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商人の出会い

商人の出会い



俺が現在お世話になっている場所は、アーノック邸っす。

ただの駆け出し商人に過ぎない俺が、まさか王都第二層に入り、あまつさえ王族の屋敷でイビキをかくなんてことは夢にも思ってなかったすよ。


どこで俺の人生が変わってしまったんすかね?

実家を飛び出したときすか?

商人を目指したが為に強盗に襲われ、カイさんと出会い、サディスティックな御姉様に襲われて、王子と出会い・・・

魔女に襲われて、神狼族に襲われ、またもや御姉様に襲われ、外守騎士に襲われて・・・

あれ?

襲われてばっかなような・・・

元々いじられ体質ではあったけど、襲われ体質ではなかったはず・・・

そもそも商人目指した人が皆そんなメに遭っていたら、この世に商人は存在しないっすよね。

俺が特異体質なんすかね。不幸な星の下で生まれた哀れな存在とか。

・・・やめよう、何だか後ろ向きな考えしか浮かんでこないっすわ。



俺が教授にカイさんとの旅の話をなんとか話し終えたところまではうっすらと記憶があるんすけど、そこでプツンと記憶は途絶えたっす。

フランツさんの話によると、話し終えた俺は失神したかのように眠りこけ、夕方まで目を覚まさなかったらしいんす。それは俺だけではなく、カイさんも小春ちゃんも、そしてカブレラちゃんもずっと眠りこけていたみたいだったす。

いやぁ、気持ち良く寝落ちしたっすね~!

目を覚ました俺たちは、まずは風呂に入り、そして豪勢な食事を堪能したんす。

さすがは王族といったところで、俺でも食べたことのない高級な品々ばかりだったっすなぁ。

カイさんの食いっぷりがまぁ凄くて、メイドさんたちの目が点になってたっすね。俺も負けじと凄い量を掻き込んだけど、ちょっとはしたなかったすかね?

まぁ、それほど俺たちは疲労困憊だったわけなんすよ。

ただ、俺は決してカイさんのように、マナーがなってないわけじゃなかったと声を大にして言いたいところっす!



食事を終えるた後、フランツさんからこんなことを言われたっす。



「さて、キミたちのこれからについて話すとしよう。

まずは、その疲れた身体を癒してくれたまえ。

それから、昨晩会ったクドゥルス教授の元へ行き、彼の調査に協力してもらいたい。協力といっても、彼の質問に答えるだけだから、解剖はされることはないよ、安心してくれ。

教授の元へはなるだけ早く訪ねてもらいたい。

とりあえず、今はそれだけだ。

出歩くことは勿論自由にしてもらって構わない。金銭が必要な場合は、僕かメイドに申し付けるか、ツケにしてもらっても良い。ツケにするためには、我が家の証文が必要になるから、ツケの際にも事前に伝えてくれ。

ひとまずはそんなところだが、何か質問はあるかい?」


「はいはーい!!」



いの一番に手を挙げたカイさんの質問は、俺が聞いても実に下らない内容だった。

いくらまでツケて良いのか、とか、女の子がいる店でもツケが効くのか、とか・・・

怒ったフランツさんが、カイさんだけはツケ禁止にしたのは仕方ないと俺も思った。



「んだよ、金持ちのクセにケチくせー野郎だぜ」


「わしから質疑じゃ!」



次に手を挙げた小春ちゃんは、小動物の売場を聞いていたけど、



「ペットかよ!?カブレラいんだろ!」


「あんなの、ちぃとも可愛いくないんじゃ!わしは可愛いもふもふを欲っしとるのじゃ!!」


「ペット飼う前に、認知症診てもらえ」


「何じゃとぉー!」


「・・・やれやれ・・・。」


って感じで大喧嘩してたっす。フランツさん、相手にしてなかったすけど。

俺っすか?俺は巻き込まれないように避難したっすよ。諌めるの面倒なんで。




そんなこんなで翌日、俺はさっそく教授の元へ行くことにしたんす。

カイさんや小春ちゃんを誘ってみたんすけど、即答で断られたっす。二人とも「まだ身体を休めたい」なんて殊勝なことを言っていたけど、絶対に羽伸ばしたいだけだと俺は思うっすね。

朝食を済ませて出掛ける準備をしていると、メイドさんが金貨2枚を軍資金として渡してくれたんすけど、

「カイト様には内緒にするよううに、ご当主様より言伝てを預かっております。」

ということであったっす。

確かにカイさんに知られたら、きっとくだらないことですぐに散財しちゃうんだろうな。

フランツさん、さすがっす!


クドゥルス教授の研究所は、第四層、つまり庶民層にあるらしいんす。

てっきり、第三層の王都大学の中にあるのかと思ってたんすけど、教授は元々庶民の出らしく、実家の自室を「研究所」とよんでいるらしいっす。

その実家は、「マッコイ書店」という、古書を専門に扱っている店ということなんすけど、俺は聞いたことはない店だったっすね。古書なんて今まで興味もなかったことだし、仕方ないっす。


マッコイ書店は、通称ユートピア通りという、比較的相場が安価な商店街の中にあったす。

他の店と何ら代わり映えのない店構え・・・というより、少し古ボケた印象の店っすね~。

でもそれでいて、不潔感はないから不思議っす。


「あらぁ、何かお目当ての古書はあるのかい?」



いざ店に入ろうとしたその時、背後から声を掛けられたっす。

声の主は、エプロンを着け、柔和な笑顔をした太った中年の女性だったす。お店の人、というよりここはクドゥルス教授の実家なんだから、クドゥルス教授のお母さんすかね?



「それとも買い取りかしら?」


「い、いえ、あのお客さんではなくってっすね。ここに住んでいるクドゥルス教授に用があるんす。」


「え?ク、クドゥルスに・・・?」


「は、はい・・・?」



用件を伝えると、女性の柔和な笑顔が消え、驚いた様子になったっす。



「あ、あのぅ、何かまずいことでも・・・?」


「ちょっと、父ちゃん!クドゥルスに30年振りのお客様だよ!!」


「何言ってんだ、クドゥルスに客なんて来るはずないだろ?あれじゃないのか?また変な古書掴まされて借金作って、借金取りが来たんじゃ?」



そう言いながら店から出てきた中年の男性は、頭皮をキレイにツルッとさせた以外はクドゥルス教授とほぼ同一人物だったっす。本人じゃないすよね?



「えぇと、返済金はいくらでしょう?ただ、再来月まで待ってもらえると非常にありがたいんですが?」


「あ、あのぅ、俺はタマルという商人なんすけど、教授の研究の協力で来たんす。」


「クドゥルスの研究の?・・・本当に?」


「本当っすよ!」


「・・・母ちゃん、偉いっこっちゃ、本当にクドゥルスのお客さんだぞ!?」


「だから、さっきそう言ったでしょ?ほら、えぇと、タマル君だっけ?まずは中入ってお茶でも飲んで!それでおばちゃんとちょっとお話ししましょう!」


「え!?あ、あの、俺教授に・・・」


「いいからいいから、クドゥルスにお友だちがいたなんて、聞いてなかったわぁ!それで?どちらの出身?あ、商人って言ってたっけ?何の商いをしてるの?お茶よりジュースが良いかい?クドゥルスとはどこで知り合ったの?

父ちゃん、一番良いジュース出して!!」


「あいよ~!」


「それでそれで?・・・」




こうして、俺の長い1日が始まったんす。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「つ、疲れた・・・。」



日はとっくに沈み、外は真っ暗・・・。

クドゥルスママの容赦ないお喋りは昼を過ぎても終わることなく続けられ、2階から下りてきたクドゥルス教授の遅い昼食の催促によって、ようやく宴もたけなわとなったんすけど・・・。

クドゥルスママは言わずもがな相当なお喋り好きだったっす。その温和な性格のせいか、長時間に関わらず決して苦しいものではなかったんすけど・・・。

そして、簡単な昼食を頂いてからのクドゥルス教授の質疑。

長い・細かい・くどい の三拍子。

いやぁ、ホーンっと参ったっす!

質問の答えに更なる質問、そしてその答えに更なる質問。

答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え質問答え次の質問答え質問答え質問答え質問答え前の答えの質問・・・

よくもまぁ頭がおかしくならなかったもんすよ・・・


特に細かく聞かれたことは、


   カイさんの封印・開封のこと


だったっす。

というより、ほとんどそのことだったとも言えるっすね。

知っていることは全て伝えたつもりだったんすけど、それでも教授にとっては足らないのか、まだまだ満足の域には達してはいないようで・・・。

まだまだ続きそうだったんすけど、クドゥルスママの介入によってようやく中断されることとなったんす。

た、助かった・・・。

でも、クドゥルスママから


「どうせなら泊まったら良いんじゃないのかい?うんうん、そうしたら?いや、そうしなさいな!」


なんて提案をされ、慌てて且つ丁寧に断って外に脱出、もとい、おいとまさせて頂き、そこでようやく夜更けになっていたことに気が付いたっす。

伸びをすると、身体がゴキゴキと歪な音が・・・身体がメチャメチャ凝ってたみたいっすね。

しかし、クドゥルス教授は質問し、書き記し、あるいは書物を見る、それだけでこちらの質問には

「それはまだ検証中だね。」

というばかりで答えてくれなかったっす。

いずれ、検証に見解が見込めれば教えてくれる、ということだったんすけど・・・



しかし、改めて教授にカイさんの境遇を話していたら、ふと思ったんす。

カイさんは、もともとこの世界の住人ではなく、異世界から魔神として転生してきた。

俺と出会ったときはまだ転生してきて間もない頃。

つまり、転生してきてからカイさんは俺とほぼずっと一緒。

流れで俺たちと一緒に旅をしてここまで来ているけど、カイさんは元の世界に戻ろうとしないんすよね。

その方法を探そうともしない。

諦めているというわけでもなく、絶望しているわけでもない。

この世界に馴染み過ぎて違和感がなかったせいで、あまり考えたことなかったけど、戻りたくないのだろうか。

カイさんは・・・



そんなことを考えながら第四層の町を歩いていると、喧騒が聞こえてきたっす。

灯りがある町並みとはいえど、第二層のように町の隅々まで街灯が行き届いているとは言い難い第四層の町にはトラブルの絶好の場所ともいえるポイントが数多くあって、そこを避けて俺は歩いてたんす。

今歩いている場所もそんななかの一つなんすけど、喧騒はさらに奥まった路地裏から聞こえてきたっす。



「うわ~、トラブルはごめんすよ・・・。」



騒ぎが聞こえる場所は見ずに通り過ぎようとしたんすけど、聞こえてくる声に足が止まってしまう。



「えーい、そうっすよ!俺がトラブルメーカーなんっすよカイさん、すんませんね!!」



その場にいたら絶対嫌味を言うであろう人物に怒り半分どーにでもなれ心半分をぶつけ、俺は声がする路地裏に足を向けたっす。



「・・・いい加減にせい、居ぬれ」



路地裏の奥から、女の子の声が聞こえてきたっす。



「これは、まずいっすね・・・」



女の子の危険を察知し、俺は急いで且つばれないように物陰に身を潜めながら状況を確認することにした。

するとそこには防具をまとった八人の男の獣人族が、女の子獣人族に詰め寄っている場面だったっす。



「もはや、付き合いきれぬ」


「そうはいかねぇよ。俺ら『疾走の牙』に入るって約束するまではよ!」


「治癒士がパーティーに入れば怖いもんなしってもんだぜ!」


「ポーション代も浮いて、まる儲けだぜ!」


「ひゃっはぁー!!」



女の子を囲んで凄んでいるその獣人族は、お世辞にも頭は良くなさそうっす。特に最後の人。



「こ、これは・・・俺はどうしたら・・・。」



状況は何となく把握できたものの、その状況をどうしたら良いものか。

勿論助けに入ることがベストなのだろうが、その術は俺にはないんす。俺は忸怩たる思いで物陰から出れずにいた。

だって絶対関わり合いたくないっすもん、特に最後の人!



「私には既に仲間がいる。その申し出は却下ね。」


「そんなことは関係ねぇ!」


「そうだ、お前はこれからずっと俺らのために働くんだ!」


「ひゃっはぁー!!」



どうやら、男たちは治癒士の女の子を仲間に入れようとしているようだが、もはや交渉とは言えないものになっている。

女の子がやけに落ち着いているのが気になるところではあるが、対照的に男たちのテンションは上がる一方っだったっす。特に最後の人!



「それはすなわち奴隷ではないのか?」


「おうよ、俺らの奴隷にしてやるって言ってんだよぉ!」


「なんなら、性奴隷にしてやっても良いんだぜ?」


「ひゃっはぁー!!」



俺にはあいつらを倒せる力はないんす。

外法も使えない、ただの商人。

勝てない相手に自ら名乗り出るなんて、愚の骨頂っすよね。

少し前の俺ならこうして様子見すらしなかったと思う。

トラブルはないに越したことがないのだから当然の行動すよ。

このまま見なかったことにして帰ったところで、誰に咎められることもないし、俺も痛い思いはしないで済む。

────でも。

今の俺にはこのまま何事もなかったかのようにはできない。

無謀でも無茶でも、見過ごすことなんて出来ない。

痛い思いはしたくない。怖い思いもしたくはない。

それでも、あの人のように、



無茶でもお茶でも、やってみなきゃ分かんねーっす!




「そ、そこまででぃゆわ、お前たつ!」


「あん?今何て?」



物陰からの出頭、躓いたせいで壮大に台詞を噛んでしまい、今一伝わりきらなかった。

は、恥ずかしい・・・。

絶対、顔赤くなっちゃってるよ俺!



「何だ、このちんちくりんは?」


「おいおいおい、まさか正義の味方様のご登場かよ?」


「うわーこわーい、助けて下さーい!」


「改めます、悔い改めますからー!」


「ひゃっはぁー!!」



当たり前ではあるが、ナメられたす。

でも噛んだことはスルーしてもらえたことに少し安堵してしまう俺。



「お、おま、お前ら、その娘を離すっす!」


「こいつがお前の仲間か?」



敵意がこちらに向けられる。

チンピラ、多分傭兵であろう獣人族の男が八人。

くそぅ、今さらながら勝てる見込みも俺の未来も全く見えないっす。



「・・・あなたは?」



訝しむ目線が、女の子からも向けられる。

あれ?ヒーローを見る目ではないような?

ここはもう少し、『あぁ、私の騎士様♥️』的な展開では?

・・・えーい、迷うな俺!もう出ちゃったんだし!



「だ、大丈夫っすか?」


「私は問題ない。あなたこそ大丈夫?」


「え?」


「あなた、戦い慣れてるようには見えない。」


「うぐ!?」


「武器の携行なし、戦士の可能性は低いと認められる。精霊の気配なし、外法使いの可能性も低いと認められる。」


「うぐぐぐ!?」


「すなわち、戦闘力の見込めないあなたが、このような場面に介入する。その意図は?目的は?」


「い、意図なんて、そんな・・・も、目的って・・・」



戦闘力のなさをあっさりと看破され、さらに勘ぐる目線を受け、俺は情けないながらもタジタジになってしまった。

何故、俺は助けようとした相手にこんな責め立てられているんすかね?何故そんなに冷たい目線を?



「お、俺は助けようと・・・」


「助けなら不要。私一人で対処可能よ。」


「おいおい、俺達を置いてお喋りとは舐めてんのか!」


「おい、このちんちくりん弱ぇってよ!」


「この女、何とかなるみたいなこと言ってんぞ!?」


「ひゃっはぁー!!」



チンピラたちのテンションが一段と高くなるのを感じたっす。

この場合でのテンションとは、すなわち殺気だ。

俺はいつも漏れがちな「ひいぃ!」を辛うじて抑えることで精一杯だったっす。



「・・・あなた、下がって。」


「え?で、でも!あんた治癒士なんすよね?それでどうするっていうんすか!?」


「・・・何もできないあなたはちょっと黙ってて。気が散る。」


「う・・・」



女の子の冷たい言葉と目線に俺は動けなくなってしまったっす。

そんな俺を意に介さず、女の子はチンピラたちを一瞥する。



「あなたたち、治癒士がどうやって傷を癒すか理解してる?」


「あぁん?どうって、そりゃあ、傷に治癒外法かけんだろがよ?それで傷が元通りになるんだろ?」



突然匙を向けられたチンピラは、女の子の質問に答えたが、女の子は頭を振った。



「・・・治癒外法は傷付いた部位を元へ戻すものではない。傷付いた部位の治癒力を向上促進させるもの。

すなわち、本来の治癒力が失われた部位は治すことができない。死人は治せない。」


「そ、そういうものなのか・・・って、それがどうした!」


「そんな御高説は、俺らの傭兵団に入ってからにしろや!」


「話は最後まで聞きなさい。

治癒力を向上促進させる、私の外法・・・健康体に使えばどうなるか、理解できる?」


「あん?そりゃあ、そうだな、もっと良くなるんじゃねーのかよ?」


「はぁん?」


「ぐはっ!」



しどろもどろに答えたチンピラは絶対零度の嘲笑を受け大ダメージを受けたようだった。



「そんなことも分からずに、治癒士をパーティーに入れようなどと片腹痛いわね。

・・・あなたは理解できる?」


「お、俺っすか!?

・・・えーと・・・」


絶対零度の視線を向けられ、俺はしどろもどろながらも考えに考えたっす。


「膨らんだ風船に、更に空気を送り込むようなもんすかね・・・?」


「・・・へぇ、あなた、頭は悪くなかったのね。」


「何故に初期設定は悪いんすか!?」



感心したかのか、俺に向けられた視線が緩んだような気がしたっす。



「さて、あなたたちには、その身で分かってもらうわね。」


「あぁん?てめー、さっきから何を・・・」


「精霊よ、あなたの力を貸して。ヒール。」


バァン!


「うぎゃああぁあ!」



女の子を掴もうとしたチンピラの手が、ボコボコしたと思ったら、爆発した。

そう、爆発したんす、人の手が!!



「治癒力が時には破壊力にもなること、あなたたちは理解出来た?」


「手、ててて、俺の手ぇがぁ!!痛ぇえ!」


「て、てて、てめー!」


「ちくしょう、ブッ殺してやる!!」


「ひゃっはぁー!!」


「ひいぃ!?」


無表情の女の子に激昂するチンピラと腰を抜かす俺。

治癒士って名前だけは聞いたことあるけど、それを攻撃に使うなんて聞いたことがない。

レアで高尚な職業というイメージだったんすけど・・・



「・・・指先だけのつもりが、出力を間違えた? 次はもっと間違える?」



高尚ではなく酷薄な笑みがとても怖い!

こんな外法見せられれば、チンピラだって少しはたじろいで・・・



「詠唱する前に一気にかかれ!」


「やられる前にやっちまうぞ!」


「ひゃっはぁー!!」



・・・いなかった。



「ふん・・・数と力にしか頼れないカスどもめ・・・」



女の子は悪態をついてはいるけれど、さすがに多勢に無勢は否めないのか、緊張感が漂っている。

やっぱりピンチは去っていない。



「今だ!」


「ひゃっはぁー!!」



チンピラのなかでも、一番キレてる奴が女の子の後方から剣で切りかかろうとする。

俺にはそれが、はっきりと見えた。



「危ないっす!」



考えるより早く、俺は行動していた。

女の子を庇うように抱きついて攻撃をかわそうとするが、俺の背中は刃物を避けきることができなかった。



「がはぁ!」


「ひゃっはぁー!?」


「ちっ、邪魔しやがって!」



女の子を庇った俺に憎悪が向けられるが、痛さでそれどころではなかった。

斬られたのは初めてだったすけど・・・メチャメチャ痛ぇっす!



「うぐぐ・・・だ、大丈夫だったすか!」



抱きついて地面に押し倒したようなかたちになり、覆い被さる相手を心配したんすけど、



「何のまね?」



女の子は冷ややかな目付きを俺に向けていた。



「よ、余計なお世話だったかもっすけど、やっぱりほっとけないっす!」


「被虐性欲者、つまりドMのド変態ってことね?」


「あの、人の話と果敢な行動が分かってるっすか?」


「総合的かつ客観的考察よ。」


「例え俺がそんな趣味だったとしても、こんなただの暴力を受けても喜ばないっす!」


「真性ではなく、仮性ってことね。」


「何の話っすか!?」


「おいおいおい、てめーら、こんな状況でいつまでもイチャついてんじゃねーよ!」



女の子を組み敷いているような姿勢のまま話を続ける俺達二人は、周りから見ればイチャついているように受け止められたらしい。

いや、んなアホな!こんな状況でイチャつけるはずないっしょ!?



「どけよ、このガキ!」


「ぐはっ!」



チンピラの一人に横っ腹を蹴られるが、俺は堪えた。

俺が吹っ飛ばされてしまったら、こいつらは女の子を集中攻撃するだろう。それは防がなけばならない。



「ちっ、しぶてぇクソガキだぜ」


「とりえず、ガキ引っぺがすのにボコんぞ!」


「ひゃっはぁー!!」


「おらおらぁー!」



女の子に覆い被さる俺に、容赦ない蹴りが降り注ぐ。



「ぐっ・・・!」



痛くて気が遠くなりそうになるけど、



「あなた、何故?」



ここで負けるわけにはいかないっす。



「何故そこまで?」


「ぐうっ!べ、別に、理由・・・ぐふ!なんて・・がはぁ!」


「私はあたなにとって赤の他人。それに私は強い。助けは不要。なのに・・・」


「他人だろうが、強かろうが、男は女の子を守るもんなんんす。だから・・・ごは!」



一番ガタイの良いチンピラの蹴りを食らって、俺は遂に女の子から引き離されてしまった。



「ひゃっはぁー!!」


「ようやく離れたな、クソガキが!てめーはそこで大人しくしてろ!こっちの女片付けたら、てめーもゆっくり可愛がってやっからよ!!」


「ぐへへへ、さて、こっちの女はどうしてくれっかよ?」


「治癒士ってのは、まだ味わったことねーな!」


「よし、口押さえろ!喋れなけりゃ外法使えねーぞ!」


「!?」



起き上がろうとした女の子の口をチンピラが押さえる。確かにこれでは詠唱ができない。

このままでは、女の子があいつらにやられてしまう。



「あん?なんだ?がきは大人しく寝てろっつたろ?これ以上邪魔すると、おめーからブッ殺しちまうぞ?」



ふらつきながらも立ち上がる俺に、刃物をちらつかせながら殺意を向けてくる。

怖い・・・今さらながら、めちゃくちゃ怖いっす。

所詮は敵わない相手に歯向かった自分が、トラブルに首を突っ込んだ自分が悪いんす。

でも・・・



『諦めるんなら、最後まで足掻いてみやがれ!』



あの人の言葉が頭に浮かぶ。

そういえば、最近はこんなピンチばっかりだった。

オーク族の強盗。赤嵐御姉様。古の魔女、小春ちゃん。神狼族。外守騎士団。



「ふ、ふふっ・・・」



今までのことを思い出すと、不思議と現状がそんなに怖くなくなってきて、思わず笑ってしまった。



「な、なんだ!?このガキ笑ってやがんぞ。気味悪ぃな」


「おかしくなっちまったんだろ?とりあえず、放っとけ!」



そして、カイさんや小春ちゃんの顔を思い浮かべたら、何となく力が湧いてきた。



「どっせいーっす!!」



なので、俺に背を向けたチンピラの背中に蹴りを入れてやった。



「あだっ!て、てめー、クソガキ!」



だけども一発が精一杯で、俺は膝を着いてしまう。



「てめーからブッ殺してやんぞ、ガキが!!」


「へっ、やれるもんならやってみろっす!女の子に束で襲う卑怯者なんか、俺は怖くないっすよ!!」


「ほざいてろ、ガキが!死ねやぁ!」



蹴りを食らわせたチンピラが剣を振りかぶってくる。

啖呵切っったのは良いけど、もうだめか。

そう思った瞬間、チンピラの手に矢が突き刺さった。



「がぁ!何だ!?矢が!?」


「だ、誰だ!?」



振り返ると、見たことのない獣人族が弓をかざしている。

弓には新たに矢が装填され、矢尻はチンピラに向けられていた。

えっと、誰すかね・・・誰でもいーから助けてっす・・・


「おいこらドチンピラ、次は貴様の土手っ腹に穴空けるぞ?」


「誰だてめーは!?」


「この小娘の仲間か?弓使いが一匹で何を・・・」


「周りをよく見るんだな」



その言葉で周りを見ると、武装した厳つい獣人族がぞろぞろと俺達を囲んでたっす。



「こ、これは・・・?」


「お嬢ー!!ここにおったんですかい!?」



包囲するなかから、一際大きな熊獣人が女の子に駆け寄る。

その余りの勢いに、女の子を囲んでいたチンピラは後ずさりをしたくらいだったっす。



「お嬢ー!!心配したんですぜ!急にいなくなっちまうもんだから、団員総員で王都中探したんですぜ!!」


「私は子供ではない。単独行動くらい問題ない」


「いえいえ、『天照道団』七代目組長ともあろうお方が、お供もつけずに歩いてたんじゃぁ示しってもんがつきませんぜ!」


「あ、天照道団(あまてらすみちのだん)だと!?」


「中央大陸で一番デカい傭兵団の団長が、この小娘だと!?」



天照道団(あまてらすみちのだん)

俺でも名前を聞いたことがある、大陸最大の傭兵団す。

もともとは王国の方針に従えないアウトローたちが徒党を組んだのが始まりだったらしいんすけど、王国が現女王体制になってからは、友好な間柄になったらしいっす。

で、この女の子がその傭兵団のボス!?



「それで、このドチンピラどもに絡まれてたってことですかい?」


「大した事ではない。」


「どうしやす?坪浸けですかい?」


「ここは王都。目立つことは出てから。」


「了解しやした!」



何やら物騒っぽい内容に、俺はビビったっす。坪浸けって、内容はあまり知りたくない。



「よぉーし、こいつら連れてけ!」


「あ、あの、すんませんした!まさか、その小娘・・・いえ、お嬢さんが天照道団の方とは露知らず!」


「ひゃっはぁーっした!」



チンピラたちが一斉に土下座するが、その様子を見ていた熊獣人がデカい鉄板のような大剣をそいつらの頭上に寸止めする。



「間違えた、すんません。そんなんで済んだら、世の中騎士団も傭兵団もいらねーんだよ?」


「お嬢にちょっかい出した落とし前はつけてもらうぞ」


「坪浸けは久々だな、腕が鳴るぜ」


「か、勘弁してくれー!」


「ひゃっはぁー!」



屈強な獣人たちに、チンピラどもが引きずられていった。



「お嬢、お願いですから勝手にいなくなるのは・・・このちんちくりんは何ですかい?」



腰を抜かした俺に、熊獣人がギロリと鋭い目線を向けてくる。



「あのドチンピラどもの仲間ですかい?」


「い、いえ、お、俺はっすね、ただの通りすがりで・・・ひぃい!」



熊獣人が軽々と俺を片手で持ち上げる。



「ザック、止めなさい。ただのドMのド変態よ。」


「はぁ?」


「止めてくれるのはありがたいっすけど、その言い方酷くないっすか!?」



ドサッと地面に落とされる。

助けに入ったのに、この扱い・・・俺って、恵まれない星のもとに生まれた子に違いないす、絶対!



「ちょっと、じっとしてなさい。精霊よ、力を貸して・・・ヒール」


俺が自身の不運さを呪っていると、女の子が俺の傷に手をかざす。その手から、とても温かいものが流れこんでくるようで心地が良い。

いつの間にか傷の痛みは消えていたっす。これが治癒士の力なんすね。

とても、この力が人を傷つけるものには思えなかった。



「お、お嬢がプライベートで治癒を?」


「黙りなさい。」


「へ、へい、すいやせん!」



切られた背中も蹴られた傷も、もう痛まなかった。



「どう?痛みは引いた?」


「ぜ、全然痛くないっす・・・あ、ありがとうっす!」


「・・・べ、別に。」



お礼を言うと、女の子は俯いてしまった。

変態呼ばわりしている相手にお礼を言われて気持ち悪くなったのだろうか?



「お嬢、そろそろ行きましょうかい?」


「・・・分かった」



熊獣人やその他もろもろの厳つい獣人族と一緒に、女の子が立ち去るが、ふと、女の子の足が止まる。



「ミア・ライトニング」


「へ?」



急に振り返った女の子の台詞を聞き返すと、ギロリと睨まれたっす。



「ミア・ライトニング!」


「あ、な、名前っすね・・・ミ、ミア・ライトニングさんっすね、了解っす、覚えましたっす!心に刻んだっす

!生涯忘れないっす!!」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「あ、お、俺はタ、タマルっす。タマル・ゾディアックっす。」


「タマル・ゾディアック・・・」



俺の名前をボソリと口にするミア・ライトニングさん。



「あ、あの、ケガ治してくれて、ありがとうございましたっす。」


「タマル・ゾディアック・・・その顔と名前、記憶した・・・忘れない」


「へ?」



ボソリと呟く低いその声は、俺には怨念のような薄暗いようなものに聞こえ、背筋に悪寒が走る。

ミア・ライトニングさんはそのままスタスタと行ってしまうが、替わりに熊獣人が近付いてくる。



「おいボウズ、よく分からねーが、今日の礼は後日たっぷりしてやるぜ。それまでその首、大事にしてんだなぁ、ガッハッハ!」



熊獣人に肩をガシガシ叩かれ、ドスが効いた声で更に脅しをかけられてしまったっす。

人助けのつもりが、大陸最大の傭兵団に目を付けられてしまう結果に、俺はただただ自分の人生を恨むしかなかった。

あぁ、俺の人生って、こんなんばっかりっす・・・


このことはカイさんに相談した方が良いのだろうか?

それともフランツさんに?

次に遭遇したら俺はどうなってしまうのだろう・・・

アーノック家までの帰り道はとてつもなく長く感じられた。

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