、そんなのアンタ見てりゃ分かるってもんだぜ!」



「かくかくしかじか......ってわけなんだ。」

「なるほど......ってアンタ、口でかくかくしかじか言って通じるワケないでしょ!!」

「え!?そーゆー便利なシステムないのかよ......ちっ、面倒くせーな」

「真面目にやって下さいっす!」

「はいはい、分かったよ。それがな......」


カイトはこれまでの経緯をかいつまんで話した。

「......てなことなんだよ。」

「いや、全然分かんないっすよ!酔っ払って寝て起きたらココに流されて来たって!!アンタかいつまみ過ぎでしょ!」

「あれ?このシステムもねーの?」

「......兄さん、話す気あんのかよ?」

「かっかっか!まーまー、そー怒んなって。

さて、冗談はさておき、酔っ払って寝ちまった後なんだが、俺が目を覚ましたら......」

カイトは今度こそ本当にこれまでの経緯を話した。



「骸骨集団に、赤嵐、そんで魔神様ね......」

カイトから聞いた話は実に荒唐無稽な内容過ぎて理解が追い付いていないシャルクレは、腕を組んで訝しい表情をしたままだ。


「ま、魔神なんてお伽噺、聞いたのは子供のとき以来っすよ」

こちらは、お伽噺に出てくる魔神と聞いて、半ば呆れている。今までも『魔神』を僭称する者がいないわけではなかった。

僭称者たちはその悉くが悲惨な死を迎えていたことから、名乗ることすら畏れられていたのだが、まさかここでそれを聞くとは予想していなかった。


「......な、なんだな......」

一方、ヨリメルは途中から長話についていけなくなっていた。


「だーから言ったじゃねーか、ヘンテコな話だってよ」

「そ、そりゃそうすけど......別の世界から来たかもとか、魔神降臨とか、あまりに話が突飛過ぎて理解が及ばない、というか、眉唾というか......ねぇ、シャルクレさん?」

「あぁ、確かに眉唾モンの話だ。......だが、気になる点がある。」

「気になる点、すか?」

「あぁ、まずはカイトの兄さんを起こしたっていう骸骨の話だ。単に話ができる骸骨ってなら珍しいかもしれんがいないわけではない。肝心なのは、そいつが名乗ったラーズという名前だ。

......ラーズ・ウル・トゥル・ハルメット、約五千年前に魔神様に仕えた七大魔王第二位『死王』の名前だ。死王様は銀に輝くお身体だったと伝わっている。

ちなみに、スケルトン系統はボーンファイターやスケルトンゾンビ、スケルトンメイジとか結構多種族な上に色で種族間の上下があるらしくてよ。

最も多くて低種族なのが白、次に黒、青、赤ときて原種と言われている黄金ってなるらしい。つまり、銀色のスケルトンはいないんだよ、お伽噺の死王以外はな。」

「......」


シャルクレの話を固唾を飲んで聞いているかのような三人だが、真剣に話を聞いているのはタマルだけであり、ほか一名は話についていけず何となく相槌を打っているだけで、ほか一名は「設定解説かよ」などと思っていた。


「それで次の点だが......。カイトの兄さんの目のことだ。俺が聞いた魔神様のお伽噺によると、魔神様は人族にその魂とお身体を異次元に封印された際に、超神的なお力をも封印されたとされている。一説によると、人族の勇者が連れていた13名のお供連中が力を合わせて封印したなんて話もある。

そんでよ、その目が封印されてた力なんじゃねーのか?」

「あ、俺も聞いたことあるっす!偉大なる13(グレイテスト・サーティーン)っすね!」

「人族ではそう言い伝えられてんだろうが、俺ら亜人のなかでは愚かなる13イディオッド・サーティーンって言われてるな。まぁ、人族と亜人の文化の違いってやつだな。」

「......盛り上がってるとこ悪ぃんだけどよ、俺と何の関係があんだ?」

「だから、アンタが魔神って可能性があるって話っすよ!流れで分かって欲しいっすよ!」

「俺は一般人だっつーの。それに俺は俺であって、ファンファン大佐じゃねーぞ。」

「ゼルファン・クライセスト様、な。」

「そうそう、それ。銀色骸骨にも言われたけどよ、俺はそんな奴のことは知らねーし、五千年も生きてねーし。人違いなんじゃねーのか?」

「しかし、さっきの目のことがなぁ。あれは封印されたお力が開封されたんじゃねぇかと思ったんだがなぁ」


シャルクレは先程の対戦でカイトが渾身の袈裟斬りをかわしたことを思い出して身震いした。

「あんな紙一重で俺の渾身の一撃をかわしたのが魔神様のお力だったなら納得いくぜ。」

「でも何で封印が解かれたんすかね?」

「うむ、それはよく分からんが......どう見ても小僧が解いたようにしか見えなかったが、本当に覚えはないのか?」

「はい、コレっぽっちもないす」

タマルも指摘されなくとも開封が自分に関係しているとは否定し難い事実として受け止めているが、その理由には全く覚えがなかった。


「しかしな......」

カイトも先程の対戦を思い起こすが、魔神の力という割りには動体視力が上がっただけで『神』の力と呼ぶには物足りなさを感じていた。

「さっきの種明かしは、目から光が出た後で得たもんのお陰だとは思うぜ」

「じゃあ、カイさんは、や、やっぱり魔神なんすかっ!!」

「だー、落ち着け!......だけどよ、魔神様の力っつっても、動体視力が良くなっただけなんだぞ?そんなのがお伽噺の魔神様ってやつの偉大な力なんか?」

「は?そんだけなのか?未来が見通せたり、遠くの場所が見えたり、人の心が見えたりしねぇのか?」

「んなもん見えっかよ!んな力あったら、5秒後にハーレム作ってるわい!」

「いや、無理でしょ!」


カイトが得た力が想定より大分ちゃっちいものだったことで、シャルクレは想像が外れ、自慢の顎に手を当てて考えこんだ。

「......どういうことなんだ、訳わかんねぇな」

いっそのこと、カイトが魔神であるとか、生まれ変わりとかであれば話が早かったのだろうが、魔神というには些か弱い。

しかし、魔神と結び付く事が多い。

開封の仕組みについても、さっぱり解らなかった。

「むむむ......。魔神様の事は一旦保留だ!訳わかんねぇ!」

考えても答えが出ないことから、シャルクレは魔神から一旦思考を離すことにした。シャルクレもお伽噺以上の情報は持ち合わせていなかったのだ。

「そ、そうすね、とりあえず止めましょう!」

タマルとて魔神についてはお伽噺以上のことは何も知らないのだが、カイトと魔神を結びつけることが危ないような気がして、この話題を早く終わらせたかった。

しかも、魔神と自分が何らかの繋がりがあるかもしれない、だなんて考えたくもなかったのだ。


「それよりも、カイさんを狙った赤嵐のことっすよ!」

「あぁ、そうだな。カイトの兄さん、襲ってきたのは赤い鎧にバカでかい武器持ったイカれた女だって言ってたよな?」

カイトの頭に赤嵐のことが浮かぶ。

恍惚とした表情で骸骨たちをデカい武器で屠っていた姿は未だにゾクッとさせられる。そして自分を見たあの目。狂気が宿った目を思い出す。

「あぁ、そうだ。あんなイカれた変態見たのは初めてだったな」

「変態、な......。兄さんは面白ぇ表現するな。あいつはとんでもねぇバケモンだぜ?」

「ん?知ってんのかよ、あの変態のこと」

「あいつを知らない奴はいねぇんじゃねぇか、ぐらいの超有名人だぜ?東の大国、ガン帝国の懐刀。神出鬼没の上、命令は一切無視。皇帝でさえ手を焼いているって話だ。しかしながら、あのバケモンみてーな強さのお陰で今の帝国は領土を倍近く広げることができた。あいつ一人の力で、だぜ?笑っちまうだろ?かの大帝国が一人の女にデカい借りがあるってんだからよ。だが、あのデタラメな強さはホンモンだ。」

「聞いた話、程度の言い方じゃあねーな?」

「あぁ、傭兵やってた頃、一度だけあいつとかち合ったことがあってな......バケモンって以外の表現が分からんぜ。アイツが長刀を一振りするだけで味方が十人以上殺られてよ。目に止まらねぇ早さで長刀を左右に振ったかと思えば一小隊が皆血だるまになってよ......アイツの周りは血の嵐が吹いたみてぇになってよ、そん中でアイツは嗤ってやがんだよ、全身に血浴びて恍惚とした顔してよ、感じてやがったんだよ、クソが......」

シャルクレは当時のことを思い出してガクガクと身震いした。あんな恐怖を感じたのは、それまでの人生にはなく、それ以降今までもない。紅潮する女の顔が恐怖を心に埋め込み、シャルクレを戦場から追い出した。


「そ、それでアニキとオイラは、よ、傭兵を辞めて中央に戻ってきたんだな」

「それで強盗を、ねぇ......。」

シャルクレはそんな自分を自嘲して生きてきた。

「ふっ、笑いたきゃ笑えよ、とんだ落ちこぼれだってことは自覚してんだ。女にビビって戦場から逃げて、行き着いた先が野盗なんてよ」

「シャルクレさん......」

もはや自分を襲いかかってきた恐ろしい強盗の姿はそこになかった。

その背中はより小さく、頼りなげに見えた。


そんなシャルクレにタマルは何と声を掛けたら良いのか分からず、躊躇ってしまい、しばらく無言の時が過ぎるが、

「バーカ」

そんな空気を壊したのはやはりカイトであった。

「ビビったから何だってんだよ、おめーは神様じゃねーんだぞ。ビビってケツまくって逃げたから何だってんだ。死んだらそこで終めーだろがよ。

落ちこぼれがどーした?そんでおめーはどーすんだよ?

落ちたまんまでいるのかよ。

生きてんだからまた這い上がれるだろ?

だいたい、おめーには弟分がいるんだ、まだぜーんぜん落ちきってねーっつーの。」

そう言われてシャルクレはヨリメルを見詰める。幼い頃に拾ってやってから、いつも一緒にやってきた。人に誉められないことも多くやってきたが、それでもヨリメルは着いてきてくれた。

ヨリメルと出逢ってから、孤独から解放されて、それが当たり前となっている。

改めて、ヨリメルの存在は自分のなかで大きなものだったと気づいた。


「それによ......」

ガバッとタマルを引き寄せてカイトは大きく笑った。

「ここにおめーらの救世主様がいんだろがよ!きっとコイツがおめーらを守ってくれるぜ」

「え!?俺は守ってもらう方なんじゃないんすか!?」

「守ってもらうし、守ってやれるだろ?そこのトカゲみたいによ」

そう言われてタマルは合点がいった。

何も物理的なことだけではない。それはシャルクレたちのやることで、それ以外のことをタマルが守ってやれれば良いのだ。

「......はい、そううすね!」

そう理解して、タマルは力強く頷いた。

「シャルクレさんもヨリメルさんも、俺が守るっすよ!!」

「カイトの兄さん、小僧......。あぁ、そうだなこれから真っ当に生きてやるぜ。改めて、よろしくだぜ、小僧!いや、小僧は失礼だな。我がご主人様よ!」

タマルの力強い目線にシャルクレは力が湧いたような気がした。それはただ生きるのではなく、活きる力だ。

それを証明するかのように、シャルクレは力強く手を差し出す。

「はい、よろしくっす!」

タマルはそれを力強く握り返した。

「た、楽しくやっていくんだな!」

握手をする二人の手をヨリメルの大きな手が包み込んだ。



一段落したところで、カイトが切り出した。

「で、事情ってのを片付けねーとダメなんだろ?」

「あぁ、まぁもう隠すこともねーか。傭兵を辞めてコッチに転がりこんできたときに、俺らを拾ってくれた同族がいてよ」

「それが野盗で借りがあるってところか?」

「あぁ、そうだ。黙って抜けるわけにはいかねねぇからよ、挨拶くらいしてこねぇとな」

「律儀なこったが、辞めます→はいお疲れ様~みたいにすんなりいくのかよ?」

カイトが住む世界で野盗なんて聞いたこともないため実態はよく分からないが、抜けるという危険性はバイトを辞めるより遥かに難易度が高いことは容易に想像できた。


「まぁ、すんなり認めてもらえるとは思ってねぇが、何とかなるだろよ。」

「な、何とかするんだな!し、心配いらないんだな!」

そういう言い方はカイトは避けて欲しいところであった。

「そーゆー言い方は死亡フラグ立つから止めとけ!」

「おい、カイトの兄さん、不吉なこと言わんでくれよ!抜けるからって殺すようなイカれた集団じゃねぇよ!」

シャルクレは否定するが、カイトは嫌な予感がしてならない。お決まりパターンにしか思えないのだ。

「だ、大丈夫なんだな、オイラとアニキに勝てる人はあそこにいないんだな」

「いや、しかしだな......」

ヨリメルにまで気を使わせてしまったが、それでも不安は拭えない。

「そんなに心配なんすか?二人とも強いじゃないすか?大丈夫って言ってますし」

「だから、そーゆーのがダメなんだって!振りだよソレ!フラグ立てたよ今!ぜーっ対、急展開待ってるよ!!」

「お、落ち着いて下さいよ!」


意味の分からないことで騒ぐカイトを何とか落ち着かせ、タマルとシャルクレは合流について話し合った。

「じゃあ、問題を片付けたら俺が拠点にしてるシロサ村で合流ってことで良いっすね?」

「あぁ、了解だ。もしすれ違ってたとしても、そのまま待機して合流する、で良いんだなご主人様よ」

「はい、村で世話になってる宿屋『止まり木』や門番にはシャルクレさん達のことを伝えておきますので」

「あぁ、分かった。なるべく早く合流できるようにするからよ!」

「はい、お願いしますっす!」


カイトの心配をよそに、話はトントン拍子に進み、一旦の別れの時がきた。

「なんでキミ達は人の言うことを信じないのかな?さっき信じてるって言ってなかった?」

しかしカイトは地面に「の」の字を書いていじけていた。

「カイさん、まだブツクサ言ってるんすか!?もうその話題終わってるっすよ」

半ば呆れてタマルが注意するが、カイトのブツクサモードは解除されない。

「ははっ!存外、カイトの兄さんは心配性なんだってのが分かったな!」

「い、意外、なんだな」

そう指摘されてカイトはハッっとした。

「べ、別に心配っつーほどのもんじゃねーよ、気になっただけだ」

「ふっ、そーかよ。それでもありがてぇぜ。

そんじゃぁ、ちいと過去にケリつけてくっからよ、俺らは行くぜ」

「し、しばしの別れ、なんだな」

シャルクレの吹っ切れた表情を見ると、これ以上引き留めることが躊躇われだ。

「......わーかったよ、スッキリしてこいや」

「カイさんじゃないすけど、気を付けて下さいね!」

「あぁ、またな」

シャルクレはそう言って歩きかけ、すぐに止まった。

「......兄さんよ、改めて礼を言うぜ。どん底の俺たちはアンタに救われたよ」

「そーゆーのフラグだっつってんだろ!......ま、礼を言うのは合流した後で酒でも奢りながらにして欲しいもんだな。モチロン、ネーチャン付きの店だぜ?」

「ふん、アンタって人はホントによぅ、どこまでが本気なんだか分かりゃあしねぇな。」

「......絶対に奢れよ」

内容的にはタカリではあったが、その真意はシャルクレにもヨリメルにも、タマルにも伝わっていた。

奢るためにも無事で戻れ、と。

「あぁ、カイトの兄さん、約束したぜ。俺は約束は守るタチだからよ!またな!」

「アニキはや、約束は絶対守る男なんだな!」

ニカッと笑うシャルクレとサムズアップするヨリメルは、明るく去っていった。


自分たちの新たな未来のために。

落ちこぼれから這い上がるために。

また、友に会うために。



しかし、彼ら4名が再会を果たすのは、暫く先のことになるのであった。



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