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古書メガネ

古書メガネ



ー虚空を見詰めるあなたの瞳

ー何を思っているの?

ーよく笑っているあなたの顔

ー心から笑えているの?

ーいつもあなたの背中を見ているけれど

ー多くを語らないから

ーよく見ないと分からない

ーその悲しみも恐れも

ー震えているなら、私が抱き締めるのに

ー私がいたいのは、あなたの後ろじゃないの

ー私がいたいのは、あなたの隣

ーそこなら、あなたの顔が良く見れるでしょ?

ー私が欲しいのは、あなたの強さじゃないの

ー私が守りたいのは、あなたの全て

ー弱さも情けなさも全部含めてあなたなのだから

ーだから、ほら

ーこの手を掴んで




タマロンに跨がる小春が口ずさむ歌は、竜車を優しく切なく包み込んでいた。

歌が終わっても、竜車に乗る一行は、しばらく歌の余韻に浸っていたほどである。

それはタマロンも例外ではない。


「・・・キュウゥン」


「うん、そうっすね・・・古代語なんすかね?言葉の意味は分からないっすけど、切ないっぽい歌っすね・・・」


「ハッ!?な、何じゃ、起きとったのか!?」


「いやぁ、小春ちゃん歌上手っすね!俺めちゃくちゃ感動したっすよ!」



数分前、操者席のタマルは寝落ちし、大きなイビキが聞こえてきたことから、小春は油断してしまっていた。

油断と、そしてリズムを刻むようなタマロンの穏やかな足取りに、小春は思わず歌を口ずさんでしまっていたのだった。



「んで、何て曲なんすか?」


「や、喧しい!消せ!記憶から消すんじゃ!!」


「おわ!ちょっ、や、やめ!やめてー!!」



ヘラヘラ笑うタマルと対照的に真っ赤な顔をした小春が慌ててタマルの首を絞めにかかった。

勿論首を締めたところで記憶を消すことはできないのだが、テンパった小春にそのような判断がつくはずもなく、記憶の代わりにタマルの命が消えかかっていた。



「くぉら、ガキども!騒がしいぞ!こちとら寝てんだからよ、静かにしやがれ!!」


「あ・・・」



御車から顔を出して怒鳴るカイトに気付き、小春がタマルの首から手を離した。



「ぬ、主は聞いておった、のか・・・?」


「ぁあん?何をだよ?お前が大騒ぎしてタマル絞め殺そうとしてたことか?

・・・ったく、疲れてんだからよ、王都まで静かにしとけよ。お前も血が足りてねぇんだからよ、大人しくしてろ」


「・・・う、うむ」



カイトから注意を受けて、小春は毒気が抜けたように大人しくタマロンに跨がった。



「何だぁ?アイツ、珍しく素直だな・・・」



素直に言うことを聞いた小春を訝しく思いながら、カイトは御車に戻る。

御車の座席には、エステルとアルファルドに替わって白い狼が座していたが、我関せずといった態度である。

勿論、御車に入れる程度に身体のサイズを調整済みである。



「なぁ、カブレラもそう思わねーか?」


「・・・フン」



片目を開けるカブレラは鼻で返事をするのみで、すぐに目を閉じてしまった。



「なーにが、コミュニケーションは問題ない、だよ。既にコミュニケーション成り立ってねーじゃねーかよ、ったく。

これじゃペットに仕事の愚痴聞かせるOLじゃねーかよ。はい、OLの皆さんごめんなさーい。差別発言でしたーっと。

おら、ワンとか何とか言ってみやがれ」



魔鉱石の魔力による封印の開封が閉じてしまった今、カブレラは言葉を話すことができなくなってしまっていた。

それでも問題ないと言っていた割には会話の相手にすらなってくれないカブレラに嫌味を言ってみるが、それでもカイトの話し相手になってくれる素振りは全くない。



「ガン無視決めこみやがって・・・あぁそーですよ、俺ぁペットにも相手してもらえねー淋しいプー太郎ですよー。いーもんいーもん、淋しく独り言ブツブツ呟いてますよーだ。

クソ、俺がこんな思いになるのもあいつのせいだ!

あんなことがあったのに王都にとんぼ返りさせるたぁな・・・あんのキザ正義マンめ・・・」


「・・・・・・」


恨み節を一人呟きながらタバコに火を着けるその姿は、俗世間をあまり知らないカブレラですらダメ人間のように思え、やはり相手にはしたくないと寝たふりをするのであった。



「しかし、無駄に良い歌だったな・・・」



最後に呟いたカイトの言葉は小春の耳に届くことはなく、その後もしばらくの間、小春の顔の熱は冷めることがなかった。


ちなみに、操車席に座っている者は白目を剥いたまま、あちらの世界にイッたままであった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




何故一行が、カイトがぶつくさ文句を言いながら王都へ戻っているのか?

時間はカブレラの息子であるバレンティンと別れた後まで遡る。

洞窟からカルムタ町まで戻り、一息ついていたときであった。



「さすがにくたくただな・・・

よーし、ちょっくら宿屋か何かで休ませてもらうとっすっかよ!」

「では急いで王都へ戻ってもらおう。」



カイトとフランツの言葉が重なり、カイトとタマルが絶句する。



「はぁ?」「え!?」


「済まない。だが、急ぎ会ってもらいたい人物がいるんだ。」


「い、いやフランツさん、俺たち満身創痍なんすけど・・・。」


「そーだそーだ!せめてこの町でウルトラVIP待遇を二ヶ月くらいは受けても罰当たんねーだろ!だいたい・・・」


「本当に済まないと思っている。だが、先方を待たせているんだ。先方は王都でも権威のある方で、あまり待たせるわけにもいかないんだ。

さすがにペガサスに乗るのは大変だろうから、キミたちの竜車で僕の自宅まで戻ってくれ。」



カイトの言葉を遮って、フランツが言い切る。

済まないとは言っているものの、すぐに引き返すことの決定事項は固いことが感じられた。



「お兄様、それはあまりにも・・・。」


「仕方ないのだ、エステルよ。それに、その人物に会うことは、何よりカイト君たちのためでもあるんだ。だから・・・頼む、カイト君。」


「俺たちのためって言われても・・・って、おい」


頭を下げるフランツに、カイトはそれ以上文句が言えなくなってしまった。

そもそも、フランツとの約束がある以上、それを断ることはできないのだ。



「・・・はぁ、わーったよ、行きゃぁいーんだろ、行けばよ」


「助かるよ、カイト君」


「ちっ、仰々しく頭下げやがって・・・っざーとらしいっての」


「キミの優しさにつけこむような真似をして済まない。だが、決して損はさせないよ。」


「期待してねーよ」



カイトとフランツのやり取りを見守っていたその他の一同。



「こ、このまま王都に直行って・・・どんだけ苦行なんすか・・・」


「忙しい(せわしい)のは好かんのぅ」


「ふふ、お兄様とカイト様って、本当に仲良しですね!」


「お嬢様、さすがの慧眼ですな!」



そんなこんなで、一行は満身創痍のまま、竜車に揺られて王都に向かったのであった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「着いたな・・・だぁっり~・・・」


「そ、そうっすね、さすがに疲れたっすね・・・。」



アーノック家屋敷の前。

ボロボロのカイトとタマルがため息混じりに呟く。

正確な時間は分からないが、どっぷりと辺りが闇にのまれている。

じっとしていたとはいえ、竜車に乗っていては浅い眠りしか得ることしかできなかった二人は体力も気力も尽きかけていた。



「くそ・・・あのキザ男め・・・これからは鬼キザ正義マンと呼んでやる!」


「また僕の悪口かい?」



タイミングを見計らったかのように扉を開けるフランツがジロリと目を細めてカイトを見る。

一行の帰りを今か今かと待っていたフランツであったが、そんなことはおくびにも出さず優雅に迎えるつもりであったが、そんな矢先にカイトの悪態が耳に入り、優雅どころか眉間にシワを寄せて迎えることになってしまった。

しかし、迎える相手はそんなフランツの形相よりも険しい表情である。



「おーよ、こんなズタボロの俺らにムチ打つ卑劣漢に文句の一つや二つ言ったってバチは当たんねーよ」


「ご足労願ったことは詫びるが・・・卑劣漢とは、言葉が過ぎるんじゃないのかい?」


「あんだよ、文句あんのか?鬼!キザ鬼!ダイヤモンドヘッドキザ鬼正義マン!!」


「くっ!こ、この・・・煙草まで真っ黒男!」


「「ぐむむむむむ!」


「また低次元の争いが始まったわい。小僧、無益な時間を終わらせよ」


「フランツさん、相変わらず口喧嘩弱っ!

って、俺っすか!?何で俺が・・・。

まぁまぁまぁ、二人とも落ち着いて下さいっす!玄関先でケンカしないで下さいよ。

あ、そーだ、俺らに会わせたい人って中にいるんすよね、フランツさん?」



不服ながらもタマルが突っ込みを入れつつ、話を反らす。



「む・・・そうだったね。こんな不毛なことをしている場合ではないんだ。

客間に先方を待たせている。会ってくれたまえ。」


「わしらに会わせたい人物とは、一体何者なんじゃ?主の上官という話じゃったか?」



小春の質問にフランツは申し訳ない顔になる。



「いや、それが・・・上官は僕の話をまともに聞き入れてくれなくてね・・・。」


「あぁん?じゃ誰と会わせようってんだ、おめーは?」


「クドゥルス・マッコイ教授。王都の考古学者さ。」


「「「こ、考古学者ぁ?」」」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「教授、入りますよ。」



客間の机には、所狭しと本が山積みにされている。

その山の中央に、ノートを広げ本とにらめっこをしている太った男がいた。

多少額が上がり、脂ぎった髪の太ったメガネの男は、一心不乱に本を読み、何かをノートに書き記していた。



「教授、例の者たちを・・・」


「フランツ君、あああ、あの、あのね、あの、

もももう少し、あと少しちょっとだけ待ってくれ。今ね、今現在、そうこの瞬間も現在進行中で、すごくすごーく良いところなんだよ?うん、そうそう、あとね、あとそうだね、うんそう、あと半日くらい、そうだね、半日ほど時間をもらっても良いかな?アーノック家の貯蔵書庫に、こんなにも、僕を楽しませてくれる古書が、うん、古い書という意味の古書ね。古書が眠っていたなんて・・・そもそも、うん、フランツ君、こんなにも貴重で希少で素敵なものを隠していたなんて・・・早く僕に迅速に僕に僕に言ってくれれば・・・いやいや、うん、そうだ、こんなにも綺麗に大事にしてくれいたことを感謝すべき、そうだアーノック家の几帳面なまでの保存に感謝しなければならないであろう、いや、すべきだね。

フランツ君、君はこの古書、あ、古い書の意味のね、古書の価値を真に理解して・・・」


「おいフランツ、この生き物は何だ?」


「ははっ、この方が王都が誇る考古学者のクドゥルス・マッコイ教授、キミたちに会ってもらいたかった人物さ。」


「こ、こいつが・・・?」


「そもそも、うん、古書と古書というのはだね・・・」



尚もノートを書き続けながら話し続けるクドゥルスをカイトは白い目で見る。



「おい、喋るか書くかどっちかにしたらいーんじゃねーか?作業効率が悪いぜ?」


「ふむ、一理、一理あるね。うん、一理ね。一理だけね。そう一理だけだよ。同感だね。うん、同じ考えという意味の意味の同感だね、うん、そう、君に同感だよ。

全くをもって同感だ。

確かに確かに、記録と説明を並することは・・・はて、ところで、君はいつかどこかで会ったことがあったかな?」



ようやく顔をあげたクドゥルスがメガネを上げながらカイトを認める。

その目はぼんやりしていて、とても権威ある教授には見えない。



「いんや、初めましてだよ、クドゥちゃん?」


「ちゃん?それは、うん、女子や子供につける愛称として用いられるものだね、うん、そう、間違いない。あ、もしくは男子でも、そう、親しい仲の間では用いられることがあるね、うん。それでは、君は僕を親しく考えている、うん、そういうことで良いのかな?」


「こ、こら、カイト君!クドゥルス教授は王国を代表する偉大な研究者なのだよ?控えてくれ!

申し訳ありません、教授。

この不躾な男が例の男カイトです。」



そうフランツが言うと、クドゥルスの目が鋭く、そしてメガネがキラリンと光った。



「彼が・・・。」


「おいみんな見たか!?クドゥちゃんのメガネ光ったぞ!」


「では、そちらの少女、幼い女の意味の意味ね、その少女が魔女、うん確かに確かに。そしてそれから、そちらの狼が神狼族で獣王、獣の王様ってことね、うん、なるほど、その風格風貌、ふんふん。なるほどなるほど。そして・・・」


「お、俺は一般人っすよ!?」


「ゾディアック家の末裔、血縁の末、子孫という意味だけど間違い勘違いではないよね?うん、そう、それで良いんだよね?確認だけど良いんだよね?そうだよね?」


「え?はい、まぁ、そうっすけど・・・。」



カイト、小春、カブレラ、そしてタマルを順に見詰めたクドゥルスが俯いてふるふる震える。



「きょ、教授?」


「おいおい、こいつ大丈夫なんかよ?」


「素晴らしい!!」


「うわっ!急にでかい声出すんじゃねーよ!」



ガバッっと顔をあげるクドゥルスの顔は歓喜そのものであった。



「おっと、失礼。聞いていた嬉しい事実を目の前にして気が逸ってしまった。いやはや、興奮すると言葉がくどくなってしまってね。

いや、しかし、しかしなのだよ。分かるかい?解ってもらえるかな?いや、判ってもらいたい。そうだ、そうであって欲しい。

伝説、お伽噺、寓話。そんなね、今は存在しない、現存しないものを調査研究して早30年。早といってもその年数を経るには時間がかかるんだよ。うん、ざっと30年はかかったんだよ。

それだけの年数をかけて、その生ける標本、いや失礼、標本と言ったら失礼だね、う~ん、うん、そうだ、モルモットが存在していたなんて、正に、うん、人生の到達点のような心持ちなのだよ。」


「言い直して余計酷い言われ方になってんぞ。

おい、こいつマッドサイエンティストじゃねーだろな?解体されたくねーって言っただろが?」


「安心してくれカイト君。そのマッドなんとかはよく分からないが、教授は解剖学の心得はないはずだよ。」


「あのね、あの、あのねフランツ君。解剖学はだね、専門としていないだけであって、決してね、決してできないなんて、そんなことはね、ないの、うん、そう、ないのだよ。」



そう言うクドゥルスのメガネがまたもやキラリンと光る。



「いちいちメガネ光らせんな!色々怖いわ!」


「で、この太っちょが何じゃというのじゃ?」


「こ、こら!小春君も失礼なことは言わないでくれたまえ!

先ほど話した通り、クドゥルス教授は考古学者で、とりわけ五千年前の聖戦関係が専門なんだ。

つまり、古の魔神などについて最も深い知識を持つ方が教授というわけなんだ。

キミたちのことについて、教授なら解明できることもあるんじゃないかと思ってご足労頂いたんだ。

・・・だから、失礼な態度は控えてくれ。特にカイト君。」



フランツがジロリとカイトを一瞥する。



「あんだぁ!?人をマスター失礼の如く言いやがって!お前の方が失礼だっつーの」


「「確かに。」」



タマルと小春の声が被る。



「お前ら、その同調はどっちにしてんだ!?」


「それは、うん、そうだね、それはだね、話の流れからするとだね、フランツ君の意見に同調していると、僕は推定推測するね、うん。」


「ありがたくない解説あんがとよ、クドゥちゃん。

んで?お前が何か教えてくれんのかよ?」


「その前に、まずは君たちのことを是非是非、是が非でも聞かせてもらいたい。うん、まずはね、まずはそれが必要不可避、そして僕の願望、願いって意味ね。」


「願望に願い以外の意味あんのかよ・・・。うしっ、こんなときこそお前の独壇場だぜ!」


「えー!?また俺っすか!?」



バンと背中を叩かれたタマルが不満顔をする。



「そーだよ、我が語り部よ!」


「そんな通り名要らないっすよ!」


「タマル君、頼むよ。この男に期待はできん。」


「結構長い話になるじゃないっすか、俺も話すのしんどいんすよ・・・。」


「お前、話すの上手なんだからよ、俺が話すよりもよーく伝わんだよ、なぁフランツ?」


「む?そ、そうだね、タマル君の滑らかで且つ淀みのない論理的な説明のお陰で、僕もキミたちの境遇を理解することができたんだ。」


「そ、そうなんすか?そんなことないと思うんすけど、い、いやぁ、照れるっす!」



顔を赤らめるタマルが満更でもなさそうな雰囲気になる。



「いいや、そんなこと大アリさ。だからこそ、キミに頼んでいるんだ、タマル君。」


「そーだぞぉ、タマル。いよ!この語り部大将!」


「わっかりましたっす!!不肖このタマル・ゾディアックがカイさんと俺たちの今までを、教授にお伝えするっす!」



(ふっ、チョロいな・・・)


(よし、旨いもん食って煙草吸って寝よーっと)



カイトとフランツに乗せられて、鼻の穴を広げたタマルがクドゥルスにこれまでの経緯を話し始めたのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「・・・というわけで、カブレラちゃんが俺らに着いてくることになったんすよ。」


「なるほどなるほど。ふむふむふむ・・・」



タマルの話が長いことに加え、クドゥルスが記録する時間が必要だったため、カブレラ合流の話を終える頃には燦々とした朝日が昇りきっていた。

長時間にも関わらず、タマルの話を聞き終えたクドゥルスの顔はアドレナリンが出ているかのようにハツラツとしたものだったが、一方のタマルはといえば、瞳の大きさが半分以下となってしまっていた。



「これで俺の話は終わりっす・・・ふぁ~、ね、眠い・・・」


「うんうん、興味が尽きないね。だがしかし。だがしかしでだね、ごめん、うん、先に謝っておくけど、質問があってね。しかもね、しかもしかも、うん、最低500くらいはね、質問が山の如しなんだ。それは正に、正に正に正に山の如くね。

うん、そうだね、まずは真っ先に聞きたいことはだね」


「あ、あのぅ教授、盛り上がっているところ、申し訳ないのですが・・・」


「ちょ、ちょちょちょちょっと質問は待ってもらえないかなかなかなフランツ君?まずは、そう、まずは第一に率先してだね、タマル君の話の疑問点を追及且つ解決しないと・・・」


「そのタマル君が寝ているのです・・・いえ、他も・・・カイト君も小春君もカブレラ君も・・・皆、爆睡しているのです。」



フランツの指摘を受けたクドゥルスが周囲を見渡すと、話をしていたタマルはソファーに背中を預けたまま大口を開けて寝ており、小春はカブレラに寄りかかって寝息を立て、寄りかかられたカブレラは身体を丸くして目を閉じていたのだった。



「タマル君は勿論、小春君やカブレラ君は寝落ちということで理解できるが、この男は・・・」



フランツの険しい目線を受けるのは、言うまでもなくカイトである。

話をするタマルを尻目に、メイドが差し出す食事や酒を平らげ、煙草を吸って満足すると、無言でソファーに横になってイビキをかいていたのだ。

エステルのことが負い目になっているため注意ができないでいたが、カイトの不遜な態度にフランツはお冠状態であった。



「全く、こんなに礼儀も遠慮も欠いた者は初めてだ!」


「ふむふむふむ、さすがに皆消耗していたようだね。

しかし、あれだね、うん、王国の閃光にそこまで言わしめるとは、魔神転生体は大したもの、うんうん、それに、そんな楽しげな君も珍しい。」


「い、いえ、決して楽しくなんて・・・」


「あぁ、良い良い良い良い良いのです。皆までね、皆まで言うほど僕だって無粋、あ、人の情けに疎いことね、無粋じゃないよ、うん、野暮だね、それは、情けの機微に疎いことね、あ、これ無粋の類語ね。」



そう言うクドゥルスは、書き記していたノートをパタンと閉じた。



「ふむ・・・フランツ君。僕に時間をくれないか。」



淀むことなく言葉を話すクドゥルスは、緊張していることの表れであり、そのことを知るフランツにも緊張が走る。



「それは構いませんが・・・やはりまずいことが?」


「フランツ君、君は上官に彼らのことを話したと言ってたね?しかし、聞き入れられなかったとも。」


「えぇ、その通りです。」


「僕の今までの研究とタマル君から聞いた話を比較・検討し、僕の論文、いや頭の堅い高官にも理解しやすい報告書を作るよ。そのために時間が欲しい。

・・・そうだね、二週間いや、10日間で何とかする。

その間、折を見て、彼らが僕の研究室に来てもらえるように便宜を図ってくれないかい?彼らの調査も突き詰めたいんだ。」


「報告書、ですか。それは助かりますが・・・良いのですか?教授の研究が政治に使われてしまうかもしれまそんよ?」


「好ましいことではないね。だが、僕の好き嫌いに構っていられる次元ではないのだよ。事態はそれほど切迫している、と僕は考えている。

・・・最低でも、陛下の元まで知らせるべき案件だとね。」


「!?そこまで・・・分かりました。彼らのことは任せて下さい。」


「・・・もう一つ頼みたいことがある。」


「それは・・・?」


「ヴァルキュリア教国。」


「!?」


「・・・戦女神についての情報が欲しい。」


「教授は、カイト君と戦女神に関連があると考えている、ということですか?」


「それも加味せざるを得ないだろう。どうだい、不可能かな?」


「国家機密にかかることなので・・・しかし、了解しました。情報を整理次第でよろしいでしょうか?」


「無理は承知で頼んでいるが、なるべく急いでくれ。」


「・・・承知しました。」


「グガ!・・・ぐーぐー・・・」



その時、カイトのイビキが客間に響き渡った。



「こ、この男は・・・緊張感を台無しに・・・そういえば、戦女神の話を聞いたカイト君の態度がおかしかったな・・・」



フランツがフラケンでのカイトの様子を思い出すと、クドゥルスのメガネがキラリンと光った。



「ほぅ、それはどういう?」


「そ、それは・・・」



生気の抜けたようなカイトの顔を思い出し、そんなカイトのことを教えることが躊躇われ、フランツは言い澱む。



「言いづらいことなら構わないさ。」


「も、申し訳ありません・・・」


「では、失礼させてもらうとするかな。」



クドゥルスがノートや古書をしまいこんで、席を立った。背中のリュックサックはパンパンに膨れている。



「では、よろしくお願いするよ。」


「は、はい。ご足労頂きありがとうございました。」


「あ、見送りはいいから。」



そう言って客間の扉に手をかけたところで、その動きが止まる。



「・・・歴史の大変動の局面に我々は直面するかもしれない。そんな一大事ではあるが・・・僕も、うん、僕も微力ながら、あ、あれね、小さい力って意味で謙遜こめてね、うん、微力微力微力微力ながらも、ながらも協力したいと、うん、そう思い考えているのだよ、だよ。

友人を救いたいという君の友人を、そしてそんな彼らを助けたいという君をね。」


「教授・・・ありがとうございます・・・!」


「あ、それと君の古書、あ、古い書の意味のね、少し・・・数日、いやしばらく、しばらーく拝借するね、しばらくとはすなわち・・・うん、そうだね・・・それはつまりだいたい・・・」



考える素振りを見せながら、クドゥルスは静かに客間からフェイドアウトしていった。



「・・・ふっ、さすが教授、一筋縄ではいかんな・・・さてと・・・」



見渡す客間には、相も変わらず一行が夢の中であった。



「休息をとりつつも、今後何が起きても対応できるように態勢を整えねばね・・・。しかし、気持ち良く眠る連中だね・・・。」




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