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魔女の出会い

魔女の出会い


街を我が物顔で歩く少女。

正確に言えば少女ではないが、見た目は10歳くらいの少女にしか見えない。

その偽少女は、銀色の髪に王国ではまず見ることのない珍しい着物・袴姿であり、普通なら目立ってしまうものだが、今はその少女に気を取られる者はいない。

何故なら、その少女は完全に己の気配を消し、他人の認識の外にいるためだ。


その少女、小春が求めるものはただ一つ。

もふもふである。

五千年の悠久の時を経ても忘れなかったもの。

魔神の匂いと、もふもふ。

前者については保留としているが、後者については手の届くものである。

新たに仲間入りしたもふもふはいるが、性格が破綻している(小春目線)のため、愛くるしいもふもふには該当しないのだ(小春考察)。

そのため、自身が満足できるもふもふを求め、気配を消して街を闊歩していたのだが、



「はて、ここはどこじゃろか?」



何を隠そう、小春は迷子になっていた。



第四層までは迷うことなくたどり着くことができたのだが、そもそも小春にとって人の街を歩くことが初体験である。

行き交う人の多さに圧倒され、商店街の賑やかさに足を止め、歩くだけでも町には小春の知的好奇心を刺激するもので溢れていた。

ふと、腕を組んで歩くエルフのカップルが目に止まる。

何やら幸せそうにイチャつきながら歩いているその姿を小春はジロリと見送る。



「ふん・・・いかがわしい・・・」



実はアーノック家を出るにあたり、小春はある男に声を掛けていた。

無論、一緒に来て欲しいなんて殊勝なことを言えるわけのない小春は、遠回しに、それはそれは遠回しに誘ってみたのだが、



「あぁん?俺ぁ二日酔いで頭痛が痛ぇ、もとい、カルムタのダメージが抜けてねーんだよ。まだまだ食っちゃ寝・・・もとい、安静にしてなきゃならねーんだよ。お前ガキじゃねぇんだから街くらい一人で行けるだろよ、ったく。

それともあれか、やっぱあたし子供だから着いてきてくれないと迷子になっちゃ・・・ぶげらっ!!」



怠惰なその男は誘いに乗ることはなかった。

無下に断って寝転がる男に小春日和を食らわせ、一人ぷりぷりしながら街へ出てきたのだが・・・

もふもふを求める当初の目的すら忘れ、今やただただ街の喧騒に惹かれて街をふらついていたのであった。



主たる目的を失ったまま歩いていると、前方が騒がしいことに気付いた。



「ん?何じゃ?」


「どけどけー!」



視線を騒ぎの元へ送ると同時に、人混みのなかを掻き分けて少年が小春目掛けて駆け込んできた。



「うわっ!」


「あ・・・!」



少年の勢いにびっくりしたモブ一人が後ずさりすると、見えない小春にぶつかってしまい、そのせいで小春は尻餅をついてしまう。

しかし、気配を消したままの小春は誰にも心配されることはなかった。



「あたたじゃ・・・」


「おい、大丈夫かよ?」



頭上から聞こえる声に顔を上げると、駆け込んできた少年が小春に手を差し出している。

近くで見ると耳が尖っているため、少年はエルフ族なのかもしれない。

歳は10歳を越えたばかり、といったところか。


「む?わしか?」


「そうだよ、他に誰も転んでないだろ?」


「わしが見えるのか?」


「あぁ、隠身外法?まぁまぁだけど、見えないってほどじゃあねーよ?ほら!オイラ急いでるんだから!ん!」



少年が更に手を差し出す。



「まぁまぁじゃと・・・?このわしの魔法を・・・」


「もう、早くしろって!ほら!」



少年がガシッと小春の手を掴んで立たせる。



「よしっと!隠身外法は普通の奴からは見えないんだから気を付けろよ!」



小春を立たせた少年は、シュタッと踵を返して走り去って行った。



「あっ!あそこだ!泥棒野郎!待ちやがれー!」



エプロンを着けた中年が少年を見つけると、追いかけてくる。

どうやら少年は追われているようだった。



「おわっ!」



追い掛けてくる中年に何気なく足を掛けると、見事に中年は足に引っ掛かってもんどりうった。



「あたたたた・・・な、何だ!?何かに引っ掛かったような・・・」


足に何かがぶつかった感触があり、中年はキョロキョロするが、勿論小春の姿は見えない。

先を見ると少年が立ち止まって、あっかんべーしていた。



「あのクソガキ!」



そして、小春にサムズアップすると少年は全力疾走で逃げて行ったのだった。



(ふむ・・・あ奴はこそ泥じゃったんか。助けるんではなかったのぅ)



犯罪者に手を貸してしまったことに若干後悔しつつも、

騒ぎ立つ場所を後にしばらく歩いていると、



「よぉ!さっきは助かったぜ、あんがとよ!」



先ほどの少年が果物を噛っていた。



「・・・貴様、盗人じゃったのか?」


「ん?お前もだろ?」


「はぁ?何でわしが盗みなど!?」


「隠身外法使うなんて、盗賊(シーフ)くらいなもんだろ?オイラと同じくらいの歳っぽいのに結構強い隠身外法使えるんだな。オイラも覚えたいんだけどよ、なかなか難しいんだよなぁ。その代わり検索スキルは結構なもんなんだけどよ!」



鼻の下を人差し指でこすりながら少年は自慢気に話すが、小春は聞き覚えのない単語に頭を捻った。


「す、すきるとな?」


「おいおい、スキル知らねーのかよ?先天性特殊技能、簡単に言ってスキル。要は生まれながらにして持ってる才能みてーなもんだな!へへ!

お前が気配消せるのはスキルじゃねーなら、外法なんだろ?」


「い、いやわしのは外法なんぞではなくてだな・・・」


「あ、オイラはワンダってんだ。お前は?」


「わ、わしは小春じゃ」


「小春?珍しい名前だな!よし小春、助けてもらった礼にオイラん家に招待するぜ!」


「い、いや、わしは・・・」


「遠慮すんなって!オイラん家はちっと汚いけど、父ちゃんも礼はちゃんとするもんだって言ってたしな!」


「だから、わしは・・・あ、こら!」



ワンダは戸惑う小春の手を引いて走り出してしまった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ここだぜ!」



手を引かれて走ること30分。朽ちた大聖堂に佇むあばら小屋にたどり着いた。

ダウンタウンと呼べるようなボロ小屋が軒を連ねる街の更に奥に立つ大聖堂は、今やその本来の目的を失い、日雇い労働者が住み着く場所になってしまい、今や『レスホープタウン』と呼ばれているということは、ワンダの説明である。

日雇い労働者は低い賃金で雇える反面、犯罪者の絶好の隠れ蓑として利用されているのだが、貴重な労働力を損ないたくない王都は目を瞑っている状態なのだという。



「ま、そのうちの一人がオイラってなわけなんだがな!

さてと・・・オイラに力貸してくれよ!解錠!」



ワンダが小屋の扉に向けて外法を放つと、三つの法陣が浮かび上がり、ワンダの手の動きに合わせて重なり合った。



「自分の家に施錠外法をかけとるのか?」


「あぁ。ここはタチの悪い奴らが集まり住んでる所だからな。普通の鍵なんてすぐに開けられちまうんだ。さ、入れよ!」


「う、うむ・・・」



促されるまま恐る恐るあばら小屋に足を踏み入れるが、想像していたような悪臭は漂ってこないことに小春は安心した。

物は散らかっているようだが、足の踏み場がないほどでもない。



「散らかってて悪いな。これでも今日はマシな方なんだぜ?昨日闇市で結構売れたからな」


「闇市?」


「闇市も知らねーのか?あれか?スキルも知らねーしさ、小春は物知らずな貴族なのか?」


「違うぞな」


「ふーん、そっか。珍しいもん着てるしさ、てっきり貴族か金持ちなのかと思ったけど・・・あ、悪い悪い、助けてもらったのに詮索しちゃ悪いよな!」


「お、ワンダ帰ったか」


「何だよ父ちゃん、いたのかよ?ほい、さっきの収穫!」



ワンダが果物を投げ渡した相手は、ひげ面の痩せこけたエルフの中年親父だった。

薄汚いランニングシャツの中身をボリボリ掻きながら登場するその姿から漂う典型的なダメ親父感が半端ない。



「お!今日は果物か、良くやったな!でもたまには、父ちゃん肉が食いたいな~・・・って、おい何だその女の子は?」


「肉は難易度高いんだよ!たまには自分でやってくれよな・・・。

こいつは小春ってんだ。さっき追っかけられてたところ助けてくれたんだ。だからお礼に招待したってわけ。父ちゃん、小春はすげーんだぜ!俺でも霞むくらいの隠身外法が使えるんだ!!」


「隠身を・・・ほぅ?」



ワンダの父親が、ジロリと小春を見詰める。

が、すぐにその目が柔らかいものとなった。



「息子が世話になりましたな・・・いやはや、ありがとう」


「ふむ、どうということでもないわい」


「俺はこいつの親でスタールという。その若さで隠身とは、なかなかのもんだね。」


「ふん、気配を消すなんぞ、五人くらいならちょちょいのちょいじゃわい!」



褒められて悪い気がしない小春は胸を張り、思わず自分の能力を漏らしてしまった。



「な、何!?複数外法ができるのかい!?小春ちゃんは上級なシーフなのかい!?」


「わしは盗人ではないぞな!」


「とすると、あれか、アサシン?」


「殺し屋風情と一緒にするでない!」


「え?違うのかい?ワンダが辛うじて見えるくらいの強い隠身使うし複数外法できるなんて、かなりすごいシーフかアサシンだと思ったんだけどなぁ?

外法使いにしちゃ、マニアックな種類だし・・・」


「まぁまぁ父ちゃん、小春はお客さんなんだからさ、あんまり詮索すんなよ」


「いや・・・これは戦女神のお導きだぞワンダ!」


「え?どういうことだよ父ちゃん?」


「今日こそ、あれを実行するんだ!」


「あれって・・・あれって、まさか!?」


「あぁ、今日こそ・・・肉をかっぱらうんだ!」



拳を握るスタールをよそに、ズルッとワンダがズッコケた。



「ち、違うだろ父ちゃん!?」


「何だ?ワンダは、肉食いたくないのか?」


「そりゃ食いたいけど・・・でも今の流れは肉なんかじゃなくて、もっと別の大事なことだったろ!?」


「ふむ・・・あ!」



ポンと手をつくスタール。



「そうだそうだ!!小春ちゃんがいればデカいステーキを狙えるぞ!」


「肉を頭から離してよ父ちゃん!!第二層に忍びこむんだろ!!」


「はっはっは!冗談だ息子よ、父ちゃんジョークだよ!分かってる。あぁそうだ。小春ちゃんがいれば、うまくいくぞ!」



ゴクリと喉を鳴らす親子が小春を見詰め、緊張が走る。

小春には何のこっちゃかさっぱりであったが、嫌な予感がしてきた。これは間違いなく、面倒に巻き込まれそうだった。

ボケと突っ込みが織り成す会話に既視感を感じていたのだが、既視感はもはや危機感と化している。



「それでは、わしはお邪魔なようで・・・」


「小春さん!!」



立ち去ろうとする小春の眼前に、ダダン!と土下座をするスタール。



「ぅわわぁ!な、何じゃ!?」


「小春さん!!どうか俺らに力を貸してくれ!いや、貸して下さい!」


「え?あ、いや・・・」


「小春!頼むよ!手伝ってくれ!!」



スタールに倣って土下座をするワンダ。

その眼差しは真剣そのものであり、ケチな盗みの手伝いを頼んでいるようには思えず、小春は話だけでも聞いてみることにした。



「むむ・・・。わしは盗みの手伝いなんぞせぬぞ?」


「そんなことじゃないよ!な、父ちゃん!」


「そうだとも。小春さん、手伝って欲しいこととは・・・とある女の子を救い出すことなんだ!」


「は?」


「ある場所に捕らわれている女の子を連れ出すんだよ!」


「・・・帰る」


「待て待て待て待ってー!」


「小春、せめて事情を聞いてくれ!」



足止めをする親子に小春は冷たい視線を飛ばす。


「連れ出すではなく、誘拐するつもりじゃろ?誘拐なんぞ外道の所業じゃ!わしは外道は好かん」



ふん!と鼻息荒く出て行こうとする小春の肩をワンダが必死に押さえる。



「話くらい聞いてくれって!俺も父ちゃんも、身代金目的なんかじゃないんだぞ!!」


「ほぅ?金ではないとな?じゃあ売り飛ばすのか?それとも自分らの奴隷にでもするつもりかの?」


「ちっがーうって!!俺たちがそんな大層なことできるタマに見えるかよ?!」


「見えん」


「即答!?」



グハッとワンダが心的ダメージを食らった。



「どこからどう見ても、ケチなこそ泥親子じゃな」


「そして毒舌!!」



グハッとスタールも心的ダメージを食らう。



「こそ泥はこそ泥らしく、がらくたかっぱらって小銭でも稼いでおれ」


「「しかも猛毒!」」



ドグハァッ!!と、更に親子揃って会心の心的ダメージを食らい、親子は仲良く床に突っ伏した。



「わしも偉そうなことを言える立派なもんではないがの・・・それでも卑怯と外道は好かん。改めるが良いぞ」



突っ伏している親子に向かって言い捨てるように告げる。しかし、その言葉を受け、スタールが小春を見上げた。



「小春さん、俺たち親子は確かにケチなこそ泥だ。

俺がワンダに教えてやれることなんて、こそ泥くらいなもんなんだ。俺はこいつにこの世界で生き残る術を教えてきたんだが・・・まぁ、確かに褒められたもんじゃないけどね・・・ははっ」



自分自身に呆れているかのように、スタールは情けなく笑う。しかし、その表情が引き締まる。



「だがね、そんなこそ泥でも、決して盗まない、盗んじゃいけないものだってあるんだよ」


「・・・何じゃそれは?」


「心だよ」


「こ、心とな?」


「心がこもった物は盗まないんだ」


「どういうことじゃ?」


「大切な人の形見や思い出の品とか、持ち主の心がこめられた物ってことだよ、小春」


「それと、貧しい者からも盗まない。俺たちには俺たちの流儀みたいなものがあるんだ」


「・・・貴様らの盗人流儀は分かったがの。

そんな義賊気取りが誘拐のぅ」


「俺が言いたかったことは、そんな流儀を抱く俺たちがただの誘拐なんて絶対しないってことさ。

俺たちが盗みたいのは・・・俺の7歳になる娘なんだ」


「娘?」


「あぁ・・・」


「・・・良かろう、話すが良い」



誘拐対象が娘と聞いて、さすがの小春も興味を引かれずにはいられず、話を促した。



「俺の娘・・・シャーリーンは貴族の娘、シャロンとの間にできた子供だったんだ。7年前に家から勘当されたシャロンが街でさまよってたところを俺がナンパ・・・声を掛けたことで知り合ってね。

行く先がないシャロンをこの家に住ませているうちにシャーリーンができてさ。仲良く四人で暮らしてたんだが・・・」


「む?ワンダの母親は?」


「オイラの母ちゃんは、オイラが赤ん坊の頃死んじまってるんだ」


「そ、そうか。済まぬ」


「いいって!シャロン母ちゃんは連れ子のオイラにも優しくしてくれてたんだ。オイラはシャロン母ちゃんのことも本当の母ちゃんだと思ってるぜ!」


「ところがね・・・シャロンがレスホープタウンで子供と暮らしているということが、シャロンの父親にバレて、三ヶ月前にシャーリーンと共に連れて行かれちまったんだ・・・」



俯くスタールの拳がギュッと握られていた。



「何となく話が見えてきたが・・・そのシャーリーンを連れ戻したいってことなんじゃろうが、母親は連れ戻さんで良いのかの?」


「シャロンは・・・連れ去られて間もなく病で死んじまったんだ」


「!?」


「俺たちは見送ることすら許されなくてね・・・こっそり墓参りすることが精一杯だったんだ」


「・・・ふむ、そうであったか・・・」



愛しい者との別れの辛さは小春にも共感できるものであった。小春も最愛の者と告げることなく別れ、五千年という長い時間が経っている。



「それで?連れて行かれて時間が過ぎておるようじゃが、何故今なんじゃ?」


「俺はスリと鍵開けが専門でね、ワンダは検索が得意なんだが、隠身はどちらも使えないんだ。さすがに隠身なしで層壁門を突破するのは至難の技なんだよ。今までも色々試してきたけど、やはりそう甘いもんじゃなくてね、ははっ」


「そこで、小春の出番ってわけだよ!」


「わしの力でその貴族の家まで忍びこもうということじゃの?」


「そういうこと!なぁ、頼むよ小春!」


「小春さん、力を貸してもらえないだろうか?」


「・・・・・・良かろう」


「ほ、本当か!?」


「小春さん!?」



小春の返事を聞いてスタールとワンダの顔が明るくなる。



「ただし、失敗してお主らが捕まろうがわしは助けぬ。良いな?」


「あぁ、構わないさ!」


「ありがとよ、小春!」



こうして、小春とこそ泥親子の娘奪還作戦が始まったのであった。


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